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魔法博士と弟子兄妹  作者: 方円灰夢
第七章 ツィトロンの花咲く都
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【十二】 氷針毒

公園入り口付近まで進出したディドリクは殺意を感じたので、そこで索敵術を使う。

数人の魔術師は感じたものの、むしろ強い殺気はそうではない方から感じられる。

それともう一群、魔獣のような気配も感じられた。

「敵の傾向がわかるのかい?」とヴァルター。

「魔術師が数人、武闘派のような剣士が数人、そして魔獣の気配、と言ったところかな」

そう告げると、ブロムとロガガが、進言する。

「おそらくあの剣士もいるでしょうから、私に当たらせてください」

「魔獣がいるなら、ムシゴの民だよ」

ディドリクもその意見に同意し、二人に任せることにした。

「でも僕は剣士を相手にできないから、もう一人いてくれると心強いんだけど」

ロガガの発言を聞いて、ヘドヴィヒがヴァルターの方をチラリチラリと見る。

「そうだな、ブロム一人に任せるのは酷だろう。その強い剣士以外は、おまえがやれ。」

ヴァルターの許可をもらって、目が輝きだすヘドヴィヒ。

「ただし、ここが教皇領だと言うことを忘れるな」

と、ヴァルターがしっかり釘を刺してくれた。


「僕達はこいつを使いましょう」

そう言って、ペトラが残していってくれた荷物の中から、滅身防を取り出した。

「これは?」とヴァルター。

「隠れ蓑みたいなものです。視覚を遮ることができますが、音やにおいは漏れますので、そのあたりだけ注意を」

ディドリクの説明を聞いて、ヴァルター、メシューゼラも滅身防を被る。

ブロムの戦闘が始まれば、これを使って公園を突破する算段である。


公園入り口に近づくと、ブロムも、そしてティル、グレゴール達も隠れるような真似はせず、姿を見せ合う。

「決着を付けにきたぞ」

ブロムがそう言って一歩前に出る。

その後ろからヘドヴィヒが剣を抜き、ティルの後ろにいるグレゴールとその部下たちを見る。

直感的に、攻撃系の魔術師だと判断した。

ロガガは二人の後ろに隠れていたが、グレゴールの後ろから三人のムシゴ族が出てきたので、自分の役割を果たそうとした。

戦いはきって落とされた。



ポロネツのパトルロ館では、地下室から引き出されたアマーリアが、ギルベルタとともに二階の部屋が与えられ、軟禁されていた。

ロベール麾下の数人によって部屋の周囲を固められる中、ギルベルタとアマーリアが向かい合っている。

「あなた、いったい何をしでかしてロベール達にこんな目にあわされているの?」

しかしアマーリアはすぐには答えず、動かず、封術紙に縛られたまま、椅子に座している。

封術紙は本来、魔術師の詠唱呪文を封じるためのもので、一流の法術師には効かないのだが、アマーリアにはかなりの効果を出している。

つまり現時点ではアマーリアは術を封じられていて、ロベール達が心配していたような眼術も使えなければ、結界術や通信術も使えなくなっていた。

だが、先ほど見せてくれたギルベルタの自分に対する好意。

幼いアマーリアでもこのギルベルタという少女が、暗殺隊のメンバーではないか、あるいは何も知らされていないのだ、ということがなんとなくわかってきた。

それではなぜ暗殺隊のメンバーと一緒にいるのだろう?

そこまではわからなかったが、少しくらいなら話しても大丈夫かもしれない、という考えにいたった。

「私は、フネリック王国第二王女、アマーリアです」


「え?」

ギルベルタはしばらくぽかーんとした表情になる。

「その...なんちゃら王国の王女様が、どうしてこんなところにいるの?」

やはりここでもフネリック王国の名はあまり知られていないようだった。

「あの男の配下に拉致されたのです」

「それは、身代金目当てとかで、さらわれた、ということ?」

しばらく考えたのち、ギルベルタは言った。

やはり暗殺隊の存在それ自体、知らないようである。

「いえ、わたしはここで殺されるはずです」

アマーリアは震える心を抑えつつ、このギルベルタという少女の瞳を見つめていた。



暗殺隊との戦い、一番早く決着したのは、ブロムとティルの戦いだった。

既に何度か対峙し、お互いスキを見つけるまでの時期優先のようになっていたので、ブロムはある考えを持って、最初、軽く剣を打ち合った。

もちろんそれで倒せるわけではなく、ティルに軽く受け止められるのだが、それによって、建物の影に入り、有利な位置取りができた。

時刻は午後。傾きかけた南国の太陽は強い光を放っていた。

間合いをとるようにして足をずらし、影の際に来る。

そこから、体制が整っていたティルにうちかかった。

普通なら軽くいなされる、それどころか体の動きそのもののスキを突かれるのだが、ブロムは影から飛び出してくる形になった。

ティルの眼に、一瞬の逆光が入る。

その瞬間を狙って、ブロムが剣を突き立てる。

ティルの胸に朱の花が咲き、動きの鈍ったティルの剣は躱される。

ブロムの剣が、ティルの心臓を貫いていた。


一方、ヘドヴィヒの方も飛空術と氷針の攻撃で、敵魔術師の数を削っていた。

共同戦線である。

加えて市中の戦いになるため、いつもの毒霧は使えない。

そこで、次に得意な氷針を、しかも上空から撃つことにした。

もちろんその針の中心には、十八番の猛毒が秘められている。

上からの攻撃、それも無数に降り注ぐ、氷針のシャワー。

グレゴール配下の元ジャスピール部隊が次々と倒れていく。

だがその中にあって一人、幻が影の中を縫うように走り抜けて、氷針をかわす男がいた。

ヘドヴィヒは公園側に着地して、その男の前に立ちふさがる。

「おまえ、殿下から聞いているわ、グレゴールね」

ピタッと脚を止めたグレゴール。

幻のようにあいまいだった映像が一つになる。

「貴様、ノルド人か」


この二人の戦いを眺めつつ、ディドリク達は公園に飛び込んだ。

動きが散漫になるのと、どのみち音は聞き取られるため、ここで滅身防を脱ぎ去り、待ち構えていたコーニー達と向き合う。

既に詠唱を終えてたコーニーが手の前で炎を産み、それを放射。

ところがその炎はヴァルターの前でコースをはずれ、彼の周りを渦巻きながら、その支配下に入ってしまう。

「僕の得意技も、炎術の一種でね」

ヴァルターがにやりと笑うと、彼の周囲にまで到達していた炎が、さらに高温になってコーニーに返ってきた。

よけようとするも遅く、コーニーは自分の放った炎に包まれ、倒れる。


その前を行くディドリクが、スラーヴォと再戦。

ディドリクの電撃を警戒するスラーヴォだったが、ディドリクが今度は力場を使ってその足を止める。

地面の下に力場を設定して重力を増し、その動きを止めたのだ。

そして急に重たくなった足に動揺するスラーヴォを切り伏せた。

だが、この手もすぐに看破される。

ルーニーが残りの魔術師に指示を出し、直線的な移動に注意を促した。


メシューゼラはアビューギと対決。

両者、動きながら剣をふるうも、相手のからだに届かず、一進一退の様子。

だがお互い、相手に注意を奪われていて、コーニーを屠ったヴァルターが近づくのを発見するのが遅れた。

距離を取ろうとした瞬間、アビューギは脳天を炎弾に貫かれた。

「余計なことをしてしまいましたかな、麗しの赤髪姫」

と、ニヤリと笑うヴァルター。

しかしメシューゼラは汗をぬぐいつつ、

「とんでもありません、助かりました」

肩で息をするメシューゼラ。

やはり疲労がたまっているのか、と思っていたが、

「人に刃を向けるのは、まだ慣れません」

とため息交じりにこぼす言葉を聞いて、あらためてこの戦士がまだ少女であったことを思い出した。



公園入り口の戦いも終盤に近付いている。

ティルを倒したブロムが残りの剣士たちを切り伏せていく。

それを阻止しようとその前に立ちふさがる影が三つ。

うち、ムシゴの民が二人。

だが彼らが魔獣を呼び出す、あるいは魔術を展開するその前に、地に伏していく。

その足元から、何匹もの地虫が這い出てくる。

ロガガが放った有毒の地虫だった。

さすがにこの光景にはギョッとしてしまうブロム。

「ものすごい術ですな」

なんとかこう言葉を探して礼を言おうとするが、どうにもうまく言葉にならない。

「地に足をつけてる人ならこれが有効なんですけどね」

(それはどういう意味か?)

そう問おうとした矢先、その答えが飛び込んできた。

ペポポが操る滑空ネズミである。


一度これを見ているブロム、そして当然のごとく知っていたかのようなロガガも、咄嗟によける。

その前歯は鋭く、鋭利なナイフのごとく、触れるだけで切り裂いてしまう。

「ブロムさん、ネズミを相手にするより、その操縦者を斬ってください。僕が場所を探ります」

そう言ってロガガは滑空ネズミのコースに立つ。

中空で回転し、再び突っ込んでくる滑空ネズミ。

ところがその前に、羽虫の霧が現われた。

虫郡の中に突っ込んでいく滑空ネズミ。

コースが微妙にズレて、ロガガに届かず、またもやからぶり。

だがこのとき、操縦者の驚きと動揺がブロムにその所在を教えてしまう。

ブロムは反転して、その操り手が潜む林の影に向かった。

ペポポは魔獣を使うだけで、それ以外の技は持っていなかったため、一刀のもとに切り伏せられた。

サンハキの時と同様、操り手が倒されると、滑空ネズミ達は森の中へと帰っていった。


「滑空ネズミも本来はおとなしい草食獣です。あの技を使うのは、猛獣なんかに追い詰められた時だけですから」

そう言ってロガガはブロムとともに公園の中に飛び込んでいく。


ただ一組残った、ヘドヴィヒとグレゴール。

だが両者ともに焦りはなく、この戦いを楽しんでいるようだった。

「殿下がとり逃がした相手と戦えるのは、光栄だわ」

「儂も帝国の嫌われ者、にっくきノルド人の女魔術師と矛を交えるのは喜びだよ」

「言ってくれるじゃない、そうでなくっちゃ」

「それじゃ始めるか」

そう言い放つや、グレゴールの姿がブレ始める。

「幻術ね」

ヘドヴィヒは上段に構えていた剣を下ろし、どの角度にも対応できるよう、中断に構える。

殺気!

前方にまだ姿の残るグレゴールが、右真横から斬りかかってきた。

しかしそれを難なく受けるヘドヴィヒは、刀を返してグレゴールを斬ろうとする。

さっと飛びのくグレゴールは再び幻術の中に入る。

「私はね...」

ヘドヴィヒが笑みを浮かべながらその幻に語り掛ける。

「探査魔術を使ってもひっかからないような、法術師の幻を何度も見てるのよ」

そう言って今度は背後からの一撃を難なく躱す。

そして詠唱を始める。


何か様子がおかしい、と感じたグレゴールは幻を収め、魔念動の詠唱を始める。

だがその効果を発現させる前に、全身の筋肉が弛緩していくのを感じた。

肩口に、小さな氷針が刺さっていた。

次の瞬間、今度はヘドヴィヒが斬りかかってくる。

調子のおかしい腕をふるって、必死に剣で受け止めるグレゴール。

ヘドヴィヒが驚いたように飛びのく。

「すごいわね、私の神経毒を食らってまだ動けるなんて」

「そうか、その詠唱だったのか、うかつだったな」

グレゴールは明らかに劣勢を意識して、下がりながら言う。

「しかし、相打ちくらいにはもっていってみせるぜ」

だがそれを聞いてヘドヴィヒがあきれたような顔で言う。

「バカね」

「なに?」

「そんなことを聞いて、私が切り込んでいくとでも思ってるの?」

ヘドヴィヒは剣を下ろし、再び詠唱を始める。

「こ、これは?」

今度は全身に、小さな痛みを感じたグレゴール。

足首に、二の腕に、ふくらはぎに、次々と毒入り氷針が刺さっていく。

動きの鈍くなった剣では、飛んでくる氷針を躱せない。

ついに腰が砕け、膝をつく。

その刹那、ヘドヴィヒの、今度は大きな氷刃がグレゴールの首を切り落としていた。

「生憎ね。私は剣士じゃなく、魔術師なのよ」

そう言ってブロム達を追っていった。

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