5-9話 ドラゴン出現
「――ドラゴンだって!?」
戦場に突如として現れたドラゴンに、澪は思わず声を上げた。
「ドレイクタイプで白い体躯……スノードラゴンに間違いない! しかもあそこまでの巨体、最低でもエルダー、下手をすればエンシェントクラス! Sランクオーバーの大物だよ!」
ちなみに魔物はその強さでランクがFからSSに分類されている。
Fランクは一対一なら一般人でも倒せる程度の弱い魔物。
Eランクは駆け出し冒険者が一人で何とか倒せる程度の魔物。
Dランクは一人前の冒険者が一人で何とか倒せる魔物。
Cランクは中堅冒険者が一人で何とか倒せる魔物。
Bランクは一流の冒険者一人か、中堅冒険者がパーティを組んで倒せる魔物。
Aランクは一流の冒険者がパーティを組んでようやく倒せる魔物。
そしてSランクの魔物ともなれば、一匹で都市を壊滅できるほどの力を持っている。
さらにそのランクに収まり切れない強さの魔物を称してSSランクと呼び、それはもはや災害であり、人の手に負える存在ではないとされているのだが……。
ドラゴンの成龍はB~Aランク。
長く生きたものがエルダードラゴンと呼ばれるSランクへ。
その中から優れた個体がSSランクのエンシェントドラゴンに到達する。
今回の巨大なスノードラゴンは、低く見積もってもエルダークラスの化け物だ。
「まさかあのドラゴンも[隷属魔法]で? あり得ない、あんな化け物を使役できるわけが……」
澪が驚くのも無理はない。
本来[隷属魔法]では自分より弱い魔物しかテイムできないと認識されている。
何故なら――
通常、魔物は強ければ強いほどテイムできる確率が低くなる。
さらにテイム対象の魔物が負けを認めないと、テイムの確率はさらに低くなる。
――この二つの事実から、テイムできる魔物は必然的に自分より弱い魔物に限られてくるからだ。
普通の人間がS級クラスの魔物をテイムするなど、常識的に考えてあり得ないことなのだ。
さらに言えば――。
[隷属魔法]で使役できる魔物の数も、通常であれば五~十匹程度が限界だ。
理由は従魔の数が増えるほど、次の魔物をティムできる確率が下がるから。
本来であればウェルヘルミナのように、何十匹もの魔物を使役するなどあり得ない事なのだ。
だが彼女の場合、そこにひとつのカラクリがある。
ウェルヘルミナは生まれつき二つの称号が与えられていた。
その一つが前掲した[アインノルド女王]という称号。
そしてもう一つがこれだ。
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[スーパーラッキースター]
超幸運の星の下に生まれた者に与えられる称号。
取得スキル:幸運値+7777P
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この称号の力によって、ウェルヘルミナは常人よりもはるかに高い幸運値を持っている。
強い魔物のティムは確率が低く、複数のティムも確率が下がる。
それが[魔物使い]の常識だ。
だがそれは、どんなに低確率とはいえ可能性はゼロではない。
たとえ相手がS級ドラゴンやユニークモンスターであったとしても――。
たとえ何十、何百匹目の従魔化だったとしても――。
――テイムできる可能性は僅かながら残されている。
それが『宝くじに当たる』くらい低い確率であったとしてもだ。
そして――その僅かな可能性を引き当てることができるのがウェルヘルミナだ。
彼女のあり得ないほど高い幸運値によって、彼女は多くの魔物をティムし、S級スノードラゴンをも従魔にするという奇跡を起こしていたのだった。
――ギャオオオオオオオオオンッ!
そんな彼女の従魔であるドラゴンは、気の赴くまま周りの人間を襲い始めていた。
悲鳴を上げて逃げ惑うも、人が多すぎて逃げられない様子。
その様子に澪が危機感を募らせる。
「いけない、このままじゃ!」
そのとき澪の隣から――
「テメェらよく聞け!」
――という蓮司の号令の声があがった。
「オレは今からあのドラゴンをぶっ倒しに行く! だからテメェらは、民衆を助けろ! 盾となって守り、安全な場所へ誘導しろ!」
蓮司の激に、彼に従う騎士たちが揃って「「「はっ!」」」と応じる。
「行くぞ、ミオ! あのドラゴンを仕留める!」
「ええ、分かった!」
蓮司と澪は頷きあうと、馬に乗って軍の先頭に立ち駆け出した。
「ビビんじゃねーぞテメェら! 突撃だぁっ!」
――うぉおおおおっ!
唸るような喊声を発し、イストヴィア公爵軍が突撃を開始した。
* * *
――そのころの照、朔夜、鈴夏の三人は、アインノールド城を脱出して城下町にいた。
さらに町の外へと脱出すべく、城門の方へと向かっていたのだが……。
「な、なんだよ、この人の群れは?」
城門の見える街路までやってきたところで、城外から逃げ込んできた群衆に遭遇してしまった三人。
その人波に押し戻され、照たちは城門へたどり着けずにいた。
群衆を避け何とか路地に逃れたが、城門から流れ込んでくる人波は衰えず、照たちは移動もままならない。
「外で何かあったのかな? これじゃ城門から出られないんだけど……」
そうして照たちが城下の路地で右往左往していると――。
「キュイイイイイイイイイイッ!」
甲高い鳥の声がし、大きな影が頭上を通過した。
見るとグリフォンが、照たちの上の空を旋回している。
「な、なんだアレは?」
「グリフォンというやつかしら?
どうしてこんな町中に……?」
突然現れた魔物に、不安な顔を覗かせる鈴夏と朔夜。
だが照は笑顔を見せる。
「大丈夫です! アイツは味方ですよ!」
旋回していたグリフォンは、手を振る照を見つけると、彼から近い着陸できそうな場所を探す。
「きゃあああ! グリフォンよ!」
「わぁあああ! 逃げろぉ!」
街路にいた人々が逃げ惑う中、グリフォンは彼らを押しのけるように着陸した。
そして逃げる人波に逆らって、照がグリフォンに近づいていく。
「お前、グリードだよね? 尊兄ちゃんはどうしたの?」
照が傍までやってくると、グリフォンは首を回し、自分の背に促すような仕草をする。
「……もしかして背に乗れって言ってるの?」
照の質問に、グリフォンは肯定するように「キュィイ!」と鳴いた。
「ありがとう」とグリフォンの首筋を撫でてやり、照はグリフォンの背中に乗る。
そして後ろから追ってきた朔夜と鈴夏に声をかける。
「朔夜さんと鈴夏さんも! 早く乗ってください!」
照に従って二人がその背に跨ると、グリフォンは空へと飛び上がった――。




