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水の惑星  作者: 花押
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エピローグ ― 語り継ぐ者

カインは初めてキースに連れてこられた島の南側の湖畔に立っていた。


カインの視線の遥か向こうに水平線が広がっている。


微かな風がカインの艶やかな金色の髪を撫でていった。




一体今が何月なのか・・・




気候が一定なこの島ではよくわからない。


あの出来事からどのくらいの時が経ったのかもカインにはわからなかった。


ただ、今まで通り食料を調達し、道を整備し、

建物を直しながら暮らしている。


傍らに笑いながらいてくれるはずのキースの姿は今は無く、

気ままな一人暮らしを続けている。




誰も知らないこの島には来客なども無い。



きっと、このまま一生が過ぎていくのだろう。



金の星と土の星が重なった年、また守役候補が選ばれるのだろうが

もう迎えに行くこともない。




迎えが来ないことを知ったら、みんなはどう思うのか?




だが、そのまま主神が現れなければ人々は知るのだろう。




もう、守役はいらないのだということを―――





カインは幸せそうに微笑んだ。



ここでキースの思い出に浸って生きていくことも悪くない。



そう思っていた。



カインは魚を入れた魚篭を肩にかけると、家へ帰るための道へと向かった。




「カイン・・・」




ふいに後ろでキースの声がしたような気がして振り返った。




「キース!」




思わず名前を呼んでみたが、それは空耳に違いなかった。






ふと湖を見ると、先程まで何も無かったいつもの景色に、

小さく影が映ったのが見えた。



カインは思わず動きを止めて、その影をじっと見つめた。



影は徐々に大きくなっていき、

しばらくするとカインの住む島のすぐ近くまで来ていた。



その影は小さいが、パワーのあるモーターボートのようなものだった。




「何だ?」




カインは訝(いぶか)しげな顔をした。



主神がいると恐れられている島に、こんなボートを使って近づくのは

道に迷った者としか思えなかった。



「とんだ来客だな」


カインは苦笑した。




ボートは荒々しく湖畔に横付けすると、

何かがボートから飛び出してザブザブと水しぶきを上げ、

こちらに向かってきた。



「カイン様!」



カインはその聞き覚えのある声に身体が震えた。



「ジャン・・・?」



カインがぼうっとしている間も無くジャンはカインに飛びついていた。



「カイン様。 会いたかった!」



ジャンはカインをきつく抱きしめた。



「ジャン・・・まさか」



カインはまだ今の状況が信じられなかった。



夢なのではないかと思った。



ジャンは涙を浮かべながらカインを見た。



「私はずっとあなたのお傍にいるのだと幼い時から決めていました。

あなたがいなくなってからは心に穴が開いたみたいになり・・・。


あなたがいないとダメなのだと・・・それがよくわかりました。


私は、あなたの中に主神がいてもかまわない。

お傍にいさせてもらおうと国を出ました。


お願いです、カイン様。どうかあなたのお傍に私をおいてください」



「ジャン」



カインの瞳から涙が溢れ出した。



「もう、いいんだ。 もう終わったんだよ、ジャン」



「カイン様?」



ジャンはカインを見上げた。



「もう主神はいないんだ。この島に永遠に封印されたんだよ」



「本当に? では、カイン様の身体は・・・」



「ああ、この身体は僕のままだ」



カインは涙に溢れた瞳のまま、にっこりと笑った。



ジャンの声は嗚咽に変わり、もう話すこともできなかった。



二人は抱き合って泣きながらその場に佇んだ。






やがてボートは二人を乗せて島から離れていった。



ボートの中から離れていく島を見つめるカインの脳裏に

キースの姿が浮かんだ。



様々な思いを抱いてこの島で暮らしてきたであろう守役たち。



その長く悲しい歴史を忘れないように、

そして主神の怒りも忘れぬよう伝えていかなくてはならない。



それが、トーマやキースの望んでいたことだった。



カインは決心していた。



必ず語り伝えていく。



皆が幸せになるためにも必要なことなのだから・・・




カインは故郷にいる両親や自分を慕ってくれた人たち、

そしてアリスのことを思い浮かべた。



ジャンは目に涙を浮かべながらカインの目を見てそっとうなずいた。




※   ※   ※




その後、主神の島は一切の立ち入り及び開発は禁止された。



ただ、年に一度だけ国ごとの代表が島に集まり、

消えていった守役たちの姿を偲んだ。



カインの話は伝説になり、今も語り継がれている。



石の祠の近くに立てられた守役たちの碑にはグレンの描いた絵が飾られていた。



絵の中でキースが湖を背景にこちらを見ていた。



そしてその顔にはどこまでも幸せそうな笑みが湛えられていた――――





「水の惑星」 END―――



今まで人気ゲームの二次を書いて様々なサイトで発表してきましたが、

これは公募用108ページ以内という条件で書いた

初めてのオリジナル中編小説になります。


原作は108ページギリギリだったため、トーマの謎が明かされませんでしたが、

今回はトーマの気持ちを含めた部分を大幅に加筆して発表しました。


比較的短い小説でしたが、読んでいただきましたこと、とても感謝いたします。


現在イケメン陰陽師&イケメン高校生の時代長編小説を執筆中ですので、

連載が始まりましたら、ぜひチェックしてみてくださいませ!


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