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6-17話 世界樹のペンダント盗難事件(発生編)

 二階へ戻ろうとロビーを横切る剣人(ケント)と、二階から階段を降りてきた(テル)が鉢合わせする。

 バツの悪そうに目をそらす剣人(ケント)に――


「昨日はゴメン、剣人(ケント)!」


 ――(テル)は慌てて謝罪する。


「テ、(テル)……?」


 驚く剣人(ケント)に、(テル)は続ける。


「ボク、あれから言い過ぎたと思って反省したんだ。今の状況って、剣人(ケント)からしてみたらとんでもない事だもんな。それなのにボクは、キミの気持ちも考えないで……。本当にゴメンなさい剣人(ケント)、ボクは……」

「――ま、待ってくれ!」


 謝罪を続ける(テル)を慌てて止める剣人(ケント)


「あ、謝らないでくれ、頼むから! 悪いのはオレだ、そのくらい分かってる!」

「け、剣人(ケント)……」

「だけど……頭の中がグチャグチャで、まだ整理がつかないんだ……。だから……すまない、もう少し時間をくれないか……?」


 苦しい気持ちをぶちまける剣人(ケント)

 今の彼にはこれが精一杯なのだろうと、(テル)はそう察知する。


「……そっか。分かったよ剣人(ケント)……」

(テル)……」


 今まで通りとはいかないけれど、それでも何とか関係を修復しようとする二人。


 と、そこへ――。


「待つニャ、エルっち! 落ち着くニャよ!」

「落ち着いてなんていられるかよ! あの泥棒ドワーフ!」


 ――階段の上から、そんな叫び声が聞こえてきた。

 見ると二階から、二人の人物が駆け下りてきた。

 先頭にいるのは鬼のような形相をしたエルフ少年のエルウッド。

 それを引き留めようと、猫人族のミミーナが彼女を追ってきたようだ。

 エルウッドは待合スペースにいるパーティ仲間を見つけると、つかつかと駆け寄っていき――


「ドドンゴ、やってくれたな! この泥棒!」


 ――と、ドワーフのドドンゴに食ってかかる。


「ど、泥棒!? 何の事でござる?

「いいから返せよ、このチビ!」

「そう言われても……吾輩にはいったい何の事だか……?」


 すごい剣幕のエルウッドに、猫人族のミミーナが慌てて仲裁に入る。


「ま、待つニャ、エルっち! いきなり泥棒と言われても分からないニャ、いったい何があったのか、ちゃんと説明するニャよ」

「だから盗まれたんだよ! 俺の付けてた『世界樹のペンダント』が!」

「ペンダントって……いつも身につけているあのお守りかニャ? たしかにそれは大変だけど、でもそのくらいで、そこまで怒らなくたっていいじゃニャいか」


 軽く窘めるかのようなミミーナの台詞に、エルウッドは目をむいて突っかかる。


「そのくらいじゃねぇ! あれは俺の部族が村の外に出るときに身につけていなきゃいけない物なんだ! 失くしたら村に戻らなきゃいけなくなるんだよ!」

「って、ええー! そんなに大事なものだったのかニャ?」


 どうやら無くなった『世界樹のペンダント』というものは、相当大切なものだったらしい。

 ミミーナが焦った声を上げ、その言葉を聞いてドドンゴも驚く。


「な、なんと! あの『女神像のペンダント』が、そこまで大切なものだったとは……!」

「しらばっくれんな、ドドンゴ! お前知ってて盗んだだろ!」

「い、いや全く知らなかったが……」


 エルウッドの剣幕に、ドドンゴはパーティのリーダーに助けを求める。


「フォレスティーナ殿、あのペンダントはそんなに有名なものなのか?」

「うーん、同じエルフ族だと言っても、細かなしきたりなどは部族ごとに違うからねぇ。エルウッドの里のしきたりは、エルウッドしか知らないんじゃないかしら?」


 フォレスティーナ曰く、エルウッドの『村の外に出るときに必ず身につけていなきゃいけないペンダント』というのは、どうやら同族の彼女ですら知らないマイナールールのようだ。


「ともかくエルウッドっち、ドドンゴを犯人だと決めつけるのはやめるニャ」


 ミミーナはエルウッドを宥めようと必死だ。


「そもそもパーティメンバーを疑うのがおかしいニャ。ただの泥棒の仕業じゃないのかニャ?」

「ただの泥棒って、誰があんなものを盗むんだよ!?」

「あんなものって……世界樹が素材なら、盗めば高く売るんじゃないかニャ?」


 ミミーナが疑問を投げかけると、それにフォレスティーナが答える。


「世界樹は珍しいけど、所詮は木よ。ペンダントに使われる程度の大きさだと何の素材にもならないし、欲しい人なんているのかしら?」

「フォレスティーナの言う通り、あのペンダントに盗むほどの価値はない! だからこれは俺を追い出したいドドンゴの仕業なんだよ!」


 冒険者パーティの言い争いが続く中、それを見ていた(テル)は――


(こういう他人の揉め事には、首を突っ込まない方がいいんだろうけど……でも、これってレベルアップのチャンスだよね?)


 ――と、そんな事を考え始めた。


(異世界転移で『探偵』なんてふざけたジョブ、ふざけるなって思ってたけど、なんだかんだでこれまで助けられてるからなぁ。レベルを上げられるのなら上げておきたいけど……)


 そこで(テル)はふと弱気になる。


(って言っても、ボクにまた事件解決なんてできるのかな? そりゃ異世界に来てから二つほど事件を解決してきたけど、でもそれってボクの感覚だと運がよかっただけって感じなんだよなー。同じように今回も事件解決出来るかって言われたら、自信なんてないんだけど……)


 そうして悩みだす(テル)

 だが――


『テルちゃんがその気になれば名探偵なんて簡単になれちゃうんだから』

『ずっとテルちゃんと一緒にいたから、アタシはテルちゃんがどれだけすごい人か知ってるよ』


 ――そんな風に言ってくれた幼馴染の言葉を思い出す。(※1ー9話参照)


(……そうだよ、陽莉(ヒマリ)はボクにそう言ってくれた。陽莉(ヒマリ)が信じてくれるなら、ボクだって自分を信じないと! ボクがこの事件を解決するんだ!)


 (テル)はひそかにそう決意したのだった。

 そんな(テル)の横で、冒険者パーティの混乱は続いている。


「もう我慢できない! 早くペンダントを返せドドンゴ! それでパーティを抜けろ!」

「お、落ち着くニャ、エルっち!」

「そうよエルウッド、ひとまず落ち着いて!」

「すまない皆……吾輩のせいで……」


 エルウッドがさらにヒートアップし、収拾がつかなくなってきたその時――


「ちょっと待ったぁ!」


 ――そう叫び、争う冒険者パーティの間に割って入る(テル)

 突然の乱入に、一斉に顔を見合わせる冒険者達。


「お、おいっ、何やってんだよ(テル)!」


 慌てる剣人(ケント)を尻目に――


「その揉め事、ボクが解決して見せましょう!」


 ――(テル)はそう言い放ったのだった。

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