第五十二話 始まりの場所へ
第五十二話です。
どうぞよろしくお願いします。
ラシャールを発つ前夜、俺は、久しぶりに、ログアウトすることにした。
「少し、現実の様子、確認してきます」
ユイとタクトに、そう伝え、俺は、宿の一室で、静かに、目を閉じた。
――目を開けると、そこは、見慣れた、病室の天井だった。
「あら、稜、起きたのね」
母が、以前より、幾分か、穏やかな表情で、俺を、覗き込んでいた。
「母さん……」
「先生から、聞いた? Elysiumのこと」
母の言葉に、俺は、少し、身を起こした。
「まだ、詳しくは」
「大きな、発表があったのよ。運営元が、これまで、隠してきた事実を、正式に、公表したの」
母が、テレビをつけた。ニュース番組が、大々的に、その話題を、取り上げていた。
『――Elysium運営元は本日、システム創設当初からの、内部記録を、全面的に、公開すると発表しました。これにより、これまで指摘されてきた、精神的リスクへの対応不備について――』
アナウンサーの声が、淡々と、状況を、伝えていく。
『――一方で、公開された記録には、創設者たちの、患者救済にかける強い理念も、記されており、世論は、賛否、大きく分かれています』
俺は、そのニュースを、静かに、見つめていた。あの塔で、俺たちが見た記録――それが今、確かに、現実世界にも、届いていた。
「稜が、あの世界で、頑張ってくれたおかげ、なのかもね」
母の言葉に、俺は、少し、照れくさくなった。
「俺だけの、力じゃないよ。仲間が、いたから」
「仲間、大切にね」
母は、優しく、微笑んだ。ちょうどその時、佐伯先生が、病室に、姿を見せた。
「稜くん、いい報告がある」
先生は、タブレットに、俺の検査データを、表示させた。
「腫瘍マーカーの数値、さらに、改善が見られる。まだ、油断はできないが……余命宣告の、見直しを、検討できる段階まで、来ている」
その言葉に、俺は、しばらく、言葉を失った。
「見直し、って……」
「断言はできない。だが――これまでの推移を見る限り、当初の三十日という数字は、既に、意味を、成さなくなりつつある」
先生の言葉に、母が、涙ぐみながら、俺の手を、握った。
「稜……」
「母さん」
俺は、母の手を、しっかりと、握り返した。あの世界で、俺が選び続けてきた道――奪わずに、自分の力で、積み上げていく生き方。それが、こんな形で、現実の身体にまで、確かな希望を、繋げていた。
「あちらの世界のこと、もう少し、詳しく、聞かせてもらえるかな」
先生の言葉に、俺は、頷いた。
「はい。長い話に、なりますけど」
俺は、これまでの旅路を――始まりの村での日々、カレナでの出会い、帝都での真実、そして、異国での決戦を、順を追って、話していった。母と先生は、時に、驚き、時に、涙を浮かべながら、その話に、耳を傾けてくれた。
「本当に、色々な人と、出会えたのね」
母の言葉に、俺は、頷いた。
「うん。ユイさんも、タクトさんも、みんな、それぞれの事情を、抱えながら、頑張ってる。俺も、負けてられないなって、思うんだ」
しばらく、現実での時間を過ごしたあと、俺は、再び、ログインの準備を、整えた。
「行ってくるね」
「気をつけてね。でも――もう、あんまり、無理は、しないでね」
母の言葉に、俺は、小さく、笑った。
「うん。少しずつ、進んでいくよ」
視界が、再び、光に包まれていく。
――目を開けると、そこは、ラシャールの宿の一室だった。
「おかえりなさい」
ミラの声が、静かに、俺を、出迎えた。
「ただいま、です」
俺は、身体を起こしながら、深く、息を吐いた。
「現実の方は、いかがでしたか」
ミラの問いに、俺は、静かに、答えた。
「良い報告、ありました。俺の身体、少しずつ、良くなってるみたいです」
「それは、何よりです」
ミラの声には、いつもより、僅かに、温かみが、感じられた。
翌朝、俺たちは、ラシャールの港へと、向かった。ガイが、既に、船の準備を、整えて、待っていてくれた。
「帰るのか」
「はい。一度、始まりの村に、戻ろうと思います」
「そうか。また、会おうぜ」
俺たちは、固い握手を、交わした。
「サーラさん、セリアさん、本当に、ありがとうございました」
俺の言葉に、二人は、それぞれ、微笑んだ。
「これからも、あの扉や、遺跡の調査、続けていくわ。何か、分かったら、また、連絡するから」
サーラの言葉に、俺は、頷いた。
「私も、帝都に、戻ります。運営との、今後のやり取り、まだまだ、続きそうですから」
セリアの言葉に、俺は、深く、頭を下げた。
「本当に、お世話になりました」
船が、静かに、港を、離れていく。異国ヴァルシアの街並みが、少しずつ、遠ざかっていった。
「色々、あった、大陸でしたね」
ユイの言葉に、俺は、頷いた。
「はい。でも、得たものも、大きかったです」
俺は、改めて、自分のステータスを、確認した。
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延命ポイント(LP):30.2日分
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三十日という、当初の数字を、俺は、確かに、超えていた。その事実に、俺は、複雑な、しかし、確かな、感慨を、覚えていた。奪わずに生きる道と、時には、避けられなかった選択。その両方を、抱えながら、俺は、ここまで、辿り着いた。
「タクトさん、あの日から、LPは、どうですか」
俺の問いに、タクトは、自分のステータスを確認し、頷いた。
「はい。もう、心配ないくらい、回復してます」
その言葉に、俺は、安堵した。
七日間の航海を経て、俺たちは、再び、カレナの港に、降り立った。
「懐かしいですね」
ユイの言葉に、俺は、頷いた。カレナから、始まりの村までは、以前、隊商の護衛で辿った、あの道のりを、逆に、進むことになる。
「クロトに、会えるかな」
俺の呟きに、タクトが、笑った。
「きっと、また、模擬戦、挑まれますよ」
俺たちは、カレナで、少しの休息を取ったあと、始まりの村への、最後の旅路に、出発した。
道中、俺は、これまでの旅を、静かに、振り返っていた。三十日の余命宣告から、始まったこの物語。数え切れないほどの出会いと、選択、そして、成長。
奪わない道を、俺は、選び続けてきた。だが、その道の途中で、俺は、確かに、一度、その一線を、越えもした。それでも、俺は、後悔していない。誰かを守るための選択と、誰かを踏みにじるための選択――その違いを、俺は、この旅を通じて、確かに、学んできた。
「見えてきましたよ、村」
タクトの声に、俺は、顔を上げた。遠くに、あの、懐かしい――全てが始まった、あの村の輪郭が、静かに、見え始めていた。
「帰ってきましたね」
ユイの言葉に、俺は、深く、頷いた。
「はい。ただいま、って、言いたい気分です」
俺たちは、それぞれの想いを、胸に抱きながら、始まりの場所へと、確かな足取りで、歩みを進めていった。
第3章「現実という名の戦場」――その物語は、こうして、一つの、確かな区切りを、迎えた。だが、俺たちの旅は、まだ、その先へと、続いていく。
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【ステータス】
名前:リョウ
LV:42
HP:248/248 MP:172/172
STR:160 VIT:132
AGI:145 INT:98
延命ポイント(LP):30.2日分(当初の30日を突破)
所持金:銀貨94枚
名声:950
満腹度:58/100
次のレベルまで:600/33,000
【冒険者ランク】
B
【装備】
胴:砂塵避けの軽装ローブ
武器:嵐風の双牙
足:革のブーツ
装飾:魔力の指輪
携帯品:長期保存食・船上用軽量ブーツ(ユイ)・耐水加工の籠手
【所持スキル】
・痛覚遮断
・看破の瞳
・植物知識・中級
・木工の心得・初級
・調合の心得・初級
・回復魔法・上級
・回避の心得・上級
・風纏・中級
・身体強化・中級
・文献解読・初級
・並列詠唱・上級
・対人戦の心得・初級
・灼熱耐性・初級
・風刃・初級
【称号】
・一線を越えた者
・世界の歪みを正した者
・簒奪者
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
第3章、これにて完結です。
現実世界の希望、そして、始まりの村への帰還。
長らくお付き合いいただき、ありがとうございました。
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