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6-6話 ファンタジーな人たち①

 イストヴィアへ向かう街道をゆく、(テル)たちを乗せた二台の馬車。

 日が沈み、空が茜色から徐々に紫紺に染まりはじめるころ――。

 馬車は街道沿いにある小さな宿場町にたどり着いていた。

 

「今日はここまでね。この町で一泊して、また明日出発だよ」


 (ミオ)の一言で、一行はこの宿場町で宿泊することとなった。


「行軍の間はキャンプで体を拭くぐらいしかできなかったからね。ちゃんとお風呂のある宿に泊まりたいかな」


 そんな(ミオ)の希望通り風呂付で、(テル)たち七人と御者を含めた全員の部屋の取れる宿屋を探すと――。

 閑散期のため客も少ないようで、一件目の宿屋ですぐに人数分の空き部屋が見つかった。


 一行が泊まる事となった宿屋は、川沿いに建つ四階建てで、こちらの異世界ではよく見かける木組みと白壁の外観の建物。

 玄関先には小ぶりな庭園もあり、異世界の地方にあるホテルとしては標準的な規模のものだ。

 門扉をくぐり庭を抜け、建物の正面にある両開きの玄関から宿屋に入る。

 扉の中は小さいながら二階まで吹き抜けになっているロビーで、入って右側にフロントのカウンター、左側には食堂と、その奥――浴場やランドリーはこちらと書かれている――に繋がる廊下が見えた。

 ロビー中央には客が自由に座れるソファーや机が並び、客がくつろげるラウンジとなっている。

 そしてロビーの正面奧には横幅の広いサーキュラー階段(緩い曲線を描く扇状の階段)があり、二階へと続いているようだ。

 どうやら一階は浴室や食堂などといった宿泊客向けの施設のみで、客室は全てサーキュラー階段の先、二階より上の階にあるようだ。


「聞いたら今はオフシーズンで、私たち以外にはあと一組しか宿泊者がいないんだって。だから急な宿泊でもすんなり部屋を取れたんだ。すぐにチェックイン済ませるからちょっと待っててね」


 そういって他の面子をロビーに足止めし、フロントへ向かう(ミオ)

 残された(テル)達は、待合用に置かれたソファーで寛ぎながら(ミオ)が戻るのを待つことに。


「よかったぁ、やっとまともな場所で寝られそうだよ」


 そう安堵したのは(テル)だ。

 考えてみれば(テル)の異世界生活は、初日にベットで寝た以外、城では牢屋で過ごし、魔の森やグリフォンでの移動中はずっと野宿をしていた。


「いままで大変だったんだよなぁ。そういや剣人(ケント)の方はどうだった? 異世界転移してからどんな感じ?」


 手持無沙汰で待っている間、(テル)が何気なく剣人(ケント)に話しかけたのだが……。


「…………」

剣人(ケント)……?」


 暗い顔で何も答えない剣人(ケント)に、怪訝の念を持つ(テル)

 だがそれを追求する前に――


「だから言ってるだろ! もうこんな奴とは組んでいられないって!」


 ――そんな怒鳴り声がロビーに響き渡り、(テル)たちの会話は中断された。

 驚いた(テル)が辺りを窺うと、食堂の方からロビーに戻ってくる集団がいた。

 おそらく(ミオ)の言っていた、(テル)たち以外のもう一組の来客グループらしく、怒鳴り声を上げたのはその中の一人の少年のようだ。


(……何だろう? 喧嘩かな?)


 興味をひかれた(テル)が様子を伺う。

 全員が武器と防具で身を固めた、四人組の冒険者パーティだ。

 それも――全員が人間ではない様子。


(うわっ! ファンタジーだ! ファンタジーな人たちがいるよ!)


 内心で思わず歓喜の声を上げた(テル)


(あの綺麗な二人はエルフだよね? あっちの髭モジャで背の低い人はドワーフでしょ? わぁあ、猫耳! 猫耳もいるぞ!)


 先ほどの剣人(ケント)とのやり取りを忘れ、(テル)は初めて遭遇する亜人たちにテンションを上げる。

 どうやら(テル)が想像したとおり、彼らは喧嘩中のようだ。


「とにかくもう嫌なんだよ! こんなチビと一緒にパーティを組むのは!」


 そう叫んだのは、高校生くらいの年齢に見える……おそらくは少年。

 なぜ推定なのかと言えば、その恐ろしく整った容姿のせいだ。

 声や態度などから男性だと思われるものの、黙っていればきっと美少女だと勘違いされるだろう。

 プラチナブロンドの髪に色白の肌、さらに白い神官風のローブを身に着けている、とにかく白い印象の美少年だ。

 彼の身長と同じくらい長い木の杖を持っており、耳が人より長く尖っているのは『エルフ』と呼ばれる亜人種族の特徴だ。

 エルフといえば――森に住み魔法に優れ、全員が見目麗しいとされている種族で、言われるまでもなくファンタジーを代表するような存在だろう。

 (テル)がこっそり[探偵の鑑定眼]を使うと……。


====================

 名前:エルウッド

 性別:男 年齢:32 種族:エルフ族

 状態:なし

====================

【ジョブ】

 [回復術師Lv.5]

====================

【称号】

 [森の守り人][中級魔術師][勉強家][D級冒険者]

====================

【ステータス】

 ステータスレベル:21

 HP:215/248 MP:308/370

 攻撃:159 防御:134

 魔力:280 魔抗:224

 器用:156 俊敏:141

 幸運:68

====================

【アクティブスキル】

[精霊魔法Lv.7][回復魔法Lv.5]

====================

【パッシブスキル】

[魔力+40][魔抗+20][HP最大値+20][MP最大値+20]

====================


(やっぱり、種族がエルフ族ってなってる! ボクと同い年くらいに見えるのに37歳って、やっぱりエルフは長生きなんだなぁ)


 ステータスを見た(テル)が独り言ちる。


 ちなみにエルフというのは、亜人の中で最も寿命が長いというのも特徴の一つだ。

 とはいえ何千年も生きるわけではなく、この異世界のエルフの寿命はせいぜい人間や他の亜人の寿命の二倍程度。

 なのでこのエルウッドというエルフの32歳という年齢は、人間で言うと16歳といったところだろう。


 ついでにエルフを含めた亜人全体の特徴を語っておくと――彼らは人間と違い、必ず生まれながらに称号を持っている。

 どんな称号かは種族ごとに決まっていて、エルフ族の場合は必ず『森の守り人』という称号を持って誕生するのだ。


====================

[森の守り人]

 エルフ族が生まれながらに持つ称号。

 習得スキル:ジョブスキル[精霊魔法]

====================


 この称号を全てのエルフ族が持っていて、だからこそエルフ全員が[精霊魔法]を使え、それが種族の特徴になっている。


「コイツとパーティを組んだ事が間違いだったんだよ!」


 そんなエルフの少年――エルウッドが先ほどから怒鳴りつけている相手は、子供のように小柄だが髭モジャな男性だ。

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