守役たち 2
「キースはここで15年も一人で暮らしてきたと言いましたね。
僕も・・・そうしなければいけないのですか?」
カインは、キースがこの誰もいない、地図にも載っていない島で
主神を身体に宿したままたった一人で15年も過ごしてきたということが、
想像もつかなかった。
自分だったらできるのだろうか・・・
不安がカインの心を覆った。
キースはカインの不安そうな表情を見ると、
席を立ってカインの隣に座り、話しかけた。
「カイン。心配することはない。
俺はお前をすぐに一人にするようなことはしないつもりだ。
一人で暮らすことの寂しさは、俺が一番よくわかっているからな。
俺は自分の限界である45歳まで耐えるつもりだ。
まだあと9年もある。
それまでは一緒に暮らせるだろ?
だから心配するな」
キースの穏やかな声音は
カインの不安な気持ちを包み込んでいくようだった。
「キース。もし僕の中に主神が入ったとき、
キースの身体はどうなってしまうのですか?」
聞きたくない質問だった。
たが、聞いておかなくてはならないと思った。
「抜け殻だ」
「え?」
カインの表情がこわばった。
「俺の身体は、ただの抜け殻になる」
「じゃあ、キースは・・・」
「死ぬってことかな」
キースは遠い目をしてフッと笑った。
「でも、心配すんな。
その時は、やっと役目が終えられてホッとする時なんだ。
お前が思ってるほど悲しいもんじゃない」
「助からないの?」
カインの目が潤んでいた。
「主神をいったん身体の中に入れてしまえば、
もう自分の生気は奴に喰われてしまっているんだ。
あとは、奴の力を借りて生きているだけ。
だから歳も取らないし、湖を渡ることもできる。
ただ唯一“気”の力で奴をこの身に封じ込めている。
奴が身体から抜けてしまえば・・・俺は無くなるんだ」
「そんな・・・」
カインの目から涙がこぼれた。
こんな悲しい運命があるのだろうか。
どうして主神なんかが存在するのか。
悲しさと悔しさが入り混じり、辛い気持ちでいっぱいになった。
「カイン・・・」
キースはカインを優しく抱きしめた。
「お前は何も心配しなくていい。だから今は何も考えるな。
俺はお前に話さなくてはならないことがまだ山ほどあるが、
今はこの生活に慣れることが先だ。
そのうちお前にもわかってくる筈だ。俺の気持ちがな。
とにかく、今はもう休んだ方がいい。
俺が部屋まで行ってやるから」
立たせようとすると、カインがグッとキースにしがみついた。
「おい、カイン」
「キース、お願い。もう少しこのままいさせて。
僕、ずっと我慢してたんだ。
本当は怖くて・・・怖くて。
でも、みんなの前では顔に出せなくて・・・」
「お前も辛かったんだな」
カインはキースにしがみついたままうなずいた。
「キースの前では素直になれるよ。
あなたしか僕が頼れる人はいないんだ。
・・・こうするととっても落ち着く。
だから、もう少し・・・」
キースは優しく微笑んだ。
「困った甘えん坊だな。
お前、もう少ししっかりしてる奴だと思ったのにな。
あの時の俺よりもしっかりしてると思ってた・・・」
キースは最初にここに連れてこられた時のことを思い出していた。
絶望と悔しさと怖さで涙が止まらなかった。
だが、そんな自分をそっと包み込んでくれた人物・・・
(グレン・・・)
キースは前の守役、グレンのことを思った。
(グレン、こいつは俺が守って見せるよ。絶対にな)
キースはカインが落ち着くのを待って、部屋で休ませた。
カインはベッドにもぐりこむと、すぐにすやすやと眠りについた。
キースはカインのあどけない寝顔を見届けると
自分の部屋に入り、壁に飾ってある絵を眺めた。
絵には湖を背景に立っているキースの姿が描かれていた。
これはキースとグレンが魚を捕りに出かけたとき、
絵が得意だというグレンに、キースが頼んで描いてもらったもの―――
グレンがキースに遺した唯一のものだった。
「グレン・・・。すまない」
キースは低い声でつぶやくと、彼の瞳から涙が頬を伝って流れ落ちた。




