３－７話 戦争が始まる
栄太とイリアの『成人の儀』が終わり、最後に剣人が『成人の儀の間』に入る。
部屋の中には祭壇があり、剣人はその祭壇の前に立つ。
横に控えた神官に促されるまま、祭壇に飾られた水晶に触れる剣人。
その途端に水晶が輝きだし、光が剣人の体を優しく包み込んだ。
光はそれからしばらく続き……３０秒ほどでパッとはじけるように消えた。
「……これで儀式は終わりなのか？」
あっけない終わりに首をかしげる剣人。
隣で見守っていた神官から「『ステータスオープン』と言えばウィンドウが開きますよ」と教えられ、その通りにステータスを開いてみる。
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
名前：ケント・サクライ
性別：男 年齢：１６ 種族：人間
状態：なし
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
【ジョブ】
［侍Ｌｖ．１］
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
【称号】
［異世界からの転移者］[見習い戦士]
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
【ステータス】
ステータスレベル：１
ＨＰ：３５／３５ ＭＰ：１８／１８
攻撃：３０ 防御：１２
魔力：１３ 魔抗：１０
器用：１１ 俊敏：１０
幸運：６
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
【アクティブスキル】
［剣術Ｌｖ．１］［二刀流Ｌｖ．１］
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
【パッシブスキル】
［経験値×１０倍］［攻撃力+１０Ｐ］
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
【新スキル解説】
［剣術Ｌｖ．１］
剣を使用するスキルを覚える。
習得条件：ジョブ［侍Ｌｖ．１］の獲得。
［二刀流Ｌｖ．１］
二本の剣を使用するスキルを覚える。
習得条件：ジョブ［侍Ｌｖ．１］の獲得。
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
儀式はちゃんと終えていたようで、ジョブの欄には［侍］という表示がされていた。
付き添ってくれた神官に頭を下げて、剣人は『成人の儀の間』から出る。
「どうだったかな、剣人くん？ ちゃんとジョブはもらえた？」
外で待っていた澪から尋ねられ、剣人が応じる。
「儀式は無事終了したみたいです。ちゃんとジョブの欄に［侍］って書いてありますし」
「［侍］かぁ。刀での戦いに特化したレア職ね。スポーツマンっぽいキミには合ってるんじゃないかな？」
「そうですね。俺、剣道部でしたし、ちょうどいいかも」
「ならピッタリね。女神様はちゃんと見守ってくれてるのよ、きっと」
「ちゃんと……？」
澪に言われ、この世界に送られる前に会った、自称女神の少女を思い出し――
（なんだか情緒が不安定な感じの子だったけど……。あの子が女神様な世界って、ホントに大丈夫なのかな……？）
――なんとなく不安になる剣人だった。
＊ ＊ ＊
コンコン……とノックをする音が廊下に響く。
もうすっかり日も暮れた頃、剣人は再び陽莉のいるであろう部屋の前に立っていた。
「陽莉、あのあと『成人の儀』っていうのに行ってきたんだ。そこでジョブというのを授かってきた。ここはホントにゲームみたいな世界なんだな。明日は陽莉も一緒に行こうぜ。キミはこういうの好きだったろ？だから……」
剣人が声をかけ続けるも、やはり中からの返事はない。
「……おやすみ、陽莉。また明日……」
剣人はそっとその場を後にした。
＊ ＊ ＊
剣人たちが転移してきた翌日、転移者たちは再び応接室に集められた。
やって来たのは剣人と栄太、イリアの三人と、それを引率する澪の四人だ。
（陽莉……やっぱりいないか……）
そこに陽莉の姿が無い事に、ガックリと肩を落とす剣人。
「今日は……午前中は座学でこの国の事を学んでもらって、午後からはスキルを試しに初心者用のダンジョンにでも行きましょうか？」
「えー勉強？ 気が進まないでござるよ……。澪どの、お願いだから先にダンジョンに行こうでござる」
「だからダンジョンの事も先に学ぶのよ栄太くん。冒険はそのあとね」
そんな会話が続く中、バンッと応接室のドアが開き、中に一人の男が入ってきた。
「よう、お前らが新しい転移者かい？」
軽い口調で剣人たちに話しかけてきた男。
軽装で動きやすそうな鎧を身につけ、髪はサイドがリーゼントで剃り込みが入り、ポンパドールと呼ばれる前髪をしている。
そんな昔のヤンキー漫画でしか見たことのない髪型の青年が、応接室に揃った転移者たちを値踏みするように見回した。
「あら、蓮司。どうしてここに？」
「澪さんのお知り合いですか？」
剣人が尋ねると、澪は彼の紹介を始める。
「彼は私と同じく四年前に転移してきた、貴方たちの先輩にあたる転移者よ。名前は諸星蓮司」
「蓮司だ。今はイストヴィア銀槍騎士団長をやっている。よろしくな、新入りども」
側頭のリーゼントを撫で上げながら、軽い挨拶をする蓮司。
どうやら彼が、四年前に澪や陽莉の兄と共に異世界転移してきたもう一人の人物らしい。
「ムホホッ、見るでござるよ剣人どの。前髪がみょーんって、みょーんて、ウププッ。ヤンキー漫画でしか見た事ない、オールドスタイルヤンキーでござるよ」
ひそひそと剣人に話しかける栄太は、どうやら蓮司の髪型がツボに入った様子。
「エイタ……お前よく人の事を言えるな。お前のござる口調だって、昔のオタクキャラでしか聞いた事ないのに」
自分の事は棚に上げる栄太に、思わずツッコミをいれる剣人。
そんな二人を目ざとく見つけた蓮司が、「あぁん、何だオラ？」とガンを飛ばしてきた。
「おいテメェら。今オレの髪見て笑ってたよな？ ああ？」
「あ、いや、笑ったのはコイツだけで……」
「ぬぁっ！ 拙者を売る気でござるかケント殿！」
その会話で蓮司は栄太をロックオンする。
「おいテメ、俺の髪型になんか文句あんのかオラ？」
「ヒィイイイッ！ ごめんなさいでござるぅうっ！」
栄太の顔前１０センチまで迫って睨みつてくる蓮司
さすがはヤンキーの迫力で、思わず震えあがり身を縮こませる栄太。
と、そこへ――
「はいはい、後輩相手に凄まないの」
――と割って入った澪が、ペチンと軽く蓮司の後頭部を叩く。
「それで、何しに来たの蓮司？ まさか新人の転移者相手に、昔みたいに『初っ端ガツンとかましに来た』って訳じゃないんでしょう？」
「バーカ、もうそんな事はやらねーよ。いい加減俺も立場ある人間だからな、不良のノリは卒業したっての。つーか、新人教育はひとまず中止だ。クニミツのおっちゃんが、澪を呼んできて軍議に参加させろってさ」
「立場ある人間は、上司のクニミツ様をおっちゃん呼ばわりなんてしないからね。――にしても軍議って、いったい何があったの？」
訝しむ澪に、肩をすくめながら蓮司が答える。
「戦争が始まるのさ。アインノールド公爵――悪役令嬢って言われてるあのウェルヘルミナとな」
