十三輪目 映画
人々の不自然な眼差しに耐えられなくなってきた京香。しかし、もう帰ろうと思った矢先、向こうからパタパタと足音が聞こえた。
「ごめん京香さん!待った!?あ!その服で来てくれたんだ。似合ってるよ!可愛いね!」
挨拶をかえす間髪さえいれず、服について触れられてしまった。
「ご、ごめん。こんな格好でくるつもりじゃなかったの。着替えてくるからチョット待ってて」
振り返り、コンビニ前から立ち去ろうとすると、葵に腕を掴まれた。そして柔かに映画館に連れて行かれた。
そして気が付いたら、席についていた。スクリーンにはまだCMが流れている。それまで2人は口を聞かなかった。前を向いて、手は膝の上。ただ時が流れた。それから数分後、照明が暗くなり始めた。と、同時に葵はふいに京香の耳元で囁いた。
「似合ってるって言ったじゃん」
耳に吐息がかかり、そして、また耳元をやられたことに悶絶した。葵を見返したが、暗くて表情がつかめなかった。
が、直ぐにまたCMが始まった。カッコつけたはずの葵は手で顔を隠し、うずくまっていた。それをみた京香は、気恥ずかしさよりも可笑しさが上回り、小さく腹を抱えた。




