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第38話 手術

 看護婦さんの足が、ある扉の前で止まった。美衣子もその場で足を止め、看護婦さんの隣へ移動して、目の前にある扉を見上げる。そこは手術室だった。赤いランプが点いている。今まさに誰かがこの部屋の中で、生死の境を彷徨っているという証拠だった。


「あ……あの、どうして、こんなところに……?」


 不安になり小さな声でそう尋ねると、看護婦さんはそっと美衣子の肩に手を置いて、こう言った。


「雪山君ね……、さっき、ニュースで報じられたばかりなんだけど、すぐそこの駅で、電車と接触してしまったらしいの。即死してもおかしくないくらいの事故でね、すごく重症で意識も無くて……手術も極めて難しい手術だから……成功の確率も決して高くないの。本当は患者さんをこんな風に連れてきてはいけないんだけど、美衣子ちゃんと雪山君は恋人同士だったみたいだから、美衣子ちゃんが居てくれたら、雪山君も頑張れるんじゃないかと思って……」

「……事……故?」

「ええ―――……雪山君のご両親にはなかなか連絡がつかなくて、雪山君を応援してあげられるのは美衣子ちゃんだけなの。だから―――……」


 ……美衣子の耳には、もう看護婦さんの言葉はほとんど聞こえていなかった。両足ががくがくと震え出し、口の中の水分が急速に失われていく。美衣子はふらふらとおぼつかない足取りで目の前の扉へ近寄った。


「雪ちゃん! 雪ちゃん……!」


 手術室の扉に張り付くようにして大声で雪山の名前を叫んだ。廊下中に美衣子の叫び声がこだまする。


「雪ちゃん、お願い、頑張って! これからもずっと私の傍に居て。お願い……いなくならないで……! 雪ちゃんがいなきゃ……私には……雪ちゃんしかいないのっ……!」



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