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王子転生! ~王子は王子でも琉球第三王子!~  作者: 高見結
~王子は王子でも琉球第三王子~
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第45話 左御紋

 首里天加那志(すいてんがなし)ご危篤の報に夜も明けきらぬ内に金武御殿(うどぅん)を出立した真三郎達。

 建設中の恩納の仮港で調達した漁船用のサバニに三良が夜を徹して手配した二十人総櫓の体制で乗り込み、黒潮の流れを押し通り夕刻には泊の港。

 首里屋敷で最低限に身仕度を整えた後、夜半には首里城御内原(おうちばる) 黄金御殿(くがにうどぅん)に入っていた。


「失礼いたします。朝公、只今登城いたしました。

  取り次ぎの案内もそこそこに王の寝室に控えて声をかける。


「おおっ、朝公か。速かったな。御主(うしゅ)は昼過ぎに意識を取り戻された。先程御休みになられたばかりじゃ」

 襖をそっと開けた兄王子の阿応理屋恵(あおりやえ)がいずまいを正しながら廊下にすりでる。

「これは、中城王子(王太子)殿下」


「御内原の中じゃ、阿応理屋恵(あおりやえ)でも、兄上でよい」


「では、兄上様。朝通(ちょうつう)兄と一枝(ひとえ)姉様は?」


「久米島はまだ時間がかかるだろう。姉上は近い浦添故、昨夜の内に登城なされ、意識をとりもどされたのを確認した後、一先ず首里屋敷に戻られた。明日には孫になる恩徳(うみとぅく)も連れてくる事になっておる」


「そうですか、せめてご尊顔を見舞いたいところですが、私も一旦屋敷に下がりまして、明日改めて登城しましょう。

 サバニ船を押して参りましたので潮をかぶってかなり疲れました。

 意識を取り戻したと聞いて安心したら気が抜けましたし」

 半日以上も揺れる船にしがみついて来た真三郎。漕いではなくても疲労困憊であった。

「そうか、大義であったな。まぁ、しかし折角だ。俺もそろそろ一息いれる積もりであった。ここは小赤部(こあくべ)に任せよう。

 先日手に入れた筑前産の茶がある、書院で少し茶でも付き合え」

 阿応理屋恵が茶筅を回す仕草で真三郎を誘う。


「はい。大和の茶ですか?不作法なれど馳走になります」


「ふっ、俺の作法に期待するなよ。最近覚えたばかりだ」



 ◆


 書院の一角に設えられた茶室は以前尚元王より茶を振る舞われた部屋である。

 王が倒れたことで床に花こそ生けられてはおらぬが、和風の床の間に置かれた唐渡りの銅壺や、硯、磁器等様々な中国趣味の小物が所狭しと飾られ、禅の精神の侘び茶とは明らかにことなる風情を醸し出している。


 シュー


 カシャカシャカシャ


「どうぞ。ふっ、足は崩していいぞ。」

 流麗な手つきで茶を点てた阿応理屋恵が、真三郎の前に禾目(のぎめ)の天目茶碗をそっと差し出す。

  漆黒の地に光沢のある茶色の筋が規則正しく入り、つややかな翠の茶を引き立てている。


「い、いただきます」


「ふぅー では、失礼して」

  茶を一服してから苦味に顔をしかめないよう我慢していた足を崩す真三郎。

 くすりと笑った阿応理屋恵が、そーっと菓子の皿を取り出す。

厨庫(くり)で作った揚げ菓子じゃ」


 カリッ


胡麻(ごま)が香ばしくて美味しいです。」

(甘味に欠けるが香ばしいクッキーみたいだ。砂糖や卵の量産に成功したらサータアンダキー(沖縄風ドーナツ)を作らないとな)

「大変すばらしい。お点前でした」


「どうじゃ福州は建窯(けんよう)の茶碗じゃ。元は僧侶の茶器らしいが、官窯の固い磁肌とはまた違う、……風情がある申してと大和では大変珍重されてるそうじゃ」


「なるほど」

(利休とかの目利きがいればこれで城や一国に相当するとか、いや、琉球国王の愛用品って箱書すれば、由来の付加価値(プレミア)がついて価値がでないかなぁ )

「そうか………………真三郎。

 このまま父上が亡くなりでもしたらどうする?」

 全く別事を考えていた真三郎に兄からいきなりの爆弾発言である。

「あ、兄上様。しっ、縁起でもない。誰が聞いてるか。家臣一同兄上をお支えするに決まっているではありませんか」


「そうか、首里から遠い金武まではなかなか噂が聴こえぬかもしれんなぁ」


「父上の病状はそれほど悪いのですか?……はっ!それとも、ま、まさか叔父上達の中で誰か?」


「いや、医師の見立てでは持ち直したようじゃ。しかしな。兄上でも十五、俺は十三、お前は十二。それに引き換え叔父上達は四十から三十代の正に男盛りじゃ」

 阿応理屋恵の表情がいささか曇る。

「いやさ、確かな動きはないが、大島親征よりお帰りになって御主が体調を崩されてからは不穏な………まぁ、しかし今になって思えば父上と王位を争ったという艦心(かんしん)叔父上が早世したのは天の配剤やもしれんなぁ。

 ……首里の士族の中にはまだ、十と幾つかの王では不安との声や、娘を送り込んで岳父とでもなれば国政を牛耳れるとの声もある」

 釜から漂う湯気を見つめる目がふと遠くなる。


「朝公、大新城(じいちゃん)が健在なら三司官の安棟(あんとう)がそなたを王に担ぐやもとの声もあったのだぞ」


「ま、まさかぁやぁ」


「いや、これは失言だったかな?母上が、妃は俺に過保護でな」


「いえ、当たり前でしょう。俺の母上はすこし他人行儀な質で……

 それより、父上が体調を回復されたら早く次の王妃となる方を選んでくださいよ。

 早く兄上様が妃を決めないと俺に順番がまわってこないんですよ」

 先日の疑惑を思いだし、嫁取りを本気で進言する。


「いや、いや、そなたにはまだ、早いだろう。ふっふっふっ」

 

 久方ぶりに兄弟としてゆっくり夜遅くまで近況を語り合うのであった。



 ◆


「御主加那志。御不例と伺い我ら急ぎ駆け付けました。」

 大和産の畳床に真綿の布団を重ね、背もたれに身を起こした尚元王が、右手奥に色鮮やかな深紅の紅型(びんがた)を纏った妃、うすい黄色地の真三郎の母、桃色地の朝通の母、白地に控えめな模様、数年前に新たに父の側室(ハーレムメンバー)に加えたらしい夫人の計四人が順に並び、下座には大勢頭部(おおせどべ)(女官長)が二人の女官を控えさせている。

「そうか、心配かけたな。朝公、一枝。あの童は?」

 王の左に阿応理屋恵、大きくスペースを、開けて真三郎、一枝、そして恩徳が控える。


「御主。お初にお目をかけます。恩徳にございます。さっ恩徳、御主加那志に御挨拶を」


「ご尊顔賜りまして光栄にございまする。浦添の恩徳にございます」

 恩徳が顔を上げて挨拶を述べる。

「ほう!でーじ可愛きゃ初孫よ!オジィもエビス顔になりそうじゃ。幾つになった?」


「八つにございます」


「そうか、そうか。阿応理屋恵とは五つ、真三郎とは四つ違いか」


「明後日には朝通も登城するだろうな。医師からはもう四、五日静養するように言われておる。それまで、御内原におれ」


「「はっ!」」「はい」


「ふぅー。まだ、少し手が痺れるのぅ」

 右手を褥から出した尚元王が拳を握り感覚を確認する。


「御主、薬湯にございます」

 阿応理屋恵の母である妃が大勢頭部の差し出した漆器の急須から杯に煎じた薬湯を注いで口許に差し出す。


「うっ、苦いのぅ ゴホッ!ゴホッ!ふぅ少し疲れたわい。また少し休ませてくれ」


「「「はっ!」」」

「御主、隣に控えておりますれば何か御用がおありでしたらこの鈴を」


「うむ」



 ◆


 深夜 御内原 寄満

 首里に同行した真牛は首里屋敷に戻らせ、換えの服を手配させると真三郎は数年ぶりに首里城の後宮、御内原の一画、空き部屋となっていた寄満に入っていた。

 慣れぬ枕ではあったが、疲れからか直ぐに寝付いた真三郎を深夜に起こす声がある。


「朝公様。金武王子朝公様!」


「…………ん?……ふぁぁ、なんだ?」


御主加那志(うしゅがなし)がお呼びでございます。衣服等はそのまま黄金御殿(くがにうどぅん)にお急ぎ下さい」


「……はっ!まて!まさか」


「お急ぎくだされ」





「おお来たか朝公」

「……来たか、阿応理屋恵、朝公良く聞け。我の、父の命数は既に尽きたゴホッ!……」

「「御主!」」

 伏した尚元が身を起こそうとして咳き込む。慌てて枕元に近寄った阿応理屋恵が背中をそっと擦る。


「……ゴホッ、ゴホッ!ぁぁ良い。自分の身体は自分が一番ようわかっておる。それより、そこの文台の所にある燭台と筆を近う」


「こ、こちらで?眩しゅうは?」

 真三郎が手灯りの燭台と文机から小筆と紙、硯まで尚元の枕元に運ぶ。

「後………筆を二本、………阿応理屋恵……畳を汚さぬよう、三本の筆だけを並べてみぃ」


「……汚さぬようにですか?……しかし、父上……」

 ほぼ毎日使う小筆、たっぷりと墨が付いていた筆をそのまま置いては穂先が垂れて畳を汚してしまう。


「……真三郎……そなたならどうする?」


「筆だけでですか?……ならば」

 意味を図り兼ねた真三郎ではあるが、三本の筆を組み合わせると、何故か近くに野球の玉替わりになるものがないかとでも辺りを見渡す。

「ほう!よう出来た。阿応理屋恵ゴホッ!よう見るが良い。三本の筆がお互いを支え合い、地である畳を墨で汚しておらぬ……ふぅ」


「父上!」


「だ、大丈夫じゃ。今、我が血を分けし者はそなたらに朝通を含めた三人だけじゃ……まぁ、嫁いだ一枝もおるがのぅ……ふっー」

 背中を擦り続ける阿応理屋恵の片手を叩いて、もうよいとの合図にする。


「余はな……余は王位を継ぐときに弟と……亡き鑑心(かんしん)と争ってしもうた。

 大新城(うふあらぐしく)の手腕でどうにか御位を得、責を残る三司官に負わせることで、幸いにも身内で血を流すこともなく治めてこられたが、主らはまだまだ幼い」


「「………」」


「いや、三司官も表十五人衆もその忠誠は中城(なかぐすく)王子(王太子)たる阿応理屋恵。そなたにある……じゃが、好機と見て弟らを担ごうとする者や、そなたがまだ若輩と甘く見て大島や先島で波乱が起きるやもしれん」


「しかし、大島の謀反の芽は摘んだばかりで」


「ふふふ甘い、甘いのぅ。芽は摘んでも根が蔓延っておるわ。

 余はな、血を分けた弟達に采地を割き、按司地頭として王家一族にその力を集めた。

じゃが、息子である忠樽(ちゅうたる)(朝通)や真三郎には久米や金武といった要地ではあるが貧しき地しか与えられなんだ」


「なにを父上。兄上も某も不満等」


「よい。貧しきは事実じゃ………じゃが、忠樽には君南風(きみはえ)、そなたには今帰仁を与えることは出来なんだか、替わりに今帰仁ノロをその『をなり神』として守護させることが出来た」


「はっ!」


「………ふぅ……先程の筆をよう見てみよ。お互いに支えおうて安定しておる。まるで我が琉球の神紋、左御紋(フィジャイムン)(左巴紋)の様ではないか。ゴホッ!……朝通がまだ来てないのが残念ではあるが、阿応理屋恵を中心として三兄弟、よう力を合わせて務めよ」


「「はっ!!」」


「阿応理屋恵、王とは孤独なものじゃ。……心して治めるのじゃぞ……ふぅー疲れた。少し休ませてくれ」


「はっ!」



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