ホワイトデーの戦慄!の巻!
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ホワイトデーだった。
「お返ししてくれるわよね〜?」
ギテルベウスは凄絶な笑顔でソンショウを威嚇した。
今日は派手で濃いメイクだ。美人だが、ハロウィンの夜に現れる魔性のようでもある。
「へ、へい……」
翔は蒼白な顔だ。ギテルベウスにはホワイトデーのお返しとして、回らない寿司を欲求されていた。
「翔、俺もついていく」
凱は翔に呼びかけた。二人は祖父同士が兄弟であり、遠い親戚になる。
同い年だが、凱の方が数ヶ月早く産まれた。なので、翔は凱を兄貴と呼ぶ。
「わ、私も行きます!」
凱の恋人ゾフィーもついてきてくれるという。
「ふ、二人の時間を……」
蒼白な翔は涙ぐんだ。
凱もゾフィーも今日のホワイトデーのために、スケジュールを調整していたろうに。
「お寿司食べに行こうって誘われまして……」
ゾフィーはギテルベウスにそう言われたという。二人は友人でもある。男女四人には不思議な縁があった。
「へいへい」
翔の顔つきは変わった。開き直りか、やけになったか。何にしても真剣な眼差しが凱とゾフィーには頼もしい。
「男の意地だ!」
翔の気合も空回りか。ギテルベウスという狂気的な彼女と、なぜつきあうのか。
それが男女の絆の妙か。敵対しあう者が男女に分かれて、惹かれあう――
宇宙の意思は、争いすら愛に変えるのか。
ホワイトデーにも守護者はいるはずだ。
ホワイトデーの概念と存在の意義を守る守護者が。
しかし、姿を見せない。
超越の存在は、高次元から男女の絆を微笑ましく見つめているのかもしれない。
「おやっさん、あれとそれとこれ握って!」
ギテルベウスは寿司屋のカウンターで次々と注文した。
ガラスケースの中には、本日のオススメのネタが並んでいる(※時価)。
「あいよ」
口数少ない店主は黙々と寿司を握る。
それを豪快に食い散らしていくギテルベウス。
欧州系の美人だが残念だ。
彼氏の翔は、さっきから茶しか飲んでない。
凱とゾフィーはお任せ握り(おトクな値段でリーズナブル)を食べながら、横目で二人の様子を眺めていた。
「俺は負けねえ!」
翔は燃えていた。
必ずやギテルベウスの性根を打ち砕くのだ。
それが男の甲斐性というものだ。
「ひょ、ひょ、ひょ……」
ギテルベウスは翔を見つめて不気味に笑った。
その妖しい微笑は、正しくハロウィンの夜に現れる魔性そのものだった。




