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第35話 滅界の魔神、本気

ドクン――。


裂け目の奥で脈動する魔神王の気配。

その圧倒的な存在感に、誰もが息を呑む。


だが――。


《見るな》


低い声が響いた。


武たちは反射的に視線を戻す。

そこにいたのは滅界の魔神。黒い翼を広げたまま、静かに立っている。


《王を直視する資格はまだない》


その言葉と共に、凄まじい闇の魔力が噴き上がった。


ゴォォォォォォォ!!


地下神殿が激しく揺れる。

先ほどまでとは明らかに違う。魔力量が桁違いだった。


「まだ上がるのかよ……」


アレクの顔が引きつる。

ルシエラも険しい表情を浮かべた。


「先ほどまで本気ではなかったということですか……」


《当然だ》


滅界の魔神が答える。


《王の復活が近い今、我が力を隠す理由もない》


バキバキバキッ――。


黒い装甲のような皮膚が砕け始める。

その下から現れたのは、さらに濃密な闇。


人型だった身体は、徐々に巨大化し始めていた。


十メートル。

二十メートル。

三十メートル。


やがて神殿の天井に届くほどの巨体となる。


少女が息を呑んだ。


「まさか……」


アレクが尋ねる。


「知っているのか?」


「古代文献にあった……」


少女の声が震える。


「滅界の魔神の第二形態……」


《滅界解放》


その瞬間――。


世界が暗くなった。


光が消える。

音が消える。

色さえ失われる。


武は目を見開いた。

自分の黄金の光ですら押し潰されそうになっている。


《界護人》


巨大な魔神が武を見下ろす。


《見せてみろ》


赤黒い瞳が輝いた。


《貴様の意志を》


直後――。


魔神の姿が消えた。


「っ!?」


武の身体が吹き飛ぶ。

反応すらできなかった。


地下神殿の壁を突き破り、数百メートル先まで叩きつけられる。


「がはっ!」


血を吐く。

骨が軋む。

第二覚醒しているにもかかわらず、この威力だった。


《遅い》


再び目の前に現れる魔神。

拳が迫る。


武は咄嗟に剣で受けた。


ドォォォォォン!!


衝撃で地面が消し飛ぶ。

だが防ぎ切れない。身体が沈む。膝が砕けそうになる。


「タケル!」


ルシエラが援護魔法を放つ。

数百の光弾。


しかし――。


《邪魔だ》


滅界の魔神が手を振る。

たったそれだけで光弾は消滅した。


アレクが飛び出す。


「舐めんな!」


魔剣が振り下ろされる。

凄まじい斬撃。


だが――。


ガキン!


指一本で止められた。


「は?」


アレクの顔が固まる。


《弱い》


蹴り飛ばされる。

アレクが地面を転がった。


ルシエラ。

アレク。

古き魔王。


三人がかりでも止められない。

絶望的な力の差。


武は立ち上がる。

身体中が悲鳴を上げている。


それでも剣を握る。

諦めるわけにはいかない。


歴代界護人たちの言葉が脳裏に浮かぶ。


――未来を守れ。

――俺たちの続きを。


武は深く息を吸った。


胸の紋章が再び輝き始める。


ドクン――。

ドクン――。


『適合率上昇』


頭の中に声が響く。


『第三覚醒条件接近』


武が目を見開く。

まだ足りない。だが確実に近付いている。


滅界の魔神はそれに気付いたのか、僅かに笑った。


《そうだ》


《もっと抗え》


《絶望の先にこそ、お前の力はある》


そして魔神は再び構える。

武も剣を握り直した。


地下神殿を震わせながら、第二ラウンドが始まろうとしていた――。

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