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クリスマスに向け、ヒューイットは挑戦を開始した。
「ふおおおお!」
長い黒髪に線の細い、美しくも儚げな容姿のヒューイット。
彼女は刃渡り一メートル以上の長大なチェーンソーで、巨大なモミの木の枝葉を手入れする。
高さ五メートル以上のモミの木へ、ハシゴを用いて高所へ登り、チェーンソーで余計な枝葉を切り落とす……
彼女にしかできない事だ。
「待ってて、ケーン!」
ヒューイットは彼氏の名前を叫んだ。
クリスマスには、この巨大なモミの木も豪華なクリスマスツリーになっているはずだ。
グレースとイブの二人は、大学が冬休み期間に入ったので、短期のアルバイトを始めた。
「いらっしゃいませー!」
ケーキ屋さんの店頭で、サンタに扮したグレースとイブ。
道行く若者が、二人をチラチラ見ている。
「クリスマスケーキいかがですか〜?」
グレースの笑顔は輝いていた。
バレンタインの概念と存在の意義を守る守護者「バレンタイン・エビル」。
それがグレースの正体だ。
「ご、ご予約すると特典がつきますよ〜」
イブはグレースの隣で声を出す。笑顔が固い。
グレースより美人でスタイルもいいイブだが、男性受けは悪いようだ。
「何よそれー! うっせーわー!」
イブは店頭から駆け出した。
「ちょっとイブ、どこ行くのー?」
グレースもイブにばかりかまってはいられなかった。
彼女の前には長蛇の列ができていた。グレースは予約受付で忙しくなった。
しばらくすると「カオス」の軍勢が街中に現れた。
「やってられっか、ボケー!」
軍勢を率いるのは、肌の露出が多い衣装に身を包んだイブである。
ワイン瓶をラッパ飲みする彼女は、女子短大生であると同時にカオスに選ばれた者でもある。
「はい、ではこちらに連絡先を……」
グレースは焦っていたが、予約を受け付けなければいけなかった。
男性客は照れた様子でグレースにケーキの予約を申し込んでいく。
今はWEB注文が主流だが、人と人が向き合うという事には意味があるのだ。
WEBは人を孤立させていく――
「なんだよ、ちくしょー!」
イブは悔し涙を流した。
世の男性は、カオスの軍勢の脅威より、グレースの笑顔の方に関心があるようだ。
「……おい。おい。飲み行くかー?」
イブに声をかけたのは、グレースに仕える三勇士の一人、狼男のアローンだ。
「おごれよ!」
イブは泣きながらアローンに振り返った。
「はあー、疲れた〜」
「お疲れさまです、姫様!」
「今日もお見後でした」
帰宅したグレースは、猿型妖精ジェットと犬型妖精ブルと共に、お風呂で汗を流した。
「あれ、そういえばアローンは?」
グレースはジェットとブルの頭を洗いながら、アローンの姿が見えない事に、今頃気がついた。
「なぁ〜によ〜、敵役がいてこその正義の味方でしょ〜?」
「へいへい……」
酔っぱらったイブを背負い、居酒屋からの帰路につくアローンは苦笑した。
どちらも世話焼きの苦労人、敵と味方で似た者同士だ。




