祓う
茜は祠の前で邪霊と対峙する。
祠の一帯の緑は枯れ果て腐臭が漂う。
邪霊は竜のような見た目をしていて目の焦点はあっていない。鋭い爪が特徴的で岩をも砕く。何より腹には何か毒のようなものがあり、腹側に触れた生物が死に絶えるのが見える。それに触るのは危険なようだ。そして最も警戒すべきは尾だろう。それに貫かれたものからは水分が抜かれているようだ。これに捕まったら一撃でゲームオーバーとなる。
(当たり前だけど、生きて帰らなきゃね。今回は怪我も不味いかもな。)
茜の右目は相手を捉えるも左目は動く気配がない。まるで人工物のようで左目に違和感が残る。彼女は目を瞑りよく相手を視る。そして相手が此方を捉える気配がした。覚悟を決めて拳銃を構える。
茜が一発銃弾を発射した。
その銃弾は邪霊の鱗に当たり跳ね返る。
その反応が予想通りだとばかりにそのまま二発撃ち込む。一発は初めと同様に鱗に当たって跳ね返る。もう一発は目に当たり、そこからどろどろとしたようなものが噴き出て邪霊が身を捩る。
茜は口角を釣り上げた。
邪霊が身を捩ることで鱗に覆われていない腹が見えた。そこに向かって一発銃弾を放つ。そして一発目と二発目の跳ね返された銃弾に意識を向けて力を集中させていく。
力を流し込まれた二つの銃弾は宙に浮かび茜の意図するままに物理的にありえない軌道を描いて腹に衝撃を与える。
その衝撃は初めとは比較するのも烏滸がましい、周囲に影響を及ぼさないから爆発とは呼ばないが、それ以上の威力を周囲に与えることもなく邪霊に与えていた。
邪霊は身を捩り、行動すらも不可能となっている。
ただ痛みと本能のままに暴れ出す。最初の状態よりも追い詰められた状態の方が厄介といえるだろう。振り回してくる尾を茜は杖をつきながら避けていくも、そのうちスピードが間に合わなくなる。
茜は杖を戦闘区域から遠くに投げ出し杖で支えていた左脚に自分の中のエネルギーを流し込んだ。
そして、杖を持っていた左手でクナイを取り出し宙に浮かせ、思いのまま操って銃弾により見えた邪霊の心臓部に突き刺した。
鈍い音と液体が大量に噴き出る音を聞きながら油断することなく邪霊を見つめていると、ドロドロの死体になった邪霊はすぐに塵芥となって消えた。その様は生物が次第に自然に還る過程をありえないほどに早送りするようだった。
腐敗臭もしばらくすると収まり茜は邪霊が消え失せるのを確認してから自分が投げ出した杖を拾いに左脚を引き釣りながら向かう。途中、石に躓き、木にぶつかった。
(私もまだまだねぇ。邪霊を一体祓ったからといって気を抜いてしまうとは。)
自嘲しながら、周りの距離感を掴み直す。
生まれつき右目が失われていて、左脚は麻痺で動くことはない。
そんな左脚を眺めながら、義眼に触れる。
その義眼には潤いも感覚もない。
ふっと笑うもその笑顔の翳りは消えることを知らない。
茜は杖にたどり着き左手に杖を持ち直す。杖を使って優雅に歩く様は脚の麻痺など感じさせない。健常者の中でも美しい部類に入る歩き姿であろう。
茜は件の祠に近づいた。
今回の件考えるべきことがたくさんあるのだ。
一家はずっと祠に通っていた。では、何故今、死んだのか。余りにも不可解といえるだろう。それを検証するために祠の確認は行うべきと判断していた。
祠には札がたくさん貼られた箱が一つ置いてあった。
札は剥がれかけていて、嫌な気が漏れ出ている。とても強い邪気だ。先程祓った邪霊のそれに酷似したその邪気から、一家の死亡原因はこれであることは明らかであろう。
(偶然、封印が解けたから殺されてしまったのかしら…。いや、出来過ぎていると言わざるを得ないわね。)
元々祠に置いてあったのは残っている石と考えるのが妥当だろう。
石と祠は似通った年月を過ごしたようである。
しかしながら、その箱だけが異様に古く、また、長い間置き続けたことによる色褪せも動かした後の日焼けも見つけることはできなかった。
(推測はわたくしの仕事の範疇を超えるわね。どちらにしても、これは危険すぎる。)
茜は以前、特諜局で聞かされていた正体不明の殺人などを煽る存在を思い出しながら、箱をポケットにしまう。その箱の封印は随分と古いもので、茜に扱い切れる代物ではなかった。
(チッ。奴らに頼みたくはないが、今回ばかりは仕方があるまい。我慢して頭を下げようか。)
茜は踵を返し、真宮がいるところに向かう。
<次回>「世話係」 8月21日投稿予定




