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水の惑星  作者: 花押
13/27

出会い

どのくらいの時間が経ったのだろう。


早朝に「ベクト」を出発したのだが、

今は日も少し傾きかけているようだった。



カインは主神と出会うための場所・・・“守の丘”に着いた。



カインの供に付いてきた二人の男は、

それぞれが持っていた荷物をカインの傍に降ろした。


これらはカインが当座の生活をするのに困らないよう

両親が持たせたものだった。


これらには衣料品と備蓄用の食糧が入っていた。



主神の守役を選ぶことになった国は、

守役を自らの国から出した後、次の守役が決まるまでの間、

年に一度だけ“主神にお供えをする”という意味を込めて、

その国から守役のための衣服や食料、生活用品などが

守の丘に届けられることになっていた。



だが今、カインの傍らにある荷物は“お供え”のためではない。


カインの両親からの気持ちだった。



カインは供をしてきた男たちに微笑みながら礼を言うと、

男たちは泣きながらカインの手を握り、去って行った。





そしてカインは一人になった―――





※   ※   ※





湖畔を渡っていく風がカインの髪を撫で、通り過ぎていく。



微かな鳥の声が遠くで聞こえるだけで、

あとは何の音も聞こえないくらいに静かだった。



果てしなく続くように思われる広い湖の水平線が、

目の前に広がっている。



カインは唇を引き締めると、真っ直ぐに前方を見つめた。




(今までの守役たちも、ここで僕のように佇んでいたのだろうか?)



(怖くて泣き出した人もいたかもしれない。

こんな悲しい歴史は繰り返してはいけないのに・・・)



カインはこの時、ある決心をした。



(この星に住む全ての人々のために、

僕は自分のできる限りのことをしてみせる。

僕の大切な人たちを守るためにも・・・)



ふと、見つめていた湖の彼方の水平線に、何かの影が見えた。



その影は、こちらに向かって移動してくるようだった。




(主神か・・・)




カインの身体に緊張が走った。



この先、どのようなことになるのかは全く想像もできない。


今はただ、自分に課せられた使命を全うすることだけを考えよう。



カインはそっと瞳を閉じ、自身の心を落ち着かせた。



そしてゆっくりと目を開けた時、

もう既にその影はカインの傍に立っていた。




カインはその姿に驚いた。




遠くから影のように見えたものは、普通の人間の男の姿だった。


彼はグレーのスーツを着て水面に立ち、

カインの姿を見るとニヤリと笑った。



「お前が新しい守役か?」



「はい」


カインは男をしっかり見つめて返事をした。



男はゆっくりうなずくと、彼の傍らにある荷物に目をやった。



「すいぶんとたくさんの荷物を持たされて来たものだな。

お前を運ぶだけでも厄介だというのに」



「僕を・・・運ぶのですか?」



カインには男の言う言葉の意味がよくわからなかった。



「そうだ。お前はまだ一人でこの湖を渡ることはできない。

だから俺が迎えに来た」



「は、はあ・・・」



「まあいい。とにかくお前と荷物を運ぶことにしよう。

お前も手伝え」



男はカインの荷物を一つだけ左肩に乗せ、

もう一つの荷物をカインの右肩に担がせた。


カインの肩を男が右腕を廻して抱くように力を込めると、

そのまますうっと身体を移動させた。



カインの身体が水面へと滑り出た。



一瞬、沈んでしまうのではないかとドキッとしたが、

不思議なことに身体は水面スレスレのところで浮き上がり、

そのまま凄い速さで水平に移動していった。




どの位の時間が経ったのか・・・




やがて湖の遥か遠くに小さな島のようなものが見えてきた。



どうやらそこへ向かっているようだ。



カインは湖の中に島があることなど今まで教えられていない。



地図にも載っていた覚えはなかった。




「この湖の中に島があったのですか?」



男はカインをチラリと見ると、前方に視線を戻した。



「俺も知らなかったさ。18年前にここへ連れて来られるまではな」



「18年前!?」



カインは男の姿をもう一度マジマジと見つめた。



どう見ても20歳前後にしか見えない。



男は前方を見ながらフッと笑った。




「不思議だと思ってるんだろ?着いたらゆっくり教えてやるよ。


時間はたっぷりあるんだからな」





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