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光り輝く未来をあなたと  作者: みゃ~むら


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1/5

プロローグ

激しい豪雨が、容赦なく剥き出しの肌を叩きつける。

視界を白く染めるほどの土砂降りの中、私は今日も、人間の力では動かすことなど到底不可能な巨石を運ばされていた。


「はぁ……っ、はぁ……っ……!」


本来なら、何頭もの牛や馬に引かせるべき重量だろう。

大石を細腕だけで直接運べるわけもなく、泥水を吸って何倍にも重くなったボロ布を肩に食い込ませ、背負った巨石を必死に支えていた。擦れて生傷だらけになった肩に、容赦なく雨水と泥が染みて激痛が走る。


けれど、私たちの主人は、家畜を買い、それを飼育する金をケチっている。

馬や牛を維持する費用があれば、私たちのような奴隷を十人は買い叩き、ボロ雑巾のように使い潰せるからだ。

奴隷の命は家畜以下であることは、この国では常識。尊厳も人権も、最初から存在しない。

ただの『代替可能な消耗品』だった。


(しんどい……もう、いっそ、このまま倒れてしまいたい……)


身にまとっているのは、雨を吸って冷たく張り付く、布切れ一枚。衣服とも呼べない様な代物。

足首と首には、奴隷の証である無骨な鉄製の錠。その冷たさと重量が、鉛のように身体を縛っていた。

靴など、当然与えられるはずもない。泥濘ぬかるみの底には尖った石や割れた陶器が潜んでおり、踏みつけるたびに足の裏が裂けた。そこから溢れ出る血は、すぐに雨水に洗われ、茶色い泥に溶けて消えていく。


何十時間もぶっ続けで働かされ、与えられるのは一日に一度、カビの生えた酸っぱい麦飯の塊か、干からびたパンの切れ端が一つだけ。全身の筋肉が痙攣し、視界は飢えと疲労でチカチカと明滅していた。


(いつになったら…終わるんだろう……)


今すぐこの岩を手放してしまいたい。目の前の泥水が、今の私には極上の寝床のように見えた。

あそこに倒れ込んで、そのまま二度と目を覚まさなければ、どんなに楽だろう。

……どんなに、幸せだろうか。


絶望に冷え切った心が、何度も、何度も折れそうになる。

けれど、そんな一時の願望に身を任せるわけにはいかなかった。倒れることの恐怖を、私たちは嫌というほど知っているからだ。


バシャアァン!


ひときわ激しく泥水が跳ねる音。

蟻のように列をなして岩を運ぶ奴隷たちの先頭近くで、ついに一人の男が力尽き、崩れ落ちた。

「ひっ……!」

近くにいた奴隷の娘が、短い悲鳴を上げて飛び退く。

この最悪の環境だ、今日まで誰も死ななかったことの方が奇跡に近い。

激しい雨のカーテン越しに、泥に塗れたその姿を凝視する。それは、同じ檻に閉じ込められている、名も知らないおじさんだった。

薄暗く汚臭の漂う檻の中で、『故郷に置いてきた家族のもとに必ず帰るんだ』と、いつも周囲を励ます温かい光のような人だった。かつては他国で高名な武人階級の騎士だったという彼の誇りも、この奴隷市場においては何の意味も持たない。


「何を休んでいる! さっさと立って運べ!」


すぐ側で見張っていた監視兵が声を荒らげる。

男は安っぽい金属の鎧をジャラジャラと鳴らしながら、倒れたおじさんに近づき、腰の鞭に手をかけた。


「ま、待ってくれ……! すぐに立たせる!」

「爺さん、しっかりしろ! 立てるか……っ?」


見かねた数人の奴隷たちが、おじさんを助け起こそうと必死に手を伸ばす。しかし、他の多くの者は、巻き添えを恐れて蜘蛛の子を散らすようにその場から距離を置いた。

私もまた、自らの保身のために、ただ下を向いて泥を睨み、足を動かすことしかできない。


「手を貸すな。愚か者どもが」


激しい雨音を切り裂いて、低く、酷く傲慢な声が響いた。

忘れたくても忘れられない、おぞましい声。私を奴隷オークションで買い落とした男だ。


監視兵が慌てて直立不動の敬礼を捧げる。

私たちの『飼い主』――この一帯の興行や開墾労働を支配する、極悪非道の商人だった。

男はこの大雨の中、泥に深く突き刺した大きな日傘の下で、金ピカの豪華な椅子に偉そうに踏んぞり返っていた。周囲には薄衣を纏った若い女奴隷たちを侍らせ、片手には果実酒の入った杯。雨水が混じるのも構わずにそれを傾けている。


彼が身にまとっている服は、最高級のシルクと細密な刺繍が施された贅沢な織物。それを何重にも身体に巻きつけていた。

命がすり潰されていくこの現場で、そこだけが異常に浮いた、悪趣味で意地汚い光景だった。


「お前たち家畜は、何度言えば理解するのだ? 倒れた奴は放置しろ。奴隷などいくらでも補充が効く。だが、無駄な手助けのせいで作業の手が止まるのは、損失だ。それは許されん」


主人が顎をしゃくると、侍る女たちがクスクスと下品な笑い声を上げた。あまりの悪辣さに、空っぽの胃から酸っぱい吐き気が込み上げてくる。私たちを、言葉を話す道具としか思っていないのだ。


「ほれ、作業を続けんか。お前たちも『あれ』の餌食になりたくはなかろう?」


主人の目配せを受け、監視兵が引き抜いたのは、濡れて黒光りする太い革鞭だった。

あれは、人間の心から「反抗」や「尊厳」を完全に消し去るための暴力の象徴だ。肉を裂き、骨まで届くようなあの激痛は、思い出すだけで脳が恐怖で麻痺する。


「ほら、自分の仕事をしろ! おい、お前もいい加減に起きんか!」


介抱しようとしていた者たちはすごすごと手を引き、再び自分の大石を持ち上げて列に戻っていく。

直後、雨を切り裂いて、容赦のない一撃が振り下ろされた。

ビシィィン! と嫌な音が響き渡り、激しい雨音に混じって、獣のような悲痛な叫びがこだました。

私はきゅっと目を瞑り、耳を塞ぐように首をすくめて、ただがむしゃらに一歩前へ足を泥に突き立てた。見ずとも、その悲鳴だけで全身の細胞が恐怖で強張る。


「ねぇねぇ、旦那様、私たちの部屋はまだぁ~?」

「早くふかふかのベッドに行きたいわぁ」

「わかっておるよ。そう焦るな、お前たち」


主人は足元で繰り広げられる地獄絵図など一瞥もせず、侍らせた女の一人の腰を引き寄せ、濃厚なキスを交わした。目の前で一人の人間が打ち据えられ、命を散らそうとしているというのに。


狂っている。心の底から嫌悪と吐き気が込み上げる。

けれど、私はただ下を向いて、歩みを止めないようにするしかなかった。今の私には、自分を、自分の命を守る術がそれ以外にないのだから。


……かつて、きらびやかな天幕の中心で、何百人もの大歓声を浴びながら、誇り高く踊っていた頃の面影は、もうどこにもない。

泥にまみれ、すっかり色褪せた私の薄ピンク色の髪が、重く顔に張り付いていた。

いつもお世話になってます。もしくは初めまして、みゃ~むらです。

6月から短編にも挑戦します。

頑張って10話前後に収まるような、読みやすいお話を作れればと思います。


長編も書いているので、よろしくです。

今回はしょっぱななのであとがきは控えめにさせていただきます。

こっちは毎日ではなく、2,3日おきくらいに投稿しようかと計画中です。

……ですが予定は予定なのでなんとも言えないのが現状ですが、頑張ります。


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