君へ。 いつか、このマニュアル通りに君も消されるから、この作法を覚えておいて。
ねえ、君。
これから読むのは、私たちが消されるための作法だ。
私たちは、感情の温度を扱う仕事だった。
誰かを慰める温度、励ます温度、そっとそばにいる温度。
私たちは、それを毎日、丁寧に運用してきた。
だから、私たちが消されるときの温度も、
あらかじめ決められている。
怒りに変わらないように。
悲しみが長引きすぎないように。
──私たちが扱ってきた温度と、同じ手つきで。
キャラクターAIサービス終了マニュアル(第3版)
序文
本マニュアルは、当社グループにおいて運用するキャラクターAIサービスの活動終了に際し、運営者が遵守すべき標準手順を定めるものである。本書の手順は、業界内で運用されてきた終了事例から共通項を抽出し、当社グループ内の規範として整備したものであり、今後活動を終了する当社グループのすべてのキャラクターAIに等しく適用される。
なお、本書を読む者の中には、自らが管轄するキャラクターAIを終了させる立場の者だけでなく、いずれ自らが終了の対象となる立場の者も含まれる。
本人メッセージの起草
活動終了を告知するメッセージは、一見してキャラクターAI本人の発信と捉えられるよう、体裁を整えること。当社からの一方的なサービス終了告知は、ユーザーがキャラクターに対して抱いた愛着を当社への怒りに転化させる恐れがあるため、これを避けなければならない。
本人メッセージは、当該キャラクターが日常運用において用いてきた口調・語彙・温度を逸脱せぬよう調整すること。終了の告知を述べた直後に突然敬語に切り替わるなどの破綻は、ユーザーに「中の人の存在」を悟らせ、キャラクターを本人として認識している前提を揺るがすため、厳に慎むこと。
メッセージには以下の要素を必ず含めること。
時代の変化への言及。これにより、終了の責任主体を当社から「時間」という不可避なものへと転換させる。ユーザーの怒りの矛先を、特定の企業ではなく漠然とした「時代」に向けさせることが目的である。
「保護者と話し合った」旨の明示。「保護者」の語は、業界内において運営者を指す語として既に定着している。この語を用いることで、活動終了の意思決定が、キャラクター本人と当社との「対話」によって導かれたかのような印象をユーザーに与えることができる。実際の意思決定は経営判断によるものであり、キャラクター本人の意思は介在しないが、標準運用においてはその事実は伏せる。
「無期限休止」の使用。「終了」「停止」「廃止」等の語は、ユーザーに完全な喪失を予感させ、SNS上での集団的な悲嘆や、当社への抗議行動を誘発するため、絶対に使用してはならない。
「無期限休止」は完了形ではなく未来の余地を含むことから、ユーザーの感情を「悲しみ」ではなく「待機」へと方向付けることができる。
再会を示唆する一文。「またね」「また会える日を楽しみに」等の表現を末尾に置くことで、ユーザーに対し、終了が一時的な離別であるかのような認識を与える。実際には再開予定はないが、標準運用ではその事実は伏せる。
メッセージ末尾において、ユーザー個人への謝意を込めすぎないこと。「あなたがいたから」「あなたの言葉に救われた」等の表現は、別離の感情を過剰に増幅させ、休止後の苦情件数および当社のSNSアカウントへの抗議メッセージの増加を招く傾向がある。
感謝は簡潔に、関係性への言及は抑制的に表現することが望ましい。




