カイン ― ベクト王国にて 2
「ほら、始まったようだよ・・・」
水草にはたくさんの卵がびっしりと付いていた。
卵は透明な殻をしていたので、中の様子がよく見えた。
よく見ると、たくさんの卵の一つ一つの中身が
忙しなく動いている。
やがてその動きが激しくなると、ついに殻を破って
中からそれが出てき始めた。
“ステンフィッシュ”と呼ばれる小さな魚の稚魚である。
この魚は身体全体が滑らかな銀色をしており、
鏡のような光沢がある。
それがほぼ一斉に殻から出てきて泳ぎ出すと、
湖の水がそこだけ周囲を映す鏡へと変わっていった。
まるで意思を持ったような鏡は、右へ、左へと蠢き
周囲の景色を映していく・・・。
その姿はまさに圧巻だった。
「すごい! すごいよ、ジャン。僕、こんなの初めて見た!」
カインは興奮を抑え切れないように叫ぶと
動く鏡たちに合わせるように一緒に身体を動かしていた。
「カイン様、あんまり身を乗り出されたら危ないです。
もう少し中へ・・・」
ジャンが言い終わらないうちに・・・カインの姿が消えた。
「カ、カイン様!」
ジャンが急いでカインの消えた湖の中に手をグッと差し入れると
カインの服に手が触れた。
それをギュッと掴むと、力任せに上に引き上げた。
「ブハっ!」
カインの顔が水面に出た。
その顔にはステンフィッシュの稚魚が無数にくっついている。
ジャンはカインの姿を見ると、
思わず声に出して笑っていた。
「ジャン! 何がおかしい!」
「いえ、何も。おかしく・・・なんかないです」
ジャンは口では否定したものの、
その顔は笑いを必死に我慢しているようで、
肩を震わせてこらえている。
笑い過ぎで、目にはうっすら涙さえ浮かべていた。
「もう・・・!」
カインは自力で湖から這い上がると
湖の奥の稚魚の少ない水草のない場所へと移動した。
湖の中に魚だらけになった身体をもう一度軽く潜らせると、
身体と服に付いた魚たちを逃がしてやった。
ジャンもカインの後について、その様子を見守っていた。
ザバっとしぶきを上げてカインが顔を出した。
「どう? きれいになっただろ?」
水に濡れた端正な白い顔に、
柔らかそうな金髪が張り付いている。
ジャンはカインに不思議な色気のようなものを感じ、
心臓がドキドキした。
「ジャン。手を貸して!」
ジャンはハッと我に返ると、カインを湖から引き上げた。
「あーあ、せっかくの服が濡れちゃったな。
仕方がないから、寒くなる前に帰ることにしよっか」
カインが苦笑しながら湖を離れようとすると・・・
「待ってください! 私の服とお取替えします」
そう言うとジャンは素早く自分の着ている服を脱ぎ始めた。
「だ、だめだよジャン。こんなことまでしないで。
君は僕の事を王子として見ているかもしれないけど、
僕は君を大事な友達だと思ってるんだ。
お願いだから、僕のために自分が辛くなるようなことだけは
しないで!」
「カイン様・・・」
ジャンは服を脱ぐ手を止めてカインを見た。
カインはニコッと笑うと、早足で元来た道を戻り始めた。
「あ、お待ちください! カイン様!」
ジャンは急いで脱ぎかけた服を直すと、カインの後を追って行った。




