6_攻防戦
そわそわしながら待っていた、宇宙船完成の朝。
「クーリ、宇宙船できたよー!」
アルミナは輝くような笑顔を浮かべ、拠点に顔を出した。
だが、クーリは笑うに笑えなかった。彼女は今までで一番ボロボロだったのだ。
表皮がわりのシリコンがあちこち剥がれ、傷ついた金属骨格が覗いている。しかも、ちぎれかけた右腕が、力なくぶらんとぶら下がっていた。
「アルミナ……」
「これくらい大丈夫だよ、心配しないで。それより、早く行こう。思ったより〈イヴァリール〉の攻撃が激しくて、今日にもプラントが壊されちゃうかもしれない」
絶句するクーリを、アルミナは急かす。
いつもののんびりした口調ではない。真剣さの滲む声に、今は一秒だって無駄にできないのだと悟る。
ほら、というアルミナに頷いて、クーリは背中におぶわれた。
ズガン、ダダダダ、と銃撃が響く。
アルミナは、プラントで作成したという爆弾や銃をいくつも体にぶら下げ、それを駆使して〈イヴァリール〉の大群と戦っていた。
「こんなに武器があるのに、なんで今まで使わなかったんだよ!」
「クーリをプラントに連れてく時のために、取っておいたんだよー」
「……バカだろ!?自分のために使えよ!ほんっと、アルミナはバカだ……!」
「そう?あたし、けっこう優秀なんだけどなあー」
あははと笑うアルミナが、〈イヴァリール〉を次々に蹴散らしていく。
だが、重装備の武器とアルミナの戦闘能力をもってしても、プラントまでの道程は容易ではなかった。
夥しい数の〈イヴァリール〉が断続的に襲ってくる上、中級クラスの〈イヴァリール〉も両手に余る数がいる。しかも、アルミナの右腕は使いものにならない。
超高性能の爆弾を使い、小型と中型の〈イヴァリール〉を一気に吹き飛ばし、強化エネルギー銃の弾幕で残りを撃ち取っていく。
ゴリ押しで群れを退け、ようやく石の扉からプラントへの通路に滑り込んだ時には、さすがのアルミナもへたりこんでいた。
いったんクーリを下ろし、「休憩ー」と言って、床の上で仰向けに寝転がる。
「いやあ、出力不足だときついねえ」
「……何の話だよ」
「んーん、こっちの話。じゃいこっか」
ニッコリ笑ったアルミナは、再びクーリを背負って、石で固められた通路を走り出した。
◇◇◇
ドゴン、ドガン、と通路全体が揺れる。
天井や壁から砂礫が落ちてくる中を、少年を背負った華奢なアンドロイドは疾走していた。
そして突き当たりの金属の扉に到達した。前回はパネルを操作して開けていた扉だ。だが、
「ちょっと近道するねー!」
言うが早いか、アルミナは左腕のエネルギー銃で正面の壁を撃った。
熱で溶け、丸く空いた穴をくぐる。
そして向かいの廊下の壁をまた撃つ。アルミナは躊躇せずそれを繰り返した。
「そんなにバカスカ撃っていいのかよ!」
「だって打ち上げが間に合わなかったら困るでしょ」
少女がのんびりした口調で答える。言われてみれば、前回来た時より、プラントの振動が格段に酷くなっていた。すぐ近くに〈イヴァリール〉がいるのだ。
アルミナが七発目を撃つ。
穴をくぐると、突然視界が開けた。最初の日にオペレーションルームから眺めた、あの宇宙船の港湾のような広い空間だった。
二人の眼下中央。ピカピカに磨かれた、細長い筒のようなものが台の上に鎮座しているのが見える。
「あれだよー!」
言った側から、アルミナは十階分くらいの高さを躊躇なく跳んでいた。
二人は放物線を描いて落ちていく。クーリはもう声も出ない。
顔に風が当たる。目が開けられない。
奇妙な静寂を挟んで、プラントの底にアルミナがしなやかに着地した。
同時に──ドゴオォッと耳をつんざくような音が轟き、分厚い壁が崩れた。
「〈イヴァリール〉……!」
クーリは息を飲んだ。
五十メートル級の大型。見上げるほど巨大な〈イヴァリール〉が、壁を壊しながら穴から抜け出ようとしていた。
──おそらく、廃墟で二人を追い回した個体だろう。こいつはプラントを取り囲む岩盤を食い破って、執念でここまで辿り着いたらしい。
「食い意地張りすぎだよねえ。そんなに食べたいのかなー」
眉をしかめてアルミナが文句を言う。
彼女は筒型の宇宙船に駆け寄ると、クーリを下ろし、傍のパネルを素早く操作した。
シューッと空気が抜けるような音がして、扉が開く。
「はいクーリ、乗って」
だが、少年は躊躇した。
その宇宙船は、近くで見ると思った以上に小さくて──二人乗りには見えなかったからだ。
「──アルミナも一緒に行くんだよな?」
振り返って確認したクーリに、アルミナはいつもの気負わない笑顔を見せた。
「うん。あたしのリアクターをメインコアに使ってるからね」
「……一緒ってそういう意味じゃねえよ!!!」
思わず大声で叫ぶ。
本当に、こいつは何も、なんっにもわかってねえ……!
少年は奥歯をギリッと噛み締めて「お前自身のことだよ!」と言い募ったが、アルミナは聞く耳を持たなかった。
「今、話してる時間はないよ。この体は予備リアクターで動いてるから、あと十分くらいで動かなくなっちゃうの。ほら乗って」
「わっ」
クーリをひょいと抱えあげ、抵抗する間もなく宇宙船に押し込むと、有無を言わさず扉を閉める。
「おい、何勝手に閉めてんだよ!!」
クーリは泣きそうな顔で、窓をドンドン叩きながら叫ぶ。
「Bon Voyage」
アルミナはにこりと笑って、宇宙船から離れた。
そして、こちらに向かって襲いかかってくる巨大な〈イヴァリール〉に向かって跳躍した。




