第79話 屋上
下校を告げるチャイムが校内に鳴り響いた。ようやく待ちに待った放課後がやってきたのだ。
下校時刻を5分ほど過ぎてから、涙は席を立った。教室には誰も居ない。セピア色の教室は、昼間の騒がしさからは想像もつかないほど静かだった。
鞄を片手に、急ぎ足で屋上に続く階段を上っていく。屋上の扉が見えてくると、無意識のうちに階段を上るスピードが上がった。
そこを上れば、棗がいる。涙は扉に手をかけて、深呼吸をした。
「あ、先輩。来てくれたんですね」
扉を開けると、そこには棗の笑顔があった。
「棗!」
大きく手を振りながら、棗の方へ駆け寄る。棗はにっこりと微笑んで手招きをした。立ち入り禁止の札がかかったロープの向こうに、彼は立っていた。
涙は躊躇いもせずそのロープをまたぎ、棗の目の前へ向かう。
「すみません、いつものフェンスの場所じゃなくて」
棗は少し申し訳無さそうに俯いた。今涙たちが立っている場所は大分前にフェンスが壊れ、一歩足を踏み外したら落ちてしまいそうな状態だった。
涙は、棗が目の前にいることがとにかく嬉しくて、笑顔で首を横に振った。
「別に平気よ」
棗は嬉しそうに微笑んで、思い出したように両手を叩いた。
「そうだ、先輩。あの手紙、読みましたよね?」
「もちろん! これでしょ?」
ポケットにしまっていた手紙を棗に見せると、棗はそれを涙の手から取り、自分の制服のポケットにしまった。
「これは俺が持っておきますね。誰かに見られたら恥ずかしいですし」
棗のその台詞で、涙の心は跳ね上がった。あまりに自分勝手な妄想なので自重していたが、やはり、この雰囲気は告白なのだろうか。乾いた唇を舐めて棗を見詰めると、棗は優しげに微笑んだ。
「俺、先輩に言いたいことがあるって書いてましたよね」
「え、えぇ」
「えっと、実は……」
棗はそっと目を瞑り、すぐに目を開けると、涙の目を強く睨み付けた。
「会ってもらいたい人たちがいるんです」




