5-2話 三者三様の現在
ウェルヘルミナからの折檻(?)を終えて、朔夜は牢に戻される。
その牢の中にはベッドが二つあり、その片方には先客がいた。
連続爆破事件を担当した刑事であり、今はカッコいい系美少女の鈴夏だ。
二人は揃って牢から連れ出されていたのだが、どうやら鈴夏の方が先に戻っていたようだ。
朔夜の姿を見とめた鈴夏は、軽く手を上げ彼女を迎え入れる。
「ああ、戻ったな朔夜、大丈夫だったか?」
「ええ、鈴夏さん。思ったのとは違う意味でひどい目には遭ったけれど、無事は無事かしら」
牢に放り込まれた朔夜は、鈴夏と向かい合うようもう一つのベッドに腰を掛ける。
「それで鈴夏さん。そちらはどうだったのかしら?」
「……ベッドに磔にされて、ずっと侍女に胸を揉まれていたよ。侍女は例の魔法で操られているのか、無表情で揉み続けているのがひたすら怖かったな……」
「あー、鈴夏さんの方もそんな感じだったのね……」
二人は顔を見合わせてため息をつく。
「でもまぁこれなら、当分は命の危険はおろか貞操の危機もなさそうかしら」
「……とはいえいつまでもこんなところに閉じ込められてはいられない。うまく隙を見て抜け出せればいいんだが」
「それなら大丈夫よ鈴夏さん。きっと照くんが助けてくれるわ」
「照が? しかし朔夜、彼は……」
「大丈夫、彼に任せていれば万事解決してくれるわ」
どうやら朔夜はすっかり照の事を信頼しているようす。
「だって彼は本物の探偵だもの。探偵はどんな難事件だって颯爽と解決するものよ」
……いや、照に対する信頼ではなく、探偵に対する妄信だったようだ。
そうして二人の乙女の夜は、牢屋の中で更けてゆく――。
* * *
一方その頃――。
星の煌めく夜空の下を、照と尊の乗ったグリフォンが飛んでゆく。
向かうのは照が最初に異世界転生してきたノルド城だ。
目的は同じ異世界転移者で、囚われの身となっている朔夜と鈴夏を助けるため。
彼らの頭上に浮かぶ大小二つの月。
その月をグリフォンの背から見上げつながら、照は焦りの表情を滲ませていた。
(ボクたちが異世界転移してもう五日。その間、朔夜さんと鈴夏さんはあの城に囚われたまま……。二人とも、大丈夫なのかな……?)
「……大丈夫だ、照。気を揉むなよ」
照の様子を察した尊が声をかける。
「前にも言っただろ。[隷属魔法]はそもそも魔物専用の魔法で、さらに知性のある者にかけるのは難しい。ましてや人間にかけるなんて余程でなければ無理な事。だから大丈夫、照の友達はまだ無事なはずだ」
「尊兄ちゃん……」
尊の言葉に、少し安心した様子を見せる照。
「安心しろ、照。だから……」
尊は優しい声で話を続ける。
「だから安心して空の旅を楽しめ。ほら、いい眺めだぞ。月ばっかり見てるんじゃない。下の景色を見ろ、景色を」
「や~め~て~! 高い所だって思い出させないで~! 高所恐怖症だって言ってるだろ!」
「いいから見ろって、ホラ!」
「い~や~~~~っ!」
……照は見事に朔夜の期待を裏切る、情けない姿を晒しているのだった。
ともかく――二人は順調にノルド城に近づいている。
* * *
朔夜がウェルヘルミナに乳を揉まれ、照がグリフォンで空を飛んでいた夜――。
その日より遡ること二日前の事――。
ウェルヘルミナ――アインノールド公爵――の反逆を知ったクニミツ――イストヴィア公爵――は、即座にアインノールド公爵領への軍隊派遣を決定した。
先行隊として、銀槍騎士団長・蓮司の率いる騎馬隊三千と、魔法騎士団長・澪の率いる馬車の魔術師団五百が出陣。
そして現在――。
アインノールド公爵領の首都である城郭都市アインスノーへと向かう街道を行軍する先行隊。
その中に照の幼馴染で同じ転移者である剣人の姿があった。
剣人は魔法騎士団の馬車に乗り、焦る気持ちを必死に抑えていた。
「――くそ! まだ照のもとには着かないのか? 急がないと今頃、どんな目にあっているか分からないのに……!」
「焦らないで、剣人くん」
その気持ちを察知して、剣人に声をかける女性。
魔法騎士団長を務める、ガッカリ眼鏡美人(※栄太談)の澪だ。
「アインスノーに着くのは明後日。今からそんなに気を張ってたら持たないからね」
「分かってます、ミオさん。分かってますけど……もっと早く着かないんですか?」
「それは無理よ。いくらイストヴィア領とアインノールド領が隣同士だとは言え、行軍にはそれなりの時間がかかるわ。むしろこれでも急いでいる方よ。騎兵と馬車だけで先行して、何とか明日に到着できるって状態なんだから」
「でも……照が……」
「だから焦ってはだめ、剣人くん。キミの想い人はきっと無事だって。私たちが必ず助け出す、だから……」
そこで一拍おいて思案を巡らせた澪は、いい事を思いついたように顔を輝かせて剣人に提案する。
「そうね、剣人くん。今は彼女を助け出してからの事を考えましょう」
「……助け出してからの事?」
「そう、城にとらわれた想い人を助け出せば、再会したときにきっと感謝してくれるはず。これってキミの気持ちを伝える絶好のチャンスなんじゃない?」
「オレの気持ちを伝えるチャンス……?」
剣人は想像する。
危機に陥った照を助け出し、自分の思いを照に伝える。
そしたらアイツは――。
『ありがとう、剣人。助けてくれて嬉しかったよ』
『ボク、ようやくわかったよ。ケントがどれだけ大切な存在か』
『だから……いいよ。ボクの全部、ケントにあ・げ・る』
その瞬間、焦るばかりだった剣人の瞳に希望の光が宿る。
「――うぉおおおおっ! 待ってろ照、絶対に助け出してやるからな!!!」
「そう、その意気だよ剣人くん! ポジティブに行きましょう! 愛は必ず勝利するんだから!」
澪に励まされ、元気を取り戻す剣人。
だが……剣人はまだ知らない。
その自分の想い人が、TS転移して男になってしまっていることを――。




