十一輪目 約束
いつも通り、三人で帰ろうとしてる、とある金曜日。
「ごめんね、私用事があって今日一緒に帰れないや」
帰り支度を整えている2人に、古都葉がそう告げる。
「何かあったの?」
「い、いやなんでもないよぉ?」
「そー。なんか怪しいけど」
「じゃあ、帰ろっか京香さん」
その言葉で、再度謝りつつ古都葉は去っていった。
帰り始めて、屡々(しばしば)静寂が続いた。こういう時、話題提供というか話のキッカケを作っている古都葉さんは凄いな。と葵は内心感心していた。が、このままでも良く無いので、なんとか話始めた。
「あ、もしかして、2人で帰るのは初かな?」
「あー、そうかもしれないね。」
「なんか2人っきりだと、緊張しちゃうね」
そうだねーと、笑いながら喋っているが、京香はそれを上回る緊張に襲われていた。そんな中、葵から突然こんな事を言い出された。
「急なんだけどさ。あ、あの京香さんさえよければ。あ、、、違う!……今週の土日、どっちか空いてる?」
「え、別に暇だけど……」
「じゃあ!2人で映画見に行かない?」
京香は、緊張が吹っ飛んだ。いや、正確には、緊張の糸が引っ張られ過ぎて切れた。心臓から送られてくる血流が早過ぎて、ドキドキが止まらない。そんなことさえ頭から消えていた。
「ダメ……かな」
「いいよ」
「え?ほんと!?」
「全然いいよ」
「ほんとに!??」
「うんうん。ほんとほんと」
京香は棒読みして返した。その後は、葵が喜びながら、詳細は後日連絡すると言って2人は別れた。
家に着いた京香は、まだ理解出来ずに、古都葉に電話した。
「ね、ねぇ。なんか葵のやつに、映画見に行こうって誘われたんだけど」
「えー?行ってくればいいんじゃない?友達でしょ?」
「そ、それなら古都葉も連れて行っていいのかな」
「けど2人でって言われたんでしょ?」
「うん……」
「頑張ってね〜」
えっ、どういうこと!?と聞き返す間もなく、通話終了の文字が浮かび上がった。そして古都葉は最後までクスクスと笑っていた。