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虚無戦線  作者: MIROKU
クリスマスまでだからね!
68/99


   **


 クリスマスに向け、ヒューイットは挑戦を開始した。


「ふおおおお!」


 長い黒髪に線の細い、美しくも儚げな容姿のヒューイット。


 彼女は刃渡り一メートル以上の長大なチェーンソーで、巨大なモミの木の枝葉を手入れする。


 高さ五メートル以上のモミの木へ、ハシゴを用いて高所へ登り、チェーンソーで余計な枝葉を切り落とす……


 彼女にしかできない事だ。


「待ってて、ケーン!」


 ヒューイットは彼氏の名前を叫んだ。


 クリスマスには、この巨大なモミの木も豪華なクリスマスツリーになっているはずだ。






 グレースとイブの二人は、大学が冬休み期間に入ったので、短期のアルバイトを始めた。


「いらっしゃいませー!」


 ケーキ屋さんの店頭で、サンタに扮したグレースとイブ。


 道行く若者が、二人をチラチラ見ている。


「クリスマスケーキいかがですか〜?」


 グレースの笑顔は輝いていた。


 バレンタインの概念と存在の意義を守る守護者(ガーディアン)「バレンタイン・エビル」。


 それがグレースの正体だ。


「ご、ご予約すると特典がつきますよ〜」


 イブはグレースの隣で声を出す。笑顔が固い。


 グレースより美人でスタイルもいいイブだが、男性受けは悪いようだ。


「何よそれー! うっせーわー!」


 イブは店頭から駆け出した。


「ちょっとイブ、どこ行くのー?」


 グレースもイブにばかりかまってはいられなかった。


 彼女の前には長蛇の列ができていた。グレースは予約受付で忙しくなった。






 しばらくすると「カオス」の軍勢が街中に現れた。


「やってられっか、ボケー!」


 軍勢を率いるのは、肌の露出が多い衣装に身を包んだイブである。


 ワイン瓶をラッパ飲みする彼女は、女子短大生であると同時にカオスに選ばれた者でもある。


「はい、ではこちらに連絡先を……」


 グレースは焦っていたが、予約を受け付けなければいけなかった。


 男性客は照れた様子でグレースにケーキの予約を申し込んでいく。


 今はWEB注文が主流だが、人と人が向き合うという事には意味があるのだ。


 WEBは人を孤立させていく――


「なんだよ、ちくしょー!」


 イブは悔し涙を流した。


 世の男性は、カオスの軍勢の脅威より、グレースの笑顔の方に関心があるようだ。


「……おい。おい。飲み行くかー?」


 イブに声をかけたのは、グレースに仕える三勇士の一人、狼男のアローンだ。


「おごれよ!」


 イブは泣きながらアローンに振り返った。






「はあー、疲れた〜」


「お疲れさまです、姫様!」


「今日もお見後でした」


 帰宅したグレースは、猿型妖精ジェットと犬型妖精ブルと共に、お風呂で汗を流した。


「あれ、そういえばアローンは?」


 グレースはジェットとブルの頭を洗いながら、アローンの姿が見えない事に、今頃気がついた。






「なぁ〜によ〜、敵役がいてこその正義の味方でしょ〜?」


「へいへい……」


 酔っぱらったイブを背負い、居酒屋からの帰路につくアローンは苦笑した。


 どちらも世話焼きの苦労人、敵と味方で似た者同士だ。

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