6-5話 ボーイズトーク~剣人の心情~
一方その頃――。
照たちの乗った馬車の後ろに続く、男子グループの乗る馬車のキャビンの中では――。
「あっちの馬車は女子ばっかりで楽しそうだなぁ~。オレもあっちに乗りたかったのに……」
そう不満を漏らしたのは、一年ぶりに戻ってきたエロエロ勇者の尊だ。
尊はキャビンの中を見渡すと、ハァとため息をつく。
「何が悲しくて、こんな男ばかりで馬車の旅を……」
「オメーみたいな性欲魔人を女の群れに放り込むとか、そんな危険な事できるわけねーだろ」
乱暴な口調で切り返したのは、銀槍騎士団長でオールドスタイルヤンキーの蓮司だ。
「だいたい尊、テメェ一年以上も顔見せねぇで、いったい何処をフラフラしてやがったんだ?」
「ん~、まぁ、エロエロ……じゃなくてイロイロ?」
「お前まさか……一年もずっと女のケツ追っかけてたんじゃねーよな?」
ジト目で睨む蓮司に、尊は胸を張って答える。
「追うならオレは、ケツよりも断然おっぱいだが?」
「そういう意味じゃねーよ! ったく、お前は全然変わってねーな。ちったぁ成長しろよ?」
「そういう蓮司さんは一年で変わっちゃった? 昔は喧嘩三昧だったけど……ひょっとしてまだ女性は苦手なままなのか?」
「ちっ、ちげーし! 苦手じゃなくて硬派だっつってんだろうが!」
仲の良い男子特有のノリで、旧交を温め合う尊と蓮司。
そんな二人の隣ですやすやと眠っている剣人。
照の男体化にショックを受け倒れたまま、馬車に放り込まれて移動中だった。
「うぅん……はっ!」
「おっ、気が付いたか剣人」
ようやく目を覚ました剣人に声をかける蓮司。
意識をハッキリさせるよう首を振ってから剣人が応える。
「蓮司さん……。ちょっと聞いてくださいよ、俺今酷い夢を見ちゃって……」
「夢? いったいどんなだ?」
「実は夢の中で、やっと照に再会できたんですけど……」
「何言ってるんだ剣人? さっき実際に再会してたじゃねーか?」
「そしたら何故か、照が男になっちゃってて……。アハハ、そんなあり得ない悪夢を見ちゃったんですよねぇ」
「あ? 照はそもそも男じゃないのか?」
あくまで夢だと言い張る剣人に、蓮司の方は首をかしげる。
「あーそういや異世界転移すると容姿や性別が変わっちまうことがあるんだっけか?」
「……そ、それがどうかしましたか、蓮司さん?」
「あ~言い難いんだがな、剣人……それ夢じゃねーぞ?」
「ちょ、な、何を言って……?」
あくまで現実を認めない剣人に、蓮司がトドメの一言を放つ。
「可哀そうだがお前の好きだった子は……もう男だ」
「ぐぁああああああっ! 現実がエグすぎるぅうううううっ!」
目覚めて早々で剣人は、受け入れがたい現実に撃沈する事になってしまったようだ。
照が男になっていたことにショックを受けた剣人は、頭を抱えたままキャビンの隅でうずくまる。
(照……どうして男なんかに……)
鬱鬱となりながら考えるのはもちろん照の事だ。
(ずっと好きだって言い続けて、ずっと断られ続けて……。それでもいつかきっと、オレの気持ちは伝わるんだって思い続けてきたのに……。それがどうして男に……? どうしてなんだよ照……)
過去の照との思い出を振り返りながら悩み続ける剣人。
そんな彼の様子を見守る蓮司と尊は――。
「う~ん、そこまでショックなもんか? 好きな女が男になっちまうってのは……」
「そりゃ当然でしょ蓮司さん。男が女を求めるのは理性じゃなく本能だからね。ポリコレだのコンプラだのと言われたところで、変えられるのは理性までで本能までは無理だって事さ」
「まぁ尊は本能のままに生きてるからなぁ。どっちにしろ俺にはよく分かんねーわ」
「そりゃ恋愛したことなさそうな蓮司さんには共感できないかもね。そもそも女が苦手なんだし」
「なっ、チゲーって言ってるだろ! 俺は硬派なだけ! 硬派なだけだからな!」
そんな二人の会話に加わる事もなく――いまだ一人思い悩む剣人。
普通では経験できないような特殊な悩み。
当然すぐに答えが出るわけもなく――剣人の苦悩の旅は続く。




