第2章 29「ファンタジーな獣」
とりあえずユニアに相談しようと思い、自室へ戻る。
「ユニア!」
俺のいきなりの侵入にビクッと肩を上げるユニア。
「どうしました?」
「『獣』!…この国にいる『獣』って何がいる?」
「『獣』ですか?」
ユニアは顎に手を当て、考える素振りを見せる。
「グライドスとか…エヌメイトとか…」
ユニアは思うつく限りの『獣』の名を上げてくれた。
「その中に人語が話せるやつは?」
「人語を話す『獣』など存在しませんよ。だって『獣』ですし…動物が言葉を話すなんて聞いたことありません」
「そんな…」
存在しない?でもその『獣』はユウラに耳打ちしている。
人語を話さないなどありえないと思う。
それともユウラがショックで幻聴でも聞いたのか?
いや、俺より死線を越えてきたであろう兵士がそう簡単に精神がやられるとは思えない。
「マサキ様、お疲れでしょう…今はお休みになられた方が…」
「いや、眠ってなんかいられないよ…俺もう一回ユウラ達のところへ行ってくる」
そう言って部屋を出て行こうとすると、
「私も行きます!」
と、ユニアが付いてきてくれた。
牢獄でもう一度ユウラの話を聞くことにした。
「ユウラ、ロウネ、辛いと思うけどもう一度、あの時のことを説明してくれないか?」
ユニアとロウネは頷き、話してくれたが、その内容は先程と変わらない。
やはり、ユニアが知らない他の『獣』が存在するということなのだろうか…
物思いに耽っていると、後ろから誰かに突かれた。
「誰だ?」
人が考えてるときにと思って振り向くとそこに居たのは黒髪がよく似合う美少女、少し大人びたその女性は枕を抱きしめこちらを見ている。
「あ、テニー…」
「あ、じゃないわよ!なんで私を置いてきぼりにしたの‼︎」
そう言って枕を離し、俺の両頬をつねってくる。
「ごめんごめんって」
「仲間外れにしないでよね」
テニーは顔を膨れさせてそう言った。
「そんなつもりはないよ…」
「また、凄いことになってんね」
テニーは周りの様子を見てそう言った。
「テニーは人語を話す『獣』に心当たりとかないか?」
「はぁ?人語を話す『獣』がいるわけないでしょ」
「そっか…」
テニーにも心当たりがないらしい。
「だ、そうなんだけど。何か他に手がかりあったりする?」
そうユウラに聞いた。
「すみません…」
「謝ることじゃない。こっちももう少し探してみるよ」
深夜に起こされ、そこそこの眠気があったものの、事件のショックから眠気はどこかへ行ってしまったらしい。
俺はそのままユニアとテニーと共に食堂で話していた。
人語を話す『獣』などありえない。というのがユニアとテニーの回答だ。
対する俺は可能性は捨てきれないとだけ伝えた。
確かに前世界にも人語を操る動物など存在しなかった。
オウムが人間の話した言葉を覚えて返すぐらいだろうか?
ファンタジーみたいな世界だから話せる動物がいても…と思うのもあるが、一番はユウラの言葉を信じたいからだ。
彼はきっと嘘はついていない。
あまり長い付き合いでもないがそう思った。
「うんぬ…」
考えすぎて頭がパンクしてしまいそうだ。
気付くと空は日が昇り始めていた。
朝焼けに目を焼かれながら俺は薄目で昇ってくる太陽を見ていた。