第78話 手紙
涙が自分の気持ちに気づいてから、1週間の月日が経過した。しかし、あれから涙は屋上に訪れていない。気まずい思いをするのが嫌で、どうしても行けなかった。あんなに酷い事を言った後なのに、どんな顔をして会えば良いのだろう。
この1週間、依然としてクラスメイトからの嫌がらせは続いていたが、今は棗の事で頭がいっぱいで、正直言ってそれどころではなかった。
この日も涙はいつも通り登校し、下駄箱に足を運んだ。上履きの中にいくつか画鋲が入っている。上履きを逆さにして、中に入っていた画鋲を床に落とした。
その時、靴の中から画鋲と一緒に小さな紙切れが落ちてきた。四つ折の紙。ノートか何かを破ったものらしい。新しい嫌がらせの手かとも思ったが、一応開いて確認してみる。文面を読んだ涙は目を見開いた。
それは棗からの手紙だったのだ。
『葉山先輩、今日の放課後、下校時刻が過ぎてから屋上に来てください。話したいことがあります。岸本棗』
心臓が破裂しそうになるほど速く脈打つ。頭がぐらぐらして、立って居られなくなった。
下駄箱に寄り掛かって、うっとりと溜息を吐く。
棗が誘ってくれた。棗も自分に会いたいと思ってくれていたに違いない。
涙はそっとその手紙を胸に当てると、明るく笑みを浮かべて教室に向かった。
***
その日は1日中何度も時計を確認した。こんな時は時間が遅く流れているような錯覚に陥ってしまう。
クラスメイトからの暴言や嫌がらせを受けても何をされても、この日は全く気にならなかった。
放課後に待っている幸せを想像すると、自然と頬の筋肉が緩んでしまう。こんなに嬉しくて幸福な気持ちになったのは、美衣子と雪山が死んだ日以来だった。




