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魔器狂いのナーシェ

 言葉とともに、物陰から俺たちは、マーダーハットへ向かい駆け出す。プルールは、ちょうど女の子をかばうように覆いかぶさり、マーダーハットの毒爪を更に受けようとしていた。


【ミーティア】。ルーメンの手からマナの塊が、マーダーハットに向かい放たれる。マーダーハットは、バランスを少しくずし、振り下ろそうとした爪の狙いが誤る。

 その間に、俺はプルールと女の子を抱えて、城壁近くまで走り城壁より降りてきた隊長格の兵士に身柄を引き渡す。


「君は?」


 プルールの問には答えず。


「毒を受けている解毒を頼む」


 隊長格の兵士にそれだけ伝える。兵士は、うなずいてすぐに薬の準備をする為だろうか、門番の詰め所へ急行する。俺は伝えた後すぐに、ルーメンと合流する為走り去る。


「ルーメン!」


 彼女は一人で好戦していたようだが、所々に傷がついていた。


「イエス。マスター。貴方の剣は折れておりません!」


「無茶しやがって。とりゃー!」


 斧に、炎と風の加護を付与して、振り下ろす。


ガツリ!


 金属にぶつかったような音がした。マーダーハットには、全くダメージが通っていないようだ。


「マジっすかー!」


 マーダーハットは、蚊を追い払うように、ゴミ蟲を見る目で、俺に翼の風圧を浴びせてくる。軽々と吹き飛ばされて、建物に激突する。スゲーいてー。斧は、手から離れ道端に転がってしまう。


「マスター!!」


 ルーメンの焦り顔を初めて見た。普段はクールな彼女もそんな顔をするのだ。そんな君もかわいいよ。そんな事を考えながら、意識を保つ事に力を注いだ。


「ノン!よくもマスターを!【ミーティア・キロフォース】っ!」


 どでかいマナをマーダーハットへぶつける。マーダーハットは体を建物に激突させるが、致命傷ではないようで、怒り狂い。疲弊したルーメンを襲おうとしていた。


 咢がまさにルーメンに届く瞬間。マーダーハットの体が、本日何度目かのスライドをする。さすがに、矢のささった部分に強烈な衝撃を浴びたからだろうか。苦悶の声を上げて暫くじたばたしていた。


「目立ちすぎだ馬鹿野郎っ!」


「ナーシェ?」


 金髪のポニーテイルが、揺らめく。


「でも、お前もちゃんと戦うんだな」


 俺に向けて、少し感心したような言い方をする。


「このありさまだ。頼りないだろ?」


「うるせー。でも、その――カッコよかったぞ……。それより!お前は俺を頼ればいいんだよ」


 そういって、無手から、道に落ちていた俺の斧を持ったナーシェは、マーダーハットに向かって振り下ろす。斧の刃をすんでの所で、マーダーハットは回避したが、その風と炎の斬撃が、翼を焼き切る。神具や魔具の扱いに長けた戦士。魔器狂いの名は伊達ではなかった。哀れな空飛ぶ蜥蜴(とかげ)に、その雄姿を見せつける。


 翼を失った事により、飛行が困難となったマーダーハットだが、抵抗の手は緩めない。しかし、そこは【ミーティア】の追撃で更に深いダメージを受ける。ナーシェの流れるような斧捌き。まるで、ナイフを扱っているようだが、その威力はその比ではない。プルールほどではないが、彼女も相当の使い手だ。今回の任務で、プルールとの直接戦闘を考慮した人選であったことは、彼女の戦いぶりから(うかが)えた。


 最後に彼女は、四肢と尻尾まで切り落とされたマーダーハットの頭蓋を砕く。


「おい、災害ランク獣ってのは[神]でなければ討伐できないんだよな」


「イエス。彼女は4分の3が神ですから。それに、マスターが作った武器は、脆弱ながら神の作りし武器、いわゆる神器ですから、彼女の個性が発揮できたのでしょう」


「よくやってくれた。ありがとう」


「お、おう。まあな。俺はお前の剣だ」


「ノン。剣は私です。発情しないでください。このメス犬」


「だ、誰が発情しているっていうんだ!この人形!」


 【ワイバーンの魂】を取得可能となり、更に亜種であった為か【猛毒の紋章】を獲得できるようになった。更に、毒性を分解できる【抽出の瓶】を取得。マーダーハットの牙から毒素を抜き取り、瓶に入れて、エキスを抽出する。回復薬に使える、そのエキスは、都でもそれなりの価格で販売できるらしい。


 給料が少ないのならば、増やせばいい。俺は魔獣を狩ったら、その素材で一儲けしようと考えた。なかなかレアな魔具も入手できたし、今回はもうけが出そうだ。


 女たちは、一通り言い合いを終えると、次に来る魔獣にターゲットを変更する。しかし、それは一生来ない敵への準備であった。何故なら、プルールが撃破(進路変更ではあるが)してしまっているからだ。こうして、プルールは、1日に同時に2体を撃破した英雄として、更に町の人気を集めるのであった。


 戦闘後の後始末<英雄プルールを称える祭り>の混乱に乗じて、俺は「猫の尻尾亭」のすぐ近くの民家の軒下に、マナキューブを設置して、エルムの支配権を密かに主張したのであった。祭りの最中プルールは、しきりに「灰色の髪の青年を見なかったか」と皆に問いかけて回ったようだが、その真相は分からなかったという。そして、都市のマナの流れが変わったので、その流れの源である民家を訪ねた所、軒下のマナキューブをみて、こうつぶやいたという。


「これで、借りは返したという事にしようかな?」


 そして、英雄はその家の土地と建物を今回の報奨で購入して、そこの住人に無料で貸し与えたという。軒下に【封結】という外部からの攻撃に耐えられる上級魔術をほどこして。


「それでも、この胸の高まりは収まらない。必ず、君を見つけだして決着を付けるからね」


 恋を知らない乙女は、恋の高揚感を、戦いのそれと勘違いしている。


 そして、彼女は緩んだ口元とは裏腹に、拳を強く握りしめるのであった。

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