第39話 祈り
それから、時間は流れていった。美衣子がここに来てから既に数時間が経過している。相当難しい手術なのだろう。先程から美衣子は何度も何度も時計を確認して、進んでいく時計の針を凝視していた。
「雪ちゃん……」
時折、ぽつりと美衣子は雪山の名前を口にした。その度に看護婦さんは気の毒そうな顔をして、
「美衣子ちゃん、手術、長引くから病室に戻る?」
と気遣ってくれた。しかし、美衣子は首を横に振った。
「いえ……。私、雪ちゃんの傍で雪ちゃんを応援したいんです。今まで何度も、数え切れないくらい雪ちゃんは私を助けてくれた。私を大切にしてくれた……。だから私も雪ちゃんの事を少しだけでも助けてあげたいんです。せめてここで力になれるように祈らせてください……お願いします」
「……そうね。美衣子ちゃんが祈ってくれたら、きっと雪山君は元気になるわ。美衣子ちゃんの祈りを、神様が聞いてくれないわけないものね」
「……はい」
包帯を巻かれた美衣子の両手。美衣子はその手を力一杯合わせて、ぎゅっと握り締めていた。そのせいで包帯がところどころ捲れ、血が滲んでいる。
「美衣子ちゃん、包帯、取り替える?」
看護婦さんが心配そうにそう訊いてきたが、痛みに顔を歪めながらも美衣子はそれをきっぱりと断った。
「いいんです。雪ちゃんはこれよりもっと辛い思いをしてる。一緒に苦しんで一緒に乗り越えられるように頑張りたいんです」
「そう……」
そこで会話は途切れ、そのまま時計の針は時を刻み続けていった。
病室内は消灯時間を過ぎ、ほとんど真っ暗になる。それでも美衣子はただ両手を硬く握り締めるだけで、眠そうな顔を見せることも あくびをすることも無くじっと【手術中】の3文字を見つめ続けていた。




