shoes-23「ひたすらに土を掘るワシ」
聞けば、巨人種らの都合で勝手にレプラホーンと種族名を替えられたレプラカンは勇者の魔王討伐から四年後、王国の復興作業も落ち着きをみせた頃に、王国騎士団により不穏分子と見なされ排除されたのだとか。
小人飼いの森に住んでいた者も同様だったようじゃ。
じゃが……
「ワシは半年ほど前に、村に戻ったが、そんな跡なぞなかったぞ?」
半年前に冒険者どもと迷宮から脱出した。その後、村で果実を採りに木に登った際に辺りを見回したが、村は以前のままで、襲われたような跡はなかったはずじゃ。
「私も話を聞いただけだけど、毒薬を魔法で霧状にして撒いた、と言っていたわ。隠れていそうな隙間にもちゃんと毒が回るようにって。あと毒餌を撒いて、持ち帰った小人の家族が全員毒で死ぬようにしたって」
「ワシらは御器噛か! 撒かれた餌など喰うか!!」
……だが、確かに言われてみれば、村人は見なかった。まぁ、ワシはもともと村の外れに住んでおり、普段も村のもんとは顔を合わすことは無かったがな。じゃが生活しているような空気感はあったような気がしたが……
「そう言えば、小人の討伐時に街の普段目の届かない軒下とか下水道を念入りに清掃したから、そこに棲息していた大量のネズミが街から出て行くのがみられたらしいわ。そのネズミが移動して住んでいてもおかしくないわね」
……ワシの家にもおったわ。野ネズミの家族が。
「……その騎士団とやらが村に来たのはいつの話じゃ?」
「んー、一年半くらい前だったかしら?」
一年半前……普通に小人飼いの森にいた頃じゃ。野ネズミの家族がいたのは半年ほど前じゃし、それより前にはワシは普通に住んでおった。時間が合わんな。
村外れにいたから騒ぎに気がつかなかったとかか? いやそんな訳ないじゃろう。いく外れに住んでいるとしても、それだけの事となれば騒動にもなるし気づきそうなものじゃしな。他に変わった事と言えば、落とし穴くらいじゃが——
その時、スモルの脳裏に巨大な人影が迫りくる映像がよぎる。
——ん? 今一瞬なにか…………なんじゃ?
何か思い出しそうな気がしたが、記憶違いだと頭を振り、エルフに向き直る。
「それはウソじゃな。一年半前ならワシも村人も普段通りの生活をしていた頃じゃ。そんな者共が来た事なぞ無かったわ」
「そーなの? ……どーゆー事かしら? あの団長がそんなウソつくとは思えないけど……」
首を傾げるエルフ。
あの団長? 知り合いか?
まぁ何にせよ、今聞いた事は、実際確認してみない事には何とも言えん。まずはここを出てから考えるとするか。
・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・
エルフが迷宮内で冒険者どもから又聞きした内容によると、迷宮主が倒された事で迷宮自体が無くなってしまったのだとか。
迷宮主とは、迷宮の最下層にいるモンスターという事から、恐らくはあの竜の化け物の事じゃろう。その話が本当かどうかは知らんが、現に地震が起こりこの通り埋もれてしまっている事から考えると、あの魔創迷宮は壊れて無くなってしまったのかもしれん。
あのくそ自称勇者め……。
迷宮が壊れるなど聞いておらんぞ。しかもワシの呪いがまだ治っておらん場合は、また迷宮に潜らねばならんというのに、壊してどうするんじゃ!
「でもこれって、結構絶望的よね……あぁ、なんで私は貴女を探しに来ちゃったのかしら」
エルフは周りを見ながらため息をつく。そう言ってるワリには、まるで一夜を共にしたカップルのようにワシの乗り物に寄り添いながら手を重ねるエルフ。作り物相手に気持ち悪いヤツじゃ。
コヤツの言う通り、今ワシらがいる場所は迷宮の崩壊によって崩れた岩壁共が偶然重なって出来た空洞じゃ。いつ崩れるか分からぬし、迷宮の壁はとてつもなく硬い。つまり、コヤツだけなら脱出出来ずにのたれ死んでいた所だろう。
まぁじゃが、ワシにはコレがある。
そう思って背負い袋から取り出したのは、前回の迷宮で手に入れた巨大な鉤爪。
ノゾキマの爪じゃ。迷宮の下層で倒した地中を掘って迷宮の壁や天井からちょっと覗いてはチマチマと攻撃を仕掛けて来たウザい魔物で覗き魔のようじゃったのでそう命名した。見た目は完全に動物のモグラじゃったがな。
「……それは?」
「まぁ、見ておれ」
鉤爪の形をしたその根元はワシの乗り物が持ちやすいように細く削って布を撒いておる。そこを両手で持ち、ツルハシの要領で崩れて塞がっている大きな岩に向かって振り下ろす。
すると、硬い岩の中にスルッと沈み込むように爪が侵入し削り取る。
うむ。前にも一度ためしたが、恐ろしいほどの斬れ味じゃ。“岩に対してだけ”は、じゃがな。
「……!! なにそれ!?」
「ひょっひょ。迷宮の下層にはのう、こーゆー便利な物を持つ魔物がいるんじゃよ」
この爪でワシが落ちたと思われる穴を調べようとノゾキマから拝借したのじゃが、まさかこんなところで役に立つとはな。やはり持つべきは用心じゃよ。
とりあえずは、エルフの提案で斜め上に向けて掘り進む事に。本音を言えば真上に掘りたいところじゃが、それだと登りながら掘らねばならず、足場も無いので深く掘る事は難しい。また縦に掘った穴では休憩したり寝たりする事もできない為、効率が悪い。時間は掛かるが確実に地上へ出るなら斜め上、という訳じゃ。方向は適当じゃな。
エルフに予備として持っていた鉤爪を、お主も手伝えと渡す。服が汚れると嫌がっていたが、既に汚れているのに意味がわからんと、強引に押しつけ、二人で掘り進む。
また、ワシらの種族間による声がお互い聴き取りづらく、ワシが乗り物に乗る事でさらに聞こえにくくなると、エルフから『アエルラの羽根飾り』という、渦巻いた奇妙な形をした羽根を操縦席の横に置くように言われる。
透明な薄い緑の羽根で、明かりに当てるとその部分が虹色に光り美しいのだが、ワシと同じくらいデカい。正直言ってかなり邪魔だが、そこから聞こえるエルフの声は重低音で鈍くなく、まるで同種族で話しているように聞こえるので、だいぶ話し易くなった。離れた場所で小声で通話も出来るらしく、かなり便利な代物じゃ。
風の元素精霊から落ちた羽根ということらしいが、抜け落ちた物でも便利な道具になるとは、どこの元素精霊も化け物じゃな。
——数時間後。
方向は出鱈目じゃが、適当に掘り進めていると、エルフが急に動作を止める。
「なんじゃ、また休憩か? エルフは本当に体力が無いのう」
「ち、違うわよ! ちょっとだけど感じたの! あと、座って操縦だけしてる貴方に体力が無いとか言われたく無いんだけど!」
操縦するのも結構疲れるんじゃぞ?
怒りたいが可愛い乗り物に八つ当たり出来ないと拗ねているエルフに“何を感じた”のか聞いたところ、水の精霊が強く感じる方向があるという。
精霊どもはその属性に準じた根源に多く棲む。火の精霊なら火山。風の精霊なら谷。地の精霊なら地中。そして水の精霊なら海。
「つまり、海が近くにあると?」
現在地であろうラビス迷宮の位置から考えると、南や東に行けば大陸が続き、北や西に行けば海を越えてメイローン公国に向かうらしい。
そこでエルフが新たに提案したのは、このまま水の精霊が強く感じる方向に掘り進んで、メイローン迷宮に行く。という事なのじゃが、
「じゃが、メイローンと言うのは海の向こうなんじゃろ? このまま進んでは海に出てしまうのではないか?」
「メイローン公国に行くならそうなるわね。でも、メイローン迷宮なら話は別よ」
「?」
「メイローン公国がある島は元はラビス大陸と繋がっていたの。今は離れてしまってるけど、それは地上から見た話で、海底はまだ繋がったままなのよ。それに、メイローン迷宮はラビス王国寄りに広がっているから、この深さから進めば、地上に出るよりもメイローン迷宮に向かったほうが早く出られるんじゃないかってワケ」
ワシらが埋もれた場所が迷宮の上層ならば、海に打ち当たったかも知れんが、この深さなら海より下に広がるメイローン迷宮に出くわすらしい。
下手に進んでメイローン迷宮から外れた場合は無いのかと聞くと、迷宮内には風の精霊がいるからそれを感知すれば、ほぼ正確な方向を導き出せるらしい。
……両精種も大概じゃな。土の恩恵を持つワシら小人妖精では土の精霊を感じる事すら出来んと言うのに。
「あとね、メイローンと言えば、良い情報があるわ!」
「……良い情報?」
メイローン公国は別名、白貴族の都と呼ばれるほど治癒師や封魔師のような身を守る魔法を主体として扱う術師……つまりは白魔術師が多く住んでいる国らしい。
その昔は貴族などの静養地として使われており、そこに貴族御用達の白魔術師が住み込みで働くようになったのがきっかけだとか。
貴族に気に入られた白魔術師は爵位があたえられ、領地も貰えたという。
世襲ではないが、一階の魔術師が爵位を貰えるという噂が広がり、各地から優秀な白魔術師が集まり発展したんだそうじゃ。
そんな白魔術師が多く集まる国ならば、ワシの呪いをと解く魔法があるかも知れないと。
……まぁ、巨人種が使う魔法ごときがどの程度かはしらんが、前に会った冒険者のようにワシの乗り物の心音を探る魔法があるくらいじゃ。呪いを解く魔法があってもおかしくは無い。今のところ魔物と戦わずとも呪いが発症していないと言う事は、自称勇者から貰った“状態異常遮断”は機能しているようじゃが、やはりワシとしては乗り物に乗らずとも呪いが発症しない身体に戻りたい。そんな訳でワシらはメイローンへと目指す事に。
「呪いが解けたら、その乗り物は要らないのよね? そしたら私に頂戴?」
……これが本音のようじゃ。
呪いが無くなれば確かにこの乗り物は不要じゃが……つーか、どれだけワシの乗り物が好きなんじゃコヤツは。
——そんなこんなで、数日間ひたすらに土を掘り進むワシとエルフ。掘り続けるという動作は燃費が悪く、魔核の液体消費が激しい為、時々掘り出した土から出てくる魚のような魔物を見つけては、胸を切り裂いて魔核を採取していく。
「貴方……時々それやってるけど、やめてくれない? 弱いモンスターを見るたびに捌くなんて趣味悪いわ」
「ん、仕方ないじゃろ。魔核をとってるんじゃからな。この乗り物が魔核の液体で動いているのは説明したじゃろう? いざという時無くなったら困るでのう」
「……え? 魔核って、それ魔物なの?」
「見れば分かるじゃろう。初めて見る魔物じゃがな」
そう言いながら、胸を切り裂いた魔物から魔核だけを取り出し、乗り物の口の中に放り入れる。
「……なんか、食べてるみたいに見えるわね……じゃなくて! 初めて見たのになんで魔物って分かるのよ?」
「ほぁ? いやなんで、と言われても……何となく分かるじゃろうが」
と言ってみたものの、言葉で説明しようと考える……。
今さっき胸を捌いたばかりの魔物を見ると、纏っている気というか雰囲気が他のモンスターと違って魔物〜って感じがする。うむ、間違いなく魔物じゃ。この感覚、何故これが分からんのか?
「分からないわよ! と言うか、外見じゃ判断出来ないから私たちは魔物も魔獣も野獣も皆“モンスター”って呼んでるんじゃない!」
「…………」
……エルフには分からんのか? 言われてみれば、冒険者どももモンスターと言っていたが……。
はて……なぜワシには分かるんじゃ?
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