動きだしたシャロット
13シャロットの陰謀
シャロットがグレグナに来てから、早一週間がすぎた。
その間シャロットは必死で仕事を覚え、こなしていった。 本物のココット以上に努力を惜しまなかった。
さて、一週間もすぎた事だし、そろそろとシャロットは重い腰を上げた。 まず向ったのは夜のスラム街。 スラム街は治安も悪く、そこら中に腐った食べカスや、ゴミが散乱している。
まさにグレグナの闇の部分だった。
そこらじゅうに露店が建ち並び、明るいランプの下、怪しげな商品から、裏社会の流れ者が集うこの市場に、シャロットは用があった。 露店の土産物屋の前にすわり、小さな鳩笛を求める。
「お嬢さん、こっちの葦の笛なんかどうだい? 音色も綺麗でそっちのよりかは安値だぜ?」
店主が葦の連なった笛を差し出してきた。
ここの答えは確か「ノー」だったはずだ。
「いいえ、いらないわ。 それよりこの鳩笛の赤いの売ってないかしら?」
赤……禁色を示す色合いは、ここを通過する為の通過儀礼のはずだ。
「赤? お客さん赤いのをお求めで?」
店主の目つきが変わった。 ランプの下で煌煌と照らされた顔が、引き締まるのをシャロットは感じた。
「えぇ、赤いのにしか興味ないの。 売ってくださらない? 赤い鳩笛」
すると男はやれやれといった調子で、赤い鳩笛を脇にあった籠から取り出した。
「勘定は金貨三枚」
「高すぎるわ。 二枚にまけて?」
甘ったるい声をだすと、すごすごとひきさがり、参ったと言わんばかりに額をぺしっと男は叩いた。
赤い鳩笛を手に入れたシャロットは、「ありがとう」と言って、さらにスラム街の奥深く、バーのある区画に入る。 そこには数件の酒場や、ストリップショーを行う如何わしいお店のなかにぽつんと合った。 シャロットの調べでは、この中の『ロゼリアン』という店だ。 シャロットはさっき買った鳩笛を割って、中から木の札を取り出す。
そして隅っこに隠れるようにして存在するロゼリアンに入った。
中は意外と盛り上がっていた。 気持ち良さ気に飲む男達、女も女で三騎士を話題に花を開かせている。
カウンターに座ったシャロットは、マスターに木の札を見せた。
「ようこそ、お手洗いなら右側にある。 その前に洗面室もあるから使うといいよ?」
「ありがとう」
シャロットは木の札をしまって、洗面室に入った。 その隣がトイレらしい。 洗面室の壁が一面だけ僅かに色が違う。押しても引いてもビクともしない。
諦めかけた時、取っ手のように少しだけ、ぼこっとでた煉瓦を見付けた。 それをもって横にスライドさせてみる。
ズズズズズ……、重たい音を上げて扉は開いた。
蝋燭の明かりが等間隔に壁に配置されている。 その明かりは地下へと繋がっていた。
いよいよだ。 ……とシャロットは息を飲んで前進する。 ヒールのコツコツという軽い音が反響する。
やがて辿りついた木の扉の前で、深呼吸してからドアを開けた。かび臭い湿った匂い、それは次の部屋に入った途端払拭された。
ただの酒蔵のはずなのに、メインの酒達は隅に追いやられ、そこには四人掛けのテーブルに、老人と若い女性が一人づつ、そして数人の屈強な男が壁にいた。
「お客さん、ここは酒蔵だぜ? 入ってくる所間違えたみてぇだな。戻んな?」
屈強な男が立ちふさがって、シャロットの行く手を阻む。 そこでさっきの木の板を見せると、男は自分の持っていた割符と照合する。 ただの模様がついただけの板は、合わさったことによって、言葉が生まれた。
『神に感謝せよ』
「ボス、こいつ割符持ってやがりました。 どうします?」
「よいよい、丁重にお迎えしろ」
老人がそう言ったので、屈強な男は引き下がった。
「お嬢さん、ここがどういう集まりかご存知かな?」
老人が席を立ち、歩いてきながらシャロットに尋ねて来た。 老人の威圧にシャロットはおくびもなく答える。
「魔術師協会グレグナ支部。 本部は南領のピチカにあるそうね」
「ふむ、そうじゃ。 合格じゃな、お前さん何の用でここまで参った?」
それを話すとき、シャロットの心臓は、一際高鳴った。
「近々北領に囚われた、あなた達の仲間を解放してあげようと、そう思ってね。 取引に来たの」
その言葉に全員が色めきだつ。
「お嬢さんは、我々の仲間が何処に閉じ込められているかご存知かの?」
「えぇ、すくなくとも一人は知っているわ。 後は古地図を手に入れて、それでお仕舞いよ」
腰の曲がった老人は、疑わしそうに見ていたが、シャロットの余裕を見て納得した。
「では取引とは? 無論慈善事業じゃないんだから、それなりの見返りがあればやってくれるわな?」
「そ、私の要求は簡単、幻覚を見せる香草を大量に集める事と、南領領主に渡りをつける事。 用は私を南領領主に合わせてほしいの」
「わかった。そうすれば、お前さんは仲間を解放してくれるんじゃな?」
「生死はわからないけどね? あなた達が送り込んでいたキャメロットは死んだそうよ」
「そうか……やはり死んでいたか」
キャメロット、魔女として処刑されたココットの母親は魔術師協会でスパイとして活動していた。
シャロットはその生死を伝えることも、今回の役割について重要だった。




