shoes-25「軟派されるエルフとワシ」
「ワシ……巨人種に姿を見せても大丈夫か?」
エルフ(こやつ)の話によれば、ワシらは巨人種の街を襲った小人悪魔であって小人妖精ではない。そんなものがのこのこと巨人種の前に姿を晒して大丈夫なのか。同じように処罰されたりしないのか、と。
「たぶん……殺されるわね」
「ちっ、街の小人妖精らはどれだけの事をしでかしたんじゃ」
「……あの頃の街は地獄だったわ。小さい身体で物陰に隠れているからいつどこで襲われるか分からなかったし、人間を操ったりしてたみたいだから、誰も信用できなかったもの。昨日までの親友は今日の敵ってヤツね」
……間違いなく恨まれとるな。ワシは何もしとらんと言うのに同じ種族ってだけで殺されてはかなわん。
「何もやっとらんのに姿晒して殺されるのは御免じゃな。ワシは乗り物から降りんぞ! ——はっ!? もしやお主、ワシを殺させて乗り物を奪う気ではあるまいな!?」
「そんなことしないわよ! そんなことして私の可愛い人形にへんな怨霊が憑いたら嫌じゃない!」
失礼じゃの。そのへんな怨霊の作った乗り物を気に入っとるのは誰じゃ?
「方法はちゃんと考えてるんだから! 心配しないで!」
任せとけと言わんばかりに豊満な胸を張るエルフ。多少不安だが、ワシに出せる案は無い。仕方ないが任せるとしよう。
メイローン公国は海に囲まれた島にある。島の半分は美しい砂浜が広がっており、貴族どもの静養地として人気じゃ。その為、砂浜から歩ける場所には貴族どもの白を基調とした別荘が建ち並び、それらの後ろにあまり大きくはないが、小綺麗な公爵の城が見下ろしている。
今ワシらが歩いているのは、その貴族どもの静養地とは反対側にある、島の崖に面した土地に建てられた一般市民の町中じゃ。冒険者や観光に来た者達は、ここを利用するらしく、ワシらが泊まった宿もこの中にある。
ここから、貴族どもの静養地に向かう途中に白魔術師の店があるらしい。そこに歩いて向かいながら、ワシが姿を晒さずに済む方法を教わる。
エルフが言うには、呪いも魔法の一種らしく、目を瞑っていても“感じる”事ができるようじゃ。その種類などの判別は専門家でないと分からんが、エルフが水や風の精霊が近くにいるのを感じるのと同じように、どういった類いの呪いか見分ける事が出来るのだとか。ワシが魔物とそうでないモンスターを感じとるのと同じようなものかもしれん。
ならば、ワシの乗り物の“大事な部分”に呪いが掛けられていると嘘をつき、直接見せるのは恥ずかしい為、目隠ししてもらうと言うのがエルフの案じゃ。
白魔術師はオトコ限定とし、まずは目を隠してもらう。その後ワシが乗り物の口を開き、大雑食に乗ったまま白魔術師に近づく。この方法ならばワシが乗り物から降りずに診てもらえる為、確かに安全じゃ。
「……確かに魔力は感じますが、よく分かりませんね」
「これは呪術なのか? 掛けられている形跡がないように思えるが」
「私の知る呪術ではないですね。申し訳ないのですが他をあたってください」
……結果、どの白魔術師もワシの呪いを解く事は出来なかった。いやそれ以前に呪いが掛かっている事さえも疑われた。目の前で言われた時は、文句の一言でも言ってやろうかと思ったのじゃが、そこで小人妖精がいるとバレるとワシの命に関わるので、黙っておったが。
エルフなど予想外の出来事に完全に呆気にとられたな。
だがその中で訪問した白魔術師に共通して言われたのが、「ヴァンスコー男爵なら分かる|(解ける)かもしれない」じゃった。
聞けば、この街に住む白魔術師の中でヴァンスコーの名を知らぬ者はおらず、むしろ公爵お抱えの魔術師ということで一応尊敬はされているらしい。“一応”と付くのはソヤツの見た目がひどく醜い為、与えられている地位は羨ましいが、ああはなりたくないと言うことのようじゃ。どんな見た目か知らんが、せっかくメイローンまで来たのじゃ。呪いを解いてくれるなら、ワシはなんら問題ないがな。
……と思ったが、公爵お抱えの白魔術師は、面会するにも公爵の許可が必要らしく、門前払いをくらってしまう。
「んー困ったわね。どうしたらヴァンスコーに会えるかしら」
休憩にと立ち寄った軽食屋で紅茶を飲みながら悩むエルフ。ワシの乗り物の前にも違和感が無いようにと紅茶が置いてある。ワシ自身は酒が良かったのだが、昼間から可憐な乙女達がお酒はどうかという事で却下された。
なので、乗り物の口に入れた紅茶をワシのカップに注ぎ、そこに残り少ない酒を少量足して飲んでいる。やはり蒸留酒は紅茶に合うの。
エルフ曰く、ワシの乗り物は巨人種の中でも“可憐な乙女”の部類に入るようだ。作っている最中は気づかなかったが、そう言われてみると確かに巨人種の“オンナ”に見えなくもない。ゴツゴツとした線よりも滑らかな流線美を意識したせいかも知れん。その可憐な乙女という設定ならば乗り物と気付かれる心配は無いらしいが、念には念を入れて女性らしい髪の毛も付けてみた。髪の毛の正体を知るエルフには不評じゃが、外見は“より可憐さが増した”ようなので問題ない。
つまり、ワシの乗り物の見た目は、“全身黒の鎧を纏った黒髪の可憐な乙女”なのじゃ。
じゃがワシの年齢を考えるとあまりにも釣り合わんので外見を年相応に変えようと提案したのじゃが、「それやったら、人間の前に貴方を晒すわよ!」と言われたのでやめた。
と言うわけかどうかは知らんが、この店に入ってから、やたらと巨人種のオトコどもの視線を感じる。その中でも一番視線のキツい冒険者の格好をしたオトコが近寄ってくる。
「お? なんだ美人さんたち、ヴァンスコーさんに会いたいのか?」
「……えぇ、そうですけど」
ワシらの会話……というか、ワシの声は聞こえないハズじゃからエルフの独り言を聞いていたのか、ヴァンスコーの名を出した。
明らかに嫌な顔をするエルフだが、ヴァンスコーの名を出した事でどうするか戸惑っているようじゃ。
「連れてってやっても良いぜ? ヴァンスコーさんのトコに」
「……! 会わせてくれるのですか!?」
「ああ。……ひひ」
オトコは椅子に座るワシらを見下ろしながら下卑た笑みを浮かべると、エルフの身体をじっくりと舐めまわす。
「ひょひょ。お主、欲情されとるの」
「……分かってるわ。あー気持ち悪い、だから男って嫌なのよ」
小声でエルフに話しかけると、エルフもオトコに気付かれない程度の声で返してくる。視線に気づいていたようだ。まぁ、あからさまじゃからな。
「けれど、ヴァンスコーという方は貴族お抱えの白魔術師なので、公爵の許可が無いと面会出来ないようなのですが……?」
「あ? ああ、それも大丈夫だ。アンタらならな」
どう見ても許可がとれるようなヤツには見えんが、本当に大丈夫か?
「どうするんじゃ? ワシは此奴が会わせてくれるとは思えんが」
「んー、多分大丈夫じゃない? 少なくとも、彼はヴァンスコーと知り合いよ」
「なに? なぜ分かる?」
ワシには貴族お抱えの白魔術師とやらと、未だにエルフの身体を見ながらニヤニヤしているような下品な奴に接点があるとは到底思えんが。
「知り合いでもない人に“さん”は付けないわ」
「……ほう」
言われてみれば、確かにそうじゃ。こんな明らかに接点の無さそうな見た目をした奴が、本人のいない所で“さん”などと敬称を付けるのは、ちとおかしい。“さん”付けが癖になっておるとしたら、知り合いの可能性は高いじゃろう。このエルフ、意外と考えておる。
「ま、途中まで様子をみるわ。いざとなったらミンチにしてやるけどね」
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その後、ベロチと名乗った下卑た笑いをするオトコに連れられてヴァンスコーのもとへ向かう事に。ワシらの後には、なぜか軽食屋でベロチの後ろからニヤニヤしながら見ていたオトコどもがついてきた。ベロチに聞くと、パーティ仲間らしい。
てっきりワシはヴァンスコーのいる邸宅か公爵のいる城に行くかと思ったが、辿り着いたのは昨日ワシらが出てきたメイローン迷宮の入り口だった。
「おい。ここは迷宮じゃぞ?」
小声でエルフに聞く。エルフも同感だったようで、ワシの問いとほぼ同時に冒険者に顔を向ける。
「ヴァンスコーは迷宮にいるの?」
「ああそうだ。……ひひ」
この胡散臭い冒険者が言うには、なんでも一週間程前にこの迷宮の低層で堕階モンスターが発生したらしい。そのモンスターは低層で出現した割にはかなり強力らしく、ここの冒険者では手に負えなかったのだとか。そこで、先日貴族率いる騎士団が堕階モンスターを討伐に大規模遠征を実行。その一行にヴァンスコーも加わったらしい。
そして今朝。堕階したモンスターの討伐は無事に成功し、討伐部隊のほとんどが迷宮から帰還したようだ。だがヴァンスコーは、身体が重く移動が遅れている為、まだ迷宮内にいるとか。
そこで、ヴァンスコーと連絡が出来る此奴らは、普段なら約束無しでは面会出来ない所を迷宮内で直接ヴァンスコーに会わせてやるという事らしい。
明らかに怪しい見た目の此奴らが、何故貴族位を持つヴァンスコーと連絡を取れる手段を持っているのかは分からんが、エルフ曰く嘘はついていないと言う事でとりあえず共に迷宮に潜ることに。
もしそれが罠だったとしても、「半殺しにしてヴァンスコーの居場所を吐かせれば良いだけよ」と、エルフ。
ま、ワシもそのつもりじゃったがの。
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ヴァンスコーに会う為、如何わしいパーティと共にメイローン迷宮に潜るワシら。
先頭には、左右の手に小振りの斧を持つ戦士ベロチ。ワシらに声を掛けた下卑た笑いをするオトコじゃ。パーティの中でも一番に大きな身体と肉体を活かし、両手の斧で魔物やモンスターを倒しながら道を切り開いておる。
その後ろにワシとエルフ。ベロチの補佐というカタチだが、前方から現れる敵のほとんどを倒していくので出番がない。まぁソレはソレで良いのだが、倒す度にドヤ顔でこっちを見るのは意味が分からん。
ワシらの後ろには弓士のマハメと盗賊のカダシ。何も食べていないはずじゃが、くっちゃくっちゃと煩いマメハはワシらの手が届かない獲物や遠くから迫ってくる手強そうな魔物やモンスターを担当しておる。その的中率は動く的にもかかわらず二本から三本に一度と意外にも高い。
盗賊のカダシは常時股間を弄っている汚らしいオトコじゃが、戦闘中は仲間が有利になるように敵に目潰しの粉袋を投げつけたり、一見わからない罠を解除したりと補助面で上手く立ち回っている。
最後尾には大型の両手斧をもつモミシダ。移動中に挟み撃ちにならない様、後方を常に監視したり、戦闘中はマメハやカダシを近づく敵から守る役目を担っている。
「……人は見た目によらんとは、この事じゃな」
「……本当ね。しかもちゃんとか弱い私たちを守る陣形になってるわ」
そう。真実はともかくとして、ワシらの見た目はか弱い女冒険者じゃ。そのワシらを中心に、敵からの攻撃を与えない陣形になっているのじゃ。見た目からは想像がつかんくらいの紳士ぶりじゃな。
まぁ、じゃからなんだという話だが。
そんな訳で危なげなく地下五回までたどり着いた。
——だがそこには、ヴァンスコーではなく、ヒトの言葉をあやつる奇妙な魔物がいた。




