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学習力の低下

 巴把(ジジイ)は自室の寝間で起きた。

 わずかに一昨日(おととい)の一缶がまだ少し残っているが、一日とは言え仕事を停滞させているはずなので今日は出て行くしかない。仕事は縦割り分担で、休んだからといって誰かがフォローに入ってくれるなんてこともないブラック環境な職場だ。人材は人財に非ず、使い潰すものとした団体。代わりはいくらでも居るらしい。されど増員はしない。

 残り一年を切った老人に担当作業の追加もされ、胃酸がいつもあふれてきそうだ。


 そういえば昨夜は、譜衣の姿で姪甫と諸護衆の一人と川の字になって寝たはずだが。

 いろんなシチュを考えたのち、詮索も探求もしない方が、それこそ精神的にもいろんな意味で安寧だと結論づけた。


 短い葛藤の後、身支度を調えたジジイは社会を担う有象無象の一つになるべく家を出た。



 通勤という名の修行。


 勤務という名の苦行。


 体力と精神を疲弊させ明日の糧しているのか。

 老眼に加えいつの間にか視力も衰えパソコンの文字も視認しにくくなり自分の存在価値がゴリゴリと削られていく一日。


 帰宅に癒やしはない。ただごまかし続けるだけ。


 帰り道、子供の頃は硬貨を握りしめてよく行った駄菓子屋に入った。

 この店は子供にとっては駄菓子屋だけど周辺住民にとっては雑貨屋だ。昨今の風潮でコンビニに取って代わられているが、くだらぬ話し、地域の話しなど昔なじみならではの安定感がある。


「あぁー、おばちゃんは奧か」

 ジジイにとって若い頃を知っている老婆はおばちゃんになる。一昨年亡くなったホビー好きのおやっさんと呼んでいたご主人がモデルガンやエアガンを扱い始めた頃からの付き合いだ。


 子供には知られていない暗証番号で施錠された扉から冷えた缶ビールを取り出し、売れ残っているホビーの棚を漁ってみると追加パーツやらのそれ単体ではガラクタでしかないものばかりだ。

 そりゃ売れ残るよなぁーと呟く。



 !


 懐かしい交換パーツと消耗品を見つけ思わず感慨深げににやけた。これは"お宝"だ。


 !!



 足下で佐右の目の色が異なる小さな黒猫がズボンの裾を引っ張って何か言いたげに見上げていた。

 動物に返事があるとは思っていないが、こんな場合はいつも言葉で伝える。

「なにかな」

『ホウキと一緒にお買い求め頂けませんか』

「なっ」

 ホウキと喋る黒猫だなんてまるで魔女みたいじゃないかと、頭の固くなり始めているジジイは硬直した。


 ほどなく店主が出てきて、正気になったジジイは缶ビールとお宝、そして座敷用のホウキ買って帰った。



 自宅に帰ると諸護衆の一人が迎えてくれたので、今夜は晩酌したいのと先日部屋の掃除をしていたときにサルベージしたものを出しておいて欲しいとフォルムチェンジしながら伝え、身繕いを済ませ集合先へと飛び出していった。


 今日の集合はメンバー各々が塾を終わらせてからとなっているので遅めに設定されている。譜衣としての設定を壊さないようにと集合場所に急いだ。


 点呼といつものパトロールを終えてやっと帰宅する。


「今日は一人でやりますので」

 出るときに言ったことが十分に伝わってなかったようで本来の姿に戻って、服を脱ぎかけて一緒に浴室に来ようとした当番の諸護衆に言った。

 それでも食卓の横に頼んでいたものがちゃんと揃えられていたことに安堵した。


 譜衣の姿でいると寝床までご一緒されるから自分でする。一人でする。あーやっと解放された気分だ。雄としての機能は10年以上前に終わっていると認識していたけど、ましてや譜衣は機能しないとしても、精神が♂を止めていない以上、苦痛でしかなかった。


 風呂から上がり、甚平を着てテーブルで冷えた缶ビールをグビリと口にしてから、一度ハンドコッキングしてトリガーを引いて空気の音を聞いてからテーブルの上にス○パーエンフォーサーを置いた。

 工具を使いパーツをばらしていき、可動部にオイルを塗り直したりして組み立て直す。

 もう一度、コッキング・トリガーの音を確かめて「うん、まぁいいか」で一缶を飲み干した。

 お宝の中には、交換パーツ=専用マガジンとBB弾が入っている。


 元々持っていたマガジンに手持ちの古いBB弾を詰め、今日買った二つのマガジンにも弾を詰めていき、一つを装着して冷蔵庫の上に置いてあった的に向けて撃ってみた。


「やっぱ、眼が悪くなってると駄目だな。あっそうだ」


 巴把>譜衣。的はよく見えてるけど重くて長く支えきれないのとコッキングがきつい。

 打開策として、腕力の身体強化をしてみれば瞬く間に手持ちのBB弾を撃ち尽くしてしまったので、空にしたマガジンに今日買ったBB弾を詰めていきながら他社製のほんの少し径が小さいやつだった。

 まぁなんとかなるだろうと、一連の動作をしたが、どうも威力がない。すぐ近くにポトンと落ちる程度だった。


 やれやれと明くる日のことなど忘れて譜衣は二缶目を口にした。学習力が低下したジジイである。



「ぎゃーはっはっはっは。ゴキどもを駆逐するのじゃー」


 滲み寄る気配に気づいた酔っ払いは、殺意のマナをコーティングをした弾で黒い絨毯の様に集団の的を次から次へと射貫いていった。逃げ惑うゴキのようなものはどこから現れたのか黒猫のパンチを受けて数を減らしていく。

 そしてカートリッジからになると諸護衆が隣で弾込めをせっせとやってくれていた。


「ふぅー」

「お見事です譜衣さま。クリアーです」

 上半身をはだけて感を飲み干す譜衣をねぎらいながら浴室に連れて行きシャワーで汗を流してから寝床に連れて行った。


 参戦した黒猫は譜衣の使い魔候補として、飼われることになった。



 次の日、ジジイはまた二日酔いを理由に、仕事を休んだ。


 今回登場の黒猫、意味はないですが、三毛な♂。『電脳歯車眠子』で少しだけ設定をポロリしてます。

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