第9話 さすがのチート
「一体、どういう原理なんだ……」
朝起きたら、成っていた。
あ、おっぱいではなく。
実が、である。
将軍はまだ寝ている。
仰向けに寝ている彼女はその見事な双丘を呼吸によって上下させていた。
「……っは!い、いかんいかん」
あまり見過ぎてはいけない。セクハラになってしまう。
セクハラは良くない。
最近はいろいろと問題になっているからな。
昨日も冗談を真に受けてしまったし。
気を付けなければ……
そういえば、この前、会社のコンプラ研修がうけたばかりだったのだ。
今になって思い出した。いや、思い出してしまった。
身を引き締めなければならない。
閑話休題。
さて、何に驚いたかというと、窓の外の光景である。
なにも今さら異世界の光景に驚いたというわけではない。
昨晩そこにはなかったものが、今はある。
青々と実っていたのだ、野菜たちが。
カボチャやトマト、果ては大根まで。
だ、大根?
「まだ春先なんですけど……」
神様すげぇ。
と思ったところで、お腹から空腹の合図が聞こえてきた。
いい時間だ。朝ご飯の準備と行こう。
味噌汁とパンでいいか。
水を沸かして、豆腐やふやかしておいた乾燥わかめを入れる。
パンはトースターの中だ。
「……ん、んん。少年?」
ある程度朝食ができてきたところで、将軍が起きてきたようだ。
「起きましたか。おはようございます」
「あ、お、おはよう」
「どうしました」
「いや、なんだが、君と結婚したら毎朝この光景があると考えると、な」
「考えると、な。じゃなんですよ将軍」
「将軍なんて、そんな、一晩過ごした仲じゃないか!他人行儀な呼び方はやめてくれ!」
「一緒に寝ただけですけどねー」
「名前で呼んでくれよ」
「ヴァレさんでいいですか?」
「ヴァレリア」
「ヴァレさん」
「……仕方ない、私が譲るとしようか」
どうやら譲ってくれるらしい。
僕には初対面の女性を呼び捨てなどできる度胸はない。
「で、今日はどうするんだ」
「今日は収穫作業です」
ヴァレさんはきょとんとしたあと、噴き出して豪快に笑った。
「いやいや失礼、冗談が得意なのだな、素敵だ」
「冗談ではないです、窓を見てみてください」
彼女は僕の真面目な表情を見て、笑うことをやめ、窓から外を覗き見た。
「な、なんということだ」
窓の外の多種多様な、丸まる太って美しく実った野菜たちが、風に吹かれてなびいている。
まるでヴァレさんに元気に挨拶をしているかのようだ。
「「一体どういう原理なんだ」」
何度見ても信じられんな。正直本当に一日とかそこらで収穫できるようになるとは、僕も半信半疑だったよ。
流石神様の力。
「……やはり少年は賢者様の関係者だったりするのか?」
「いいや」
「……まあ、いいだろう」
スルーしてくれるようだ。
実際、嘘は言っていない。彼(or 彼女)は神様と名乗っていたのだから。
ヴァレさんと朝ごはんに舌鼓を打っていると、なにやら外が騒がしくなってきた。
馬の蹄の音が聞こえてくる。
それも一体ではない、数体はいる。
「来たな」
将軍のつぶやきに呼応するかのように、玄関がノックされた。
「将軍、お迎えに上がったであります!」
部下さんの声だ。
ヴァレさんは食べていたパンを皿の上に丁寧に置くと、窓から顔を出して会話を始めた。
「いや、その必要はない」
「……失礼ですが、もう一度おっしゃっていただいてもいいでありますか?」
「その必要はないと言った。私はここで暮らすことにした」
「バカ言ってないで、早く戻りますよ。将軍がお戻りになられないと大変なことになるでありますから」
「なに? 一日とそこらで組織が崩壊するような弱卒に育てた覚えはないぞ!」
「いえ、将軍、書類仕事と会議が溜まっているであります」
「秘書にやらせといて」
「そういうわけにはいきません。帰るでありますよ」
「そこまでして早く帰ってほしいのか?いま、いいところなんだが?」
「いいところとは?」
「同棲して、夫婦としてお互いの価値観をすり合わせ中なのだ!」
「結婚するんでありますか?」
「そうだ」
さっきから何を言っているんだ。
結婚したら戦場に行かなければならないのだろう?結婚するわけないだろ。
「結婚はしないと何度言えばいいんだ……」
「今のところは、だろ?」
「まあ……そうですね」
「しかし、皆さんまってますよ」
「待たせといて」
「え、ホントに戻らないつもりでありますか?」
部下さんは、そろそろうんざりしてきたようで、低い声で問う。
「……ジョーダンに決まっているだろう!」
「ちょっと間が気になりますが、まあいいであります」
僕も部下さんに挨拶をせねばと思い、パンを口の中に詰め込んで、外にでる。
「部下さん、おはようございます」
「エリックさん、おはようございますであります!昨日はなにもされませんでしたか?」
部下さんは微笑をたたえながら、冗談めかして言う。
「おいおい、勘弁してくれよ、なにもしてないって」
「ええ、全く問題はありませんでした」
「それならよかったであります。さすがの将軍もなにもしませんでしたか、いえ、将軍はできない、でありますね!」
「ん?喧嘩売ってんのか?帰らないぞ?お?」
「帰宅を人質にしないでほしいであります!」
部下さんとヴァレさんの掛け合いは微笑ましいものだが、それよりも僕は部下さんの後ろにいる存在に目をとらわれていた。
「ケンタウロス?」
「ええ、もしかして初めて見たでありますか?」
「ええ、初めて見ました」
「ケンタウロス、なかなか見ないでありますよね」
5、6人はいようか、それぞれが素晴らしい健康的な足を持っていた。
「どうして高機動部隊を連れてきた?私はなにも言っていないが」
ケンタウロスさんたちは高機動部隊所属なのか。
いやまあ、彼女たちのその足を活かすのであれば、うってつけか。
「いえ、もしエリックさんの気が変わって保護を求める可能性を考慮した上で連れてきましたが……余計なお世話だったようですね。すみませんエリックさん、井戸の水をお借りしてもいいですか?」
「普通に飲み水をご提供しますよ」
上半身が人間であるならば、流石に井戸水よりも飲料水の方がいいだろう。
どれ、日本が誇る軟水のミネラルウォーターをご馳走してあげようではないか。
「流石私の嫁!気遣いの鬼!」
「違います」
ケンタウロスさんに家から持ってきたミネラルウォーターを提供する。
「お、男の子だ」
「男の子だ……」
「久しぶりに見たわ」
「あんまり見る機会ないしね」
「かわいいー」
す、すごい。何かいろいろと言われているようだが、それよりも。
俺は目の前のケンタウロスさんに目を奪われていた。
こうして近くで見ると、まさに想像通りの見た目で驚いてしまう。
まさに人馬一体。
上半身は人間で、下半身は馬であった。
特に隊長機と思わしきケンタウロスはすごい。
筋肉の付き方が他とは違う。
ムキムキだ。
しかもただのムキムキという訳ではない。しなやかさも併せ持つ流線形が非常に美しい。
それに金髪。いや、馬だから尾花栗毛というべきか?
この流線形の体に金髪、走ってたなびく金髪はさぞ美しいことだろう。
極めつけはうなじだ。
髪型をポニーているにしていることによって、見えるキレイなうなじが素敵。
……髪型をポニーているにしている。馬だけに。
「……ははっ」
「あのう……」
おっと、隊長さんが俺の方をみて何か言いたげにしている。
一人で笑っているやばいやつになってしまったか?
「あんまりしっかり見られると、ちょっと恥ずかしいですが」
「あ、す、すまない、つい見事な筋肉なもんでじっと見てしまった」
どうやら不躾な視線が良くなかったようだ。
反省、反省。 こっちに来てからというものの、セクハラまがいのことをしまくっている。
ケンタウロスさんに不快な思いをさせてしまっただろうか。
「み、見事……う、うれしいです。是非全身くまなくどうぞ……」
「あれ?」
やはり肉体を鍛えている人は見られるとうれしいのか?
「こら、あまり他の女をみるんじゃない、妬けちゃうゾ?」
「キツイでありますよ、将軍」
「……キツクないし」
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その後は将軍と部下さんたちとで、できた野菜を収穫していった。
「これが一晩でできた野菜でありますか……」
「やはり、にわかには信じがたいな、一晩で成長した野菜の大きさとは思えん」
確かにその通りだ。
収穫した野菜はどれも艶があり、中身もパンパンに詰まっている。
一体どんな魔法なのか。いや、チートか。
昨日よりも人数が多いため、籠は収穫した野菜ですぐにいっぱいになった。
「ヴァレさん、いくつか持っていきますよね?」
「いいのか?」
「ええ、手伝ってもらいましたし」
「助かる、本当は君を持って帰りたいのだが」
「却下です」
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「私は戻らねばならない、なにかあったら連絡するんだぞ?」
「はい、ありがとうございます」
「その体はもう、君一人の物ではないのだからな」
「俺一人のものです」
「ははは!!今はな」
そうして、将軍と部下さんたちは森の中へと消えていった。
いきなり部屋が静かになってしまったな。
嵐のような人だった。




