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虚無戦線  作者: MIROKU
ラグナロク
87/99

ホワイトデーの戦慄!の巻!


   **


 ホワイトデーだった。


「お返ししてくれるわよね〜?」


 ギテルベウスは凄絶な笑顔でソンショウを威嚇した。


 今日は派手で濃いメイクだ。美人だが、ハロウィンの夜に現れる魔性のようでもある。


「へ、へい……」


 翔は蒼白な顔だ。ギテルベウスにはホワイトデーのお返しとして、回らない寿司を欲求されていた。


「翔、俺もついていく」


 凱は翔に呼びかけた。二人は祖父同士が兄弟であり、遠い親戚になる。


 同い年だが、凱の方が数ヶ月早く産まれた。なので、翔は凱を兄貴と呼ぶ。


「わ、私も行きます!」


 凱の恋人ゾフィーもついてきてくれるという。


「ふ、二人の時間を……」


 蒼白な翔は涙ぐんだ。


 凱もゾフィーも今日のホワイトデーのために、スケジュールを調整していたろうに。


「お寿司食べに行こうって誘われまして……」


 ゾフィーはギテルベウスにそう言われたという。二人は友人でもある。男女四人には不思議な縁があった。


「へいへい」


 翔の顔つきは変わった。開き直りか、やけになったか。何にしても真剣な眼差しが凱とゾフィーには頼もしい。


「男の意地だ!」


 翔の気合も空回りか。ギテルベウスという狂気的な彼女と、なぜつきあうのか。


 それが男女の絆の妙か。敵対しあう者が男女に分かれて、惹かれあう――


 宇宙の意思は、争いすら愛に変えるのか。






 ホワイトデーにも守護者(ガーディアン)はいるはずだ。


 ホワイトデーの概念と存在の意義を守る守護者が。


 しかし、姿を見せない。


 超越の存在は、高次元から男女の絆を微笑ましく見つめているのかもしれない。






「おやっさん、あれとそれとこれ握って!」


 ギテルベウスは寿司屋のカウンターで次々と注文した。


 ガラスケースの中には、本日のオススメのネタが並んでいる(※時価)。


「あいよ」


 口数少ない店主は黙々と寿司を握る。


 それを豪快に食い散らしていくギテルベウス。


 欧州系の美人だが残念だ。


 彼氏の翔は、さっきから茶しか飲んでない。


 凱とゾフィーはお任せ握り(おトクな値段でリーズナブル)を食べながら、横目で二人の様子を眺めていた。


「俺は負けねえ!」


 翔は燃えていた。


 必ずやギテルベウスの性根を打ち砕くのだ。


 それが男の甲斐性というものだ。


「ひょ、ひょ、ひょ……」


 ギテルベウスは翔を見つめて不気味に笑った。


 その妖しい微笑は、正しくハロウィンの夜に現れる魔性そのものだった。

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