島暮らし
次の朝、カインはバツの悪そうな顔でリビングにいた。
既に朝食は二人分並べられている。
キースは片方の長椅子に座って可笑しそうにカインを見ていた。
「キース、昨日は・・・あの、
格好悪いところを見せてしまって・・・ その・・・」
しどろもどろのカインに、キースは言葉をかけた。
「気にするな。初日は誰だってそんなもんさ。
俺なんかお前よりもひどかったんだ。
お前の方がよっぽどしっかりしてるよ」
「そう・・・ですか?」
「そう・・・だ」
キースの言葉に安心したのか、カインはにっこりと笑った。
「お前、ここに来てやっと本当の笑顔になったな。
俺もお前の笑った顔が見られてホッとしたよ。
とにかく座れ。せっかくの朝食が冷めちまうぞ」
二人は向き合って朝食を摂った。
小さめの鶏肉のソテーに、ハーブ入りのサラダが添えてある。
中央にはフォカッチャのようなパンが大皿に乗せられていた。
カインは、昨日キースにしがみついた時の感触を
まだ忘れられずにいた。
心まで温かくなったあの感触・・・
自分にはこの世界にキースしか頼れるものがいないのだと
気付いてしまった瞬間でもあった。
カインは朝食を食べながらそっとキースを見た。
キースがじっとカインを見ていた。
いつから自分を見ていたのか・・・カインはドキリとした。
クリスタルブルーの瞳がまっすぐにカインを見つめている。
カインは目を逸らすこともできずに、そのまま二人は見つめ合った。
息苦しいような時が流れていく―――
でも、それは数瞬の出来事であったのかも知れなかった。
やがてキースがフッと笑みを浮かべて言った。
「どうした?カイン。俺にそんなに見惚れてるのか?」
「だ、誰も見惚れてなんか・・・」
カインの顔が赤くなった。
「そっちこそ、僕の顔をじっと見てたじゃないですか」
「ああ。見惚れてたからな」
「・・・・!」
キースの言葉にカインは耳まで真っ赤になった。
「か、からかうのはやめて下さい!怒りますよ」
キースは楽しそうに笑った。
「ああ、ごめん。冗談だ。
少しお前には刺激が強かったかな。
これからはからかうのは程々にするよ。
本気になられちゃ困るからな」
カインはキースの言葉にホッとした。
でも、ずっと心臓はドキドキしていた。
キースの瞳に見つめられると、いつもドキッとしてしまう。
それがどうしてなのかはよくわからなかった。
キースは朝食を食べ終わると、まだ食事中のカインに声をかけた。
「カイン。今日は島の探検をしに行くぞ。
食料も調達しなけりゃならないしな」
「食料ですか?それは守の丘に届けられるんじゃ・・・」
「あれはな、備蓄用の食糧だ。
一年に一度しか運ばれてこない物を当てにしていたんじゃ
あっという間に飢え死にだぞ。
あれは、嵐などで食料を取りに行くことができない時の
予備として使うんだ。
普段はいつも自分で食料を取りに行く。
それが、ここで暮らすための最低条件だ。
大事なことだから覚えとけよ」
「は、はい。わかりました」
「支度が終わったら、俺の部屋に呼びに来い。
待ってるからな」
キースはさっさと自分の部屋に入っていってしまった。
カインは急いで朝食を口に押し込んだ。
※ ※ ※
二人は食料を調達するために家を出た。
キースの言うことには、この島には食べ物が豊富にあるという。
島の気温が一年を通じてほぼ一定であり、
湖の中心ということでスコールも多く、緑が豊富だということ。
そして、この島に住む人間が最高で二人までだからという理由もあった。
実際、おもしろいようにいろいろなものが取れた。
果物、野菜、ハーブ、魚、鳥・・・・・・
何より水は、周りが湖のために有り余るほど豊富にある。
しかも水に関しては、
先代の守役たちが引いてくれた水道のおかげで
面倒な水汲みは全くしなくてよかった。
はっきり言って快適な生活なのである。
カインは歩きながらこの島の様子をじっくりと観察した。
島は思っていたよりもすいぶん広いようで、
今日、カインたちが歩いた場所は島のほんの一部に過ぎなかった。




