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最終話 親友のそれから

 今も鮮明に脳裏に焼き付いている、涙の声、言葉、笑顔。あれから3年の時が経った今も、一向に色褪せない記憶。忘れたくない、否、忘れてはいけない、記憶。

 涙と初めて出会ったのは小学生の時だった。隣の席になったのがきっかけで、そのまま何となく一緒にいるようになった。やがて中学校に入り違う小学校出身の子達と仲良くなって、その中で一番親しくなったのが美衣子だった。

 涙は本当に明るい子で、話す度、ああこの子と友達になれて良かったなと心から思った。美衣子は優しくて可愛くて、話す度に癒されて幸せな気分になれた。

 そんな自分達の関係が崩壊したのは、3年前。あんなに強いと信じていた絆は、非道く簡単に崩れ去った。

 何故、あたしはあそこで涙や自分達の行動を止められなかったのだろうかと思う。どうして協力してしまったのだろう。どうして他に協力者を募ってまで美衣子を虐げようとしたんだろう。

 中学生とはいっても、きっとあたしたちはまだまだ精神的に未熟で幼いところがあった。それが全ての悲劇へ繋がったのだ。

 涙を傷つけた美衣子を憎み、美衣子を殺した涙を憎み、今は自分自身を強く強く憎んでいる。しかしたったひとつ、涙や美衣子を憎んだ時と違うのは、どれだけ憎んでも、あたしは自分を殺せないという事実。他人にはどれだけ残虐なことをしても平気だった癖に、自分に対してはとんでもなく甘いのがあたしという人間だ。

 あたしがあの2人の問題に関与しようとしてしまった時点で歯車は狂い出していたのだ。2人の問題は2人だけで解決させるべきだった。もしあの時点であたしが涙に協力しなかったら? そうしたら何か変わっていただろうか。少なくとも、誰も死なずに済んだだろうか。

 あたしは殺人者だ。涙を殺した。親友を殺した。でも学校関係者も両親も警察もその事には気付いていない。その代わりに、涙が死んだ翌日、小さく「女子中学生 足を滑らせ校舎から転落」という見出しの入った新聞が届いた。

 本当は全てを吐き出して楽になりたい。涙を殺したのは自分だと白状して逮捕され、服役して自分の罪を償った気分になれればいい。

 でも、駄目だ。それだけは絶対にしてはいけない。この罪は一生かけても償いきれない。懲役何年とか何十年とか、その程度で罪を償ったつもりになってはいけないのだ。

 瞼を閉じて小さく息を吐き出す。涙の声、言葉、笑顔。美衣子の声、言葉、笑顔。ずっと変わらず2人の笑顔を見ていられると考えていた、あの頃のあたし。

 涙を殺したのはあたしだ。美衣子が死んでしまったのも、元を返せば涙を止められなかったあたしの責任だ。それなら一番の加害者は自分自身ではないのだろうか? そうだとしたら、あたしはこの先どれだけの時間を掛けて2人分の罪を償わなければいけないんだろう。

死んでしまいたい。

 その考えは何度も思いついて、すぐに意識の奥底へ沈下する。怖いのではない、悲しいのだ。そんな事を思いついてしまう自分自身がただ情けなくて、涙が止まらない。

 他のみんなもそうなのかも知れない。京子も奈々も棗も、それからクラスのみんなも。自分の犯した罪が恐ろしくて堪らないのかも知れない。でもみんな、死ぬことを我慢して生きている。生きているならまだしも、もうこの世に存在しない人間に謝罪する為に命を失ってもそれはただの逃げだと、あの2人に対する最大の侮辱だと、みんな頭の片隅で理解しているんだ。

 夜中に何度も魘されては目を覚ます。あたしはどこで間違ったのかと必死に考える。

 答えは未だ見つかっていない。

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