第6話 仲間
瑠夏と廊下に出たあたしは、一度教室の中を覗き込んだ。……美衣子はちゃんと課題をやり始めたみたいだ。美衣子は何かに集中している時、話しかけない限りずっと集中し続けているから、静かに行動すればあたし達の作戦に気付かないだろう。
瑠夏の手を握り締めて、先程出たほうとは違う扉から、再び教室内に入る。 扉のすぐ近くで、いくつかの女子の集団が集まって話をしていた。
「ねぇ、ちょっといい?」
その中でもいちばん明るい、クラスの中心的なグループを狙って、瑠夏が声をかけた。瑠夏の声に気づき、そのグループの中心人物である中山京子が首を傾げて此方を向いた。
「ん? どうかした?」
「あのさ、聞いて欲しいことがあるの! マジ、最悪な事があってさぁ!」
瑠夏が、音量は小さいけれど荒々しい口調で京子の方に詰め寄る。 そして、一旦あたしの方に視線を振ってきた。……あたしは、ワザと哀しそうな顔をして、静かに俯く。
「ねぇ、るぅ。……京子たちに言っても、良い?」
瑠夏が遠慮がちに尋ねてきたので(勿論元々打ち合わせておいた演技だけど)、あたしは少しだけ躊躇う素振りを見せた。
「え……でも、それはちょっと……」
あたしの様子がおかしいことに気づいた京子が、あたしの手を握り、優しい笑みを浮かべて、こう言った。
「なんか悩みでもあるの? 力になれないかもだけど、もし良かったら相談にのるよ? ね、みんな」
京子が問うと、グループの女子は、勿論だよ。と言って一斉に頷いた。 その優しさに、胸の中があたたかい気持ちでいっぱいになる。
「……ありがとう。でも、やっぱりあたしの口から話すのは辛すぎるよ……。だから、瑠夏、お願いできる?」
「うん、わかった。それじゃあみんな、るぅのかわりに話すからよく聞いてね。4日前のことなんだけど……、」
瑠夏はあたしの手を握りながら、みんなに4日前の出来事を話し始めた。京子と、そのグループの子達は、みんな時々頷きながら、真剣に話を聞いてくれた。
数分後、話を聞き終わった京子達は驚きの色を隠しきれない様子だった。 あたしの方を気まずそうに見ながら、必死に言葉を選んでいるようだ。
……重苦しい沈黙の後、京子が小さな声で、尋ねてきた。
「あの、……そ、それってもしかして、美衣子が……るぅを裏切ってたって事なの?」
「……。やっぱり、そうなるよね」
あたしはそう言って、力無く笑った。 頑張って泣くのを我慢してたのに、夕焼けに染まった2人の幸せそうな笑顔が脳裏を掠めて、何故か分からないけど、すごく惨めな気分になった。 気がつくと、両目からは大粒の涙が溢れ出していた。しゃくりあげながら泣くあたしに、京子がそっとハンカチを差し出してくれる。それを受け取って涙を拭いながらお礼を言うと、京子は唇を噛んで、言った。
「美衣子って酷いね。あたし、美衣子がそんな子だなんて知らなかった……。るぅ、もう大丈夫だよ。あたしたちみんな、るぅの味方だからね。だから、安心していいよ」
京子のその言葉で、またあたしの目には涙が浮かんだ。 涙が止まらない。優しい気持ちが、こんなにも嬉しい。京子のハンカチで涙を拭いながら、あたしは掠れた声を絞り出した。
「美衣子を、懲らしめたいの。お願い。協力して……」
京子は迷うことなくあたしの両手を掴んで、力強く頷いた。
「勿論、協力してあげるよ! だってあたしたち、友達なんだから!」
「……っ……ありがとう……」
みんなの優しさが嬉しすぎて、あたしは涙を流し続けた。瑠夏が微笑みながら、あたしの頭を撫でてくれる。あたしは泣き腫らした目を瑠夏に向けて、瑠夏と同じように小さく微笑んだ。




