↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界帰りの中年冒険者、日本に戻ってもやる事が変わらない  作者: くまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/79

第44話

 ヘクサリアとの冒険の後は大変だった。

 だが、同時に大事《おおごと》になる事もサイは想定済みだ。


 十一階層まで到着すると、そのまま新宿タワーにある転送装置を使って一階層まで戻ってきた。

 確実に出待ちが存在するであろう事は予測できた。

 ゆえに、ヘクサリアの隠ぺい魔法を使って、気配どころか存在の全てを遮断。

 人々が出待ちしているところを文字通り(空中にヘクサシールドを展開し、その上を渡ることで)飛び越して、冒険者ギルドへ帰還。


 突然、あらぬ方向から出てきたサイとヘクサリアの姿に驚かれたが、その時には既に着替えまで終え、受付に「騒ぎを起こして申し訳ない。今日の冒険は終えたので帰宅する」と伝えて、帰宅した。


 SNSでは、あまりの神出鬼没ぶりに驚きや批判もあったようだが、現場の混乱を考えると妥当な形で収めたと言える。


 サイは、そのように考えていた。

 だが、問題というのは、想定外のところ、あるいは想定以上となった時に発生するものだ。


 今、世間どころか世界中で話題のハイエルフ。ヘクサリア。

 そんな彼女と、なぜかパーティーを組んで動いた、ソロの中年冒険者サイ。

 問題の渦中にいるサイは、自宅にて頭を抱えていた。


「想定はしていた……想定はしていたんだがなぁ……」


「せんせ、ヘクサリアさんの事甘く見すぎじゃない?」

「DMってパンクすると、こうなるんですね……」

 サイのスマホを、覗き込むひよりと澪が呆れたように見ている。


 冒険者配信サイト『Tower Tube』には、他の動画サイト同様にチャンネル登録機能があり(申請は必要なのだが)コメントを記載する機能、DMもできたりする。


 サイは魔力制御トレーニングや冒険者の心得を教える指導者として、DMを公開し「質問があればこちらへ」としていた。日本人どころか海外からも一定の評価を受けるソロの中年冒険者サイとして、ただの指導者であれば質問に対して回答するだけなので、その機能も充分に役割を果たしていた。


 だが、ここにヘクサリアという要素が追加されると話は別だ。

 正直に言って、地球の情報拡散力の見積もりが甘すぎた。


 DMのリストには、ヘクサリアとの関係に対する質問や、取材依頼。それと、ただのお祝いとただの誹謗中傷が、大量に、それこそ想定以上のレベルで届いていた。

 ちなみにヘクサリアの方にも届いているようだが、ヘクサリアはそもそも自身の配信チャンネルを見ていないため、気づいてすらいない。


「雑事にかまける暇があるなら、この世界にある論文をひとつでも多く読みたいし、今あるアイディアをひとつでも多く形にしたい」


 そう言って、今は自身の工房に籠もって、自身のやりたい事をやっている。

 

「なんというか……情報統制って、本当に難しいですね……」

「悪霊とか妖魔の件があるから、私たちも他人事じゃないしね」


 去年の十二月、新宿魔人戦線と呼ばれた魔人との戦いは記憶に新しい。

 世間には一切公表されておらず、これは情報封鎖がうまくいっているパターンだ。


 だが、ヘクサリアは既に世に知れ渡ったハイエルフの女性だ。

 今更、情報統制も何もあったものではない。

 既に情報という爆弾は爆発している。

 ……否、サイとヘクサリアが(偽装とはいえ)結婚しているという特大の爆弾があるのだが、一旦それは考えない事にしておきたい。


「ふん。どちらにせよ、この騒ぎも一時のことよ」

 いつの間に工房から出てきたのか。

 ヘクサリアが、サイの隣にやってきた。


「大体、貴様よ。こんな事、以前もあっただろう」

「まあそうなんだがな……」

「前にもあったんですか?」

 この状況を経験済み。ふたりは、そんな発言をした。

 そんな事を言われれば、ちょっと気になってしまう。

「随分と昔の話だけどな」

「うむ。まあ見ておれ。あちらの世界でも、こちらの世界でもやる事は変わらん」


 そう言って、クククと笑うヘクサリアだった。

 サイは過去を覚えているだけに「あちゃあ~」と顔を手で覆った。


 触らぬハイエルフに祟りなし、である。


◇


 それから、しばらくして。

 遂にヘクサリアの魔力講座が行われる事となった。


 当初は限られた数の受講者を想定していたが、あまりにも受講を求める人が多く、抽選にしたら確率が何百倍という状況になってしまった。事前テストや経歴確認を行い怪しい経歴の人を弾いて、なおその数字である。

 そのため、とある大学の講堂を貸し切って行う事となった。


 魔力という存在が確認され、冒険者たちを中心に活用されているのに、未だ科学のメスが入らない学術的な未知の荒野(フロンティア)。

 その荒野にメスを入れられるという異世界人。ハイエルフ。絶世の美女。

 講義を受けたいという人が殺到するのも当然の話だった。

 ある種、現代のアインシュタインの講義とも言える。


 大学、研究所、在野の研究者、冒険者。

 知の旅人たちは、いつだって未知に憧れるものだ。


 当選者のみに開催地が知らされ、厳重な警備の敷かれた状況での開催となった。

 魔力対策課の加賀を中心にチームが編成され、警察隊なども出動している中での講義だ。

 場所は、日本の最高学府として有名な大学の講堂。


 そんな講堂の壇上。ステージ。

 その中央にヘクサリアが立ち、隣にサイも立っていた。


 この講義は海外にも配信されており、リアルタイムで各言語による翻訳も行われているそうだ。


 ヘクサリアを除く人々の緊張を孕む中、ヘクサリアの講義が始まった。


「さて、これより講義を始めるが、先に話しておく事がある。

 本講義は、魔力についての基本的な知識の共有から始まり、最終的には『魔導』と呼ばれる、君たちにとっては異世界の技術の一端を開陳する。

 講義の回数は現状十回を想定しているが、増やす事も減らす事もある事を了解いただく」


 どよどよと受講者がざわめく。

 当然だ、講義の数が変わるなんて聞いていない。

 だが、そのどよめきを気にせずヘクサリアは語る。


「我が、この世界に来てもう二ヶ月ほど経つが、我の周囲を嗅ぎまわる狗《モノ》がいる。其奴《そやつ》らは、こともあろうか我や我の所有物、その関係者。我の周囲に張り込み、我をダ(・)シ(・)に、自身の利益を追求する狗《モノ》だ」


 受講者の中に覚えがある人がいるのか、肩を震わせる者もいた。

 だが、ヘクサリアは止まらない。


「この狗《モノ》らについて、既にどこの所属の者か。一切の把握は済んでいる。

 小賢しい理屈を述べ、御託を並べる愚は不要である。

 我は、我の周りで騒ぐ者を嫌う。

 我は、我に干渉する者を嫌う。

 ゆえに我はここに宣言する。

 我や我の所有物サイト・ヤマナミ、あるいはその関係者に対して、相手の了解を得ずに接触を行う者が現れた場合、その時点で本講義を終了する」


 更なるどよめきが講堂を覆う。


「……今話した事を踏まえ、これよりデモンストレーションを行う。魔力、魔導の深淵。あるいは、我(・)を(・)怒(・)ら(・)せ(・)た(・)場(・)合(・)、ど(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)な(・)る(・)か(・)知(・)る(・)と(・)良(・)い(・)」


 次の瞬間、講堂にいる受講者の誰もが幻想と恐怖を体験する事となった。

 そして、講堂からは見えないが一部の配信視聴者も恐怖をしている事だろう。


 どこから現れたのか。

 全ての受講者の肩に、突如小さな精霊たちが降り立った。

 全く知覚できず、突如として現れ、自身の肩に小さな精霊が立っているのだ。

 その精霊は、ほとんどの受講者に対して、ただかわいらしく身体を動かす。挨拶をしているように見える。続けて、ジェスチャーで「驚かせてごめんね」とも言っているようだった。


 地球では精霊は見えないものだ。

 だというのに見えている。受講者のほとんどが、この小さな精霊が何者かすらわからない。だが、幻想的な存在だという事だけは、すぐに伝わった。

 これが魔力や魔導の深淵だというのか。


 だがメルヘンチックな状況は、ホラーにもなりえる。

 一部の受講者の肩で、その小さな精霊がボソっと何かを伝えた。

 その瞬間、恐慌状態になり、頭を抱えて震える者、あるいは逃げ出すように講堂から出ていく者が現れた。


 配信の向こうでも一(・)部(・)の(・)人(・)間(・)の(・)も(・)と(・)で(・)同じ事が起こっているはずだ。

 ただ配信を見ている者は、講堂に生まれた幻想に驚いているだろう。

 だが、既に悪意を以って動いた者には、既に精霊による網が張られている。

 突如、肩に乗られた小さな精霊による警告《ささやき》を耳元で聞いたのだ。


「不躾なる者どもよ。不敬なる者どもよ。不遜なる者どもよ。

 よく覚えておくがいい。我の邪魔をするとこうなる」


 この時、講堂を埋め尽くす受講者たちの反応は様々だ。

 わかりやすかったのは、突然逃げ出した者、あるいは肩を大きく震わせる者だ。

 彼らはただ単純に『手を出してはいけない存在に手を出した』者たちだ。


 それ以外の善良な――魔力について本気で研究したいと願う――人々は、感動する者、拍手する者、畏れる者、祈る者……さまざまな想いで返した。


 ヘクサリアは一拍置いて、話を続けた。

「……さて、本講義は隣にいる者が助手を務める」


 サイは、一礼する。

 講義が始まったら、サイの仕事が始まる。

 講義に使用するスライドを映したり、魔法関連を見せる際の見世物役だ。

 受講者たちは、サイが一礼した際に小さな拍手で出迎えた。


「それでは、これより講義を始める。」


 後日。本講義は『大魔導ヘクサリアの講義』としてまとめられる事となる。

 その際、彼女の講義にまつわるエピソードとして、この話がトップで飾られるものとなった。


 こうして地球で『大魔導』と称されるようになったヘクサリア。

 魔力という未知の分野を解明した講義は好評を博す。


 その後。

 メディアにおけるヘクサリアの扱いは、講義に対する話ばかりで、彼女の人物像に対して取り上げる事はなくなった。

 ネットにおける反応はそれぞれだが、ごく一部の怖いもの知らずが敢えて過激な敵対行動を取ってアピールをした。だが、日本政府及び一条を頭とする退魔連が即座に対応。

 ヘクサリアが動く事なく、単純な法的処罰が適用される事となった。


 初回講義を終えたヘクサリアは、自宅でくつろぐ。


「ふむ。これでトゥアールの時同様に、多少はマシになるはずよ」


 そう言って、ヘクサリアはコーヒーを飲むのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。