868話
「こんにちは。おじゃまします」
「いらっしゃい、尚道くん」
雄太宅にやってきた尚道は鮮やかなオレンジ色の自転車に乗り、同じような鮮やかなオレンジ色のリュックを背負っていた。
門扉を開けてやると自転車を門扉脇にキチンと停める。
「尚くん。まってたぁ〜」
「トキくん〜」
楽しそうに笑う二人は洗面所に寄ってからダイニングへ向かう。
(本当、仲が良いなぁ〜)
門扉に鍵をかけ、ドアを閉めながら春香は楽しそうに話しながら歩く二人の背中を見詰めていた。
「トキくん、これわかる?」
「んとね」
仲良さそうにダイニングテーブルに並んで宿題を始める二人の邪魔をしないように、悠助と俊洋を庭で遊ばせていると理保が庭に出てきた。
「春香さん。凱央達は宿題中なのね」
「ええ。今日は一緒にするって言ってて」
理保はニッコリ笑って、ダイニングテーブルに並んで鉛筆を走らせる凱央と尚道の姿を見詰めている。
「ぷっ。雄太達の時には見た事がない光景だわ」
「お……お義母さん」
雄太と純也が子供の頃、大人しく勉強をしていた姿など見た事がなかった理保は吹き出してしまった。
春香も雄太と純也から走り回っていたとか、いたずらをして慎一郎や他の大人達からゲンコツをもらっていたと聞いていた。
「元気で走り回っている姿も良いけど、真剣な顔で勉強してる姿も良いわね。あの子達、本当に気が合うのね」
「はい。きっと長く付き合える友人になれると思います」
庭を縦横無尽に走り回る悠助と俊洋にも良い友人が出来ると良いなと思って見ていると、凱央がウッドデッキのドアを開けた。
「ママ。ちょっとべんきょうでききたいことがあるんだけど〜」
「え? あ」
「春香さん。悠助と俊洋は私が見てるわよ」
「お願いします」
春香が部屋に入ると尚道がホッとしたような顔をした。
「えっと……りかのしゅくだいのここがわからなくて」
「ぼくもわからないんだ。ママ、わかる?」
二人で一生懸命考えたのだろう。ノートには消しゴムで消した跡がある。
「ちょっと見せてね」
春香は二人の向かい側に座って教科書を見る。小学校一年生の問題なら難無く分かる。ただ、里美のように上手く伝えられるかなと思いながら、ゆっくりと凱央と尚道に説明をした。
(尚道くん、本当に勉強を嫌がってたとは思えないなぁ……)
尚道は、平仮名も片仮名も綺麗に書いていた。数字もちゃんと書けていて、分からない事が理解出来た時の笑顔は堪らなく可愛かった。
「これで分かったかな?」
「ありがとう、ママ」
「ありがとうございます」
「うん。宿題はこれで終わりかな?」
二人は揃って頷いた。
「じゃあ丁度オヤツの時間だし、手を洗ってきてね」
「うん。尚くん、いこう」
「うん」
二人は洗面所へ向かって行った。春香は外にいる理保と悠助達に声をかけた。
「お義母さん。お茶にしましょう〜」
「あら、そんな時間? 悠助、俊洋。オヤツですって〜」
「ハ〜イ」
「オヤツゥ〜」
ゆっくり歩く理保の傍を悠助と俊洋が駆け抜ける。リビングのドアからは凱央と尚道が笑いながら入ってくる。
「今日のオヤツは、カタツムリ型のクッキーだよ〜」
「わぁ〜。かわいいね、ママ〜」
「これ、トキくんママの手作りですか?」
「うん。今日、尚道くんが来てくれるって聞いてたから、朝から作ってたの。気に入ってくれると嬉しいな」
春香が皿に盛ったクッキーとココアをテーブルに置きながら話す。
「イタラキマス」
「イタァーキマシュ」
悠助と俊洋は手を合わせて大きな声でいただきますをする。凱央と尚道は顔を見合わせて笑う。
「いただきます」
「えっと……いただきます」
理保も四人の姿を見ながら笑っている。
「お義母さんには少し早いですが、夏越の祓です」
「あら。ありがとう、春香さん」
理保の前に水無月と緑茶を置いて、春香はサクサクとクッキーを食べる子供達を見る。
いつの間にか悠助達とも仲良くなった尚道はオヤツの後、ブランコで遊んだりしてくれた。
(今年の夏は、いつもの夏と違う夏になりそう)
賑やかな庭を見詰めながら、春香はニコニコと笑った。




