密談
14 夕刻の密会
ココットとシャロットが入れ替わり、早くも一ヶ月が過ぎ様としていた。 シャロットは、実にうまくココットを演じていた。
本物のココットは人当たりだけは良かったが、誰しも詳しくココットの事を知っているわけではなかった。
其れゆえ簡単に人はシャロットをココットであると受け入れ、疑問を抱く人間は少なかった。
しかし逆にココットと親しかった、ごく少数の人間はそうではなかった。 そしてこの人物もまたその一人であった。
「ねぇ、ココット。 あなた旅に出る前に行った『サーペント宝石店』は覚えていて? あのお店に宝石を取りに行ってもらいたいのだけど、いいかしら?」
心配そうな顔をして、ハーネスト王女はメイド服に身を包んだシャロットに言った。
「はい、きっとわかると思います。 すぐに戻って来ますわ」
「もうじき日が暮れるから、気をつけてね?」
にっこりと微笑んだシャロットは、すぐに部屋から出て行った。
シャロットにしてはこれ幸いと言う事であったが、それはある意味ハーネスト王女も同じ事であった。
ハーネスト王女は部屋を抜け出し、夕日が差しこむ廊下を急ぎ王妃の部屋に行った。 そこで侍女頭のアネットと、王妃、ハーネスト王女が会う約束になっていたからである。
ノックもせずにドアを静かに開けて、身を滑り込ませたハーネスト王女を咎めるどころか、待っていた二人は安堵した表情で迎えた。
「気づかれませんでしたか、ハーネスト?」
王妃がそう尋ねると、ハーネスト王女は深刻な顔で「それは、大丈夫よ」と言った。
「まぁ、どうしてわかるの?」
王妃が不思議そうに言った。 真っ直ぐな性格で、嘘や曲がった事が苦手なハーネスト王女が、珍しく視線を反らした事を気にしたのだろう。
「最近あの子おかしいんですもの。 特に街に出て行く用事を頼むとしばらく帰ってこなくって…。
本人は『道に迷った』なんて言ってるけれど、何だかよくわからないのよ」
少し不安そうな顔で柳眉を顰めたハーネスト王女は、母親の顔を見る。
ハーネスト王女は、王妃には言っていた事であるが一度後をつけさせていたことがあったのである。
「まぁ、それとしてここにいる者は、あのココットを偽者として疑っているわけね?」
王妃がそう言うと、アネットとハーネスト王女は頷いた。
「でも困ったわね。 もし今のココットが偽者だとしたら、本当のココットはいったいどこにいるのかしら?」
まさしくそれが問題である。 本物のココットが何処かにいるのなら、どういった状況に置かれているのか、どうしてこんな事が起きたのかを探らないといけない。 そして彼女が何者かも。
しかし、どうやって証拠を見つければいいのか、何をすればいいのか三人には分からなかった。
「ココットは今何処に?」
アネットがハーネスト王女に尋ねる。 その顔色はあまり芳しくない。
夕日のせいで陰影が濃くなっているせいか、頬も少しこけたようで、生気がない表情をしている。
「サーペント氏の所へ行ってもらっているわ。 氏も、ココットが偽者ではないかと疑っている一人だから……、少し手伝ってもらったの。 『今日ココットにカマをかけてみる』と、氏は仰っていたわ。 その結果が恐らく今晩にも結果は出るでしょう」
ハーネスト王女は、自信たっぷりにそう言った。
「どうしてそんな事がわかるの?」
「氏は友人に、あらかじめ相談していたみたいなの。
そうしたらその人は『生まれたばかりの子供を入れ替えるならいざ知らず、成人した大人をここまで完璧に入れ替えることは難しいだろう』と、言ったそうよ?
『ただし、今回は記憶喪失という特別な事例があったから、もし仮に入れ替わっていたとしても、不思議ではないが一人では恐らく無理でしょう』ですって」
ハーネスト王女がそう言うと、「では、やはり…」と結論を出そうとしたアネットを、王妃が目で制した。
「待って、アネット。 そのままの言葉では『大勢でなら、やれない事もない』と言う事だと思うのだけど、違って?」
的確に的を射た王妃の言葉に、ハーネスト王女は無言で頷いた。
入れ替わるには、本物と偽者が必要である。
ならばその偽者は、どこにいたのか、何故入れ替わる必要があったのか。 そしてもし入れ替わった後、本物が生きていると言うのならば、一体その本物をどこに隠すか…?
「その人が仰るには、滞在していた教会が怪しいということでしたわ」
「そう、でもそこまでわかっても、どうすればいいのかしら?」
アネットにしては悲観的な事を言った。
この中で一番不安で、今のココットが偽者であると言う事を認めたくないのはアネットであっただろう。
「その事は安心して、氏が相談していた友人が行動してくれるそうよ?」
「こう言っては失礼だけれど、一体氏のご友人はどんな方なの?
それから……失礼だけれど信用してもいいのかしら?」
ハーネスト王女の言葉に、困った様に王妃は言った。
「その点なら何も心配要らないわ。 だって、一番良く知っているもの。 氏のご友人は、あの『三騎士』よ?」
ハーネスト王女がそう言うと、驚いた顔で王妃は口元に手をあてた。
「まぁ、不思議なご縁ね。 もうどうしようもない時は、彼らに頼もうと思っていたのだけれど……、本当になんて不思議な縁なのかしら?」
感極まったような言い方に、ハーネスト王女は「お母様ったら、大げさですわ。 そうと決まったら今日の会は終わりにしましょ」と言ってその場を流した。
ちょうど日が暮れたばかりである。 いくら遅いと言っても、今のココットとて帰ってきてしまうからだ。
けれど母に「大げさ」と言ったハーネスト王女自身も、「本当に伝説の救い主のように、ココットを助けてくれればいいのに」というのが、本当の気持ちであった。




