悪魔・プルール
『緊急警報。北部より、ランクA級の魔獣出現。ワイバーン亜種。呼称マーダーハット。この数ヶ月で、旅団23個を壊滅させた個体と思われる。都民は地下避難施設に急がれたし。繰り返す――』
飛行タイプの魔獣であり、堀の意味がないらしい。城壁を沿うように、巨大な石弓などが、並べられる。城壁の部隊の中に、兵装ではない一人の少女を発見する。紅い瞳に、浅黒い肌。身長はちょうど中学生の女のコと同じだろうか。少し釣り目で、やんちゃの男の子の様だが、若干なりとも女の子の特徴はある。まな板に、半分になった玉ねぎが、2つ乗った程度だが。髪も赤みがあり、少し癖があるショートヘア。腕には、金属製の小手を装備している。
「飛行タイプは久しぶりだから、みんなー!気を引き締めていくよ!」
「オッケ―!プルールちゃんの為なら俺たちは無敵!」
「「「無敵!」」」
ノリノリで兵士たちが、腕を天に掲げる。何なんだ、このノリは。まあ、緊張しすぎよりいいのか。ルーメンと、城壁の様子を見ている。人々は、王宮近くの避難施設に逃げている最中だ。おそらく、避難よりも、マーダーハットの飛来の方が速そうだ。
「迎撃開始ーー!」
プルールの声と共に、魔力ののった石弓が多数放たれる。しかし、マーダーハットは予想以上に機動力があり、命中したのは4本程だった。ワイバーン種は、ドラゴンに類似するが、その防御力は劣る。うち2本は、対象の体に刺さり、苦悶の悲鳴を上げる。
しかし、魔獣の生命力は、かなり高く、反撃とばかりに、羽の風圧を兵士たちに浴びせる。プルールや数名の兵士は、その風をモノともしなかったが、数名の兵士はその風にあおられ、城壁より落下してしまう。魔術をのせた鎧により、致命傷は負わないだろうが、ダメージが無いわけではない。幾つもの、金属が地面に叩きつけられる音が聞こえた。
その後、石弓は使えないらしく、弓などで応戦はしているが、致命傷を与えるほどでは無く、城壁の兵士は苦戦している。プルールも、十分攻撃できる距離まで、相手が近づいていないことから、遠当てを数発入れることぐらいしかできていない。
遠目でみても、プルールの戦闘力の高さはうかがえ、遠当てでも、石弓並の威力があるようで、ワイバーンはのけぞり、バランスをくずしている。たぶん接近戦に持ち込めば、敵わない事はないと思われた。
「隙をついてあわよくばと考えたが、やめるか」
「イエス、マスターは屑ですね。虫では無く屑でしたか」
「俺は、いかにリスクを減らすかを考えているだけだ」
「イエス、そんな卑怯な屑ですから私がいないとダメなんですね」
「なにそれ、『私がいないと、この人何にもできない』っていう自称不幸女みたいなこと言わないでよ」
「イエス。実際そうですから」
「……」
そんな他愛もない会話をしているうちに、再度警報がなる。
『緊急警報。南方より、ランクBの魔獣出現。甲種。エンシュエントタートル。直進経路が王都。城壁、建物への損壊は致し方なしと判断。経路予想に避難施設は入っていないことから、避難がまだの都民は速やかな非難されたし。繰り返す――』
「同時に、魔獣が襲ってきたのか」
「ノン、後者は進路の障害物をなぎ倒す、だけの存在。彼にとっては、ただ進路がここだという事です」
プルールの様子を見ると、さすがに焦りが見えた。エンシェントタートルの進路変更へ力を使う事はできないようだ。しかし、正義感の強い彼女にとっては、両方を止めたいという希望があるようで、マーダーハットへ手数は増えているが、やや雑な攻撃をしている。
魔獣に気を取られている間の奇襲攻撃が、実現可能そうになったことから、少しづつ俺は、城壁に近づくことにした。
「イエス。マスターの屑ぶりには感服いたします」
「勝利に手段は必要ないんだ。結果だよ結果」
プルールにとっては、幸いにして、エンシュエントタートルが鈍足であることから、まだ王都に接近していない事が、救いである。
マーダーハットは、飛行を繰り返し、時折落下して攻撃を加える方法をとっている。隊長格以外は、すでに落下か、負傷で戦闘に参加できていない。隊長格も強いには強いのだが決め手となる攻撃ができる人物がいないようだ。プルールに都市の防衛を一任していたことにより、そういう人物が育たなかったのかもしれない。
「ふええん。ママー!どこ?」
丁度、プルール達が戦っているすぐ近くだろうか、女の子が、逃げ遅れていた。それに気が付いたのは、プルール以下兵隊たちと、マーダーハットである。
野生獣の本能だろうか。マーダーハットは弱い捕食対象へ、狙いを切り替えた。物凄い勢いで、落下を開始している。隊長格の兵士たちでは、鎧を装備しており追いつく事ができない。唯一、助ける事が可能なプルールが、飛び出していった。
身をていして、マーダーハットの攻撃から女のコをかばったが、その所為で、背中に傷を負ってしまう。マーダーハットの最大の特徴である毒が、プルールの動きを制限してしまう。普段の彼女なら、数撃で撲殺できる距離であるが、猛毒の周りが早く。なおかつ、女の子を抱えている。女の子は、恐怖からすでに意識を失ってしまっている。
「私は!この都市の守護を任されている!どんなことがあっても私は守る!」
その迫力は、一瞬だがマーダーハットをたじろがせた。意思の乗った言葉で、相手を引き付けるとは、さすが[悪魔]。超越者だ。同じ存在なのに、少し感心してしまう。俺は、彼女ほど本気で、仕事をこなすつもりはなかったから。彼女の言葉は重い。あんなに小さな体なのに。
「イエス。マスター。今ならあなたの望みは叶うでしょう」
「そうだな。ルーメン。俺に戦い方を教えてくれないか?」
「イエス。人の殺し方ですか?それとも魔獣の殺し方ですか?」
「どちらもだ!しかし、今は『魔獣』の殺し方だ!」
「イエス!マイ、マスター!」




