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異世界帰りの中年冒険者、日本に戻ってもやる事が変わらない  作者: くまき


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第39話

 数日後。

 サイとヘクサリアは、ひよりに呼び出され一条家の敷居をまたぐ事となった。

 ヘクサリアの存在が、政府を通じ、退魔師たちに捕捉されていた。

 ひよりからの提案で下手に隠さず、ヘクサリアの存在を限られたメンバーに明かし、相談した方がいいだろう、という話になった。

 ヘクサリアは異世界への帰還のため、新宿タワーの最上階を目指さねばならず、この状況において、ある意味渡りに船といった状況だ。


 というのも、新宿タワーを管理しているのは日本政府である。

 ならば、一条の退魔師と政府が彼女を公認する事で、ヘクサリアの冒険者免許を得ようという魂胆である。


 その流れで異世界について、彼らに情報公開する必要があるのだが、現状ヘクサリアも含めて、誰も異世界に行く手段を持っていない。

 ならば開陳しても良いだろうという発想だ。


 そして今、サイとヘクサリアは一条家の門前にいる。


「ふむ。魔を祓う術式があちこちに貼られておるな」

「悪霊退治の家系だから、防衛術式使ってるんだろ」

「古い術式……違うな。術式がチグハグでマナが無駄になっている。勿体ない部分が多い。だが、精霊どもは……クク、そうか。お主らには、これが良いか」


 ヘクサリアが虚空に向けて話をしている。

 ……虚空ではない。この土地に住まう精霊と喋っているのだ。

 残念ながら、地球に住まう精霊は人間には見えない。

 ちなみに異世界の精霊は人間にも見えるし、サイもお世話になっている。

 彼女に従う小間使いがサイたちにも見えているように。

 だが、地球と異世界で、なぜそのような差異が発生しているのかはわからない。


「せんせ、いらっしゃ~い」

「先生。お待たせしました」

 私服のひよりと澪がやってきた。

 澪も関係者として呼び出されたのだろう。

 その横には清廉そうな雰囲気を醸す男性が立っていた。


 ひよりの父、一条隼人だ。

「しばらくぶりです」

「いえいえ、いつも娘がお世話になっています。それでこちらが……」


 今日もヘクサリアは、つばの広い帽子を被っている。

「ええ。どうやら彼女の件で驚かせてしまったようで……」

「そうですね。彼女にはいろいろと伺わないといけない」

「ちょっとパパ、家の前で話さないでよ」

「そうでした。ご案内します」

 そうして案内されたのは以前も入った事のある応接間だ。

 前回はひよりの身内ばかりであったが、今回はそうでもなさそうだ。

 サイが以前に会っているのは、ひよりの父や祖父。

 あとは、新宿魔人戦線で挨拶した事のある男性がいるぐらいか。

 それ以外は、はじめましての人たちばかりだった。


「それでは全員集まりましたので、始めさせていただきます」

 誠実そうに聞こえる声音で、ひよりの父隼人が音頭をとった。

「まず参加者ですが、一条家より私隼人と、父の源治。娘のひよりとその友人の澪くん。彼女たちは今回関係者にもなります。それで、その向こうが……」


 ひよりの祖父の隣に座るいかめしい男がヘクサリアを胡乱な瞳で眺める。

「退魔連関東支部の桜庭だ」

 退魔連とは、政府の支援を受け退魔師たちを束ねる組織だ。

 本来は一条家が取纏《とりまとめ》をする組織だが、今回一条家が音頭を取るため、退魔連側の意見役として派遣された形となっている。


 その隣にいるのは日本政府の関係者だ。

「新宿タワー課の吉村です」

「魔力対策課の加賀です」

 どちらも新宿タワー出現後に作られた政府の人間だ。

「サイ……山浪くんもお願いしていいかね」

「はい。冒険者の山浪彩人です。それと……」

 順番が来て、ヘクサリアは平然と顔を向ける。

「ヘクサリアだ。今回は我の存在がお主らを驚かせたようだな」

 帽子をとり、その顔と長い耳を露わにする。


「「おお……」」

 周囲から驚嘆の声が聞こえる。

「早速伺いますが、ヘクサリアさん。あなたの姿は物語に出てくるエルフのようですが……」

「正しくはハイエルフよ。異なる世界からやってきた、な」

 周囲がどよめく。


 しかし、ひとり厳《いかめ》しい顔をした者がいた。

 退魔連の桜庭だ。

「異なる世界って幽世《かくりよ》のことだろ。魔人がよ」

「おい、桜庭」

 慌てて桜庭を窘《たしな》めようとする隼人。

 だが、桜庭は止まらない。

「はん! どうやって、この結界ゴリゴリの屋敷に潜り込めたのかわからねぇが、俺は視えてるぜ」

「ほう。続けよ」

 まるで動じずに話を促すヘクサリア。


 桜庭は、どうやらヘクサリアをハイエルフではなく、それっぽく化けた魔人と勘違いしているらしい。

「なにが異世界だよ。俺は身体を視ることができんだぜ?」

「ほう、身体を視たとな」

「おまえ、魔人どもと同じに身体が魔力でできてるじゃねえか。それになんだ、そのバカみたいな魔力量はよ。魔人じゃなきゃ上級の悪魔以外にありえねえよ」

 桜庭の言っている事は正しい。

 ハイエルフという種族は、その体組織のほとんどが魔力で構成されている。


「前回の魔人どもといい、おまえらは新宿タワーを狙って何を企んでいるんだ!」

「ちょっと桜庭のおじさん!」

 慌ててひよりも止めようとする。

「止めんなよ、ひよちゃん。前回、どれだけ大変な目にあったって言うんだ! ひよちゃんたちだってそうだろうが! 仲間も死んでよ! もうあんな想いは懲り懲りだ!」


 新宿魔人戦線では、多数の重軽傷者を出し、死者も出ている。

 魔人とは、妖魔の中でも特に強いとされる名を持つ妖魔だ。

 ひよりや澪、そしてサイのおかげでなんとか倒す事ができた。

 前回からまだ二ヶ月も経っていないというのに、また来たというのか……。

 しかも今回もまた新宿タワーを狙っている。


 桜庭は前回の件がよほど堪えたのだろう。

 おかげで魔人と似た身体を持つ彼女を、魔人と勘違いしていた。

 

 だが、桜庭は大きな勘違いをひとつしている。

 それは魔力の質だ。妖魔とエルフでは、魔力の質が全然違う。

 それは魔道覚を鍛えたサイならわかることだが、自身の魔眼頼りの彼は、その性質まで読めていないようのだ。


 どう収めようか迷うサイ。

 だが、先にヘクサリアが動いた。


「聞くに堪えん戯言よ」

「ああん!?」


 桜庭が叫んだ直後、一瞬にして強大な魔力圧が応接間を覆った。

 発生源はヘクサリアだ。

 ヘクサリアは少しだけメガネをずらし、桜庭を見下ろす。


『囀るな。お主は黙って寝ておれ』

「はい……」


 桜庭はヘクサリアご自慢の魅了を受け、眠りだした。

 サイだけは意味が分かる異世界の言語で、桜庭を眠らせた。

 彼女の魅了は、言語の壁など平然と飛び越える。

 周囲が突然のことに圧倒されている。


 ただサイだけが、現状に少し驚いていた。

「眠らせるだけなんて、サリアにしては優しい対処だな」

「ふん。この場を血で汚すわけにはいかぬからな」


 自身を侮辱した者に一切の容赦をしない。それがヘクサリアだ。

 ヘクサリアは、サイから妖魔や魔人について軽く聞かされている。

 桜庭は、ヘクサリアを妖魔……異世界でいう悪魔たちと同一視したのだ。

 異世界の感性で言えば侮蔑どころの騒ぎではない。

 そんな発言を桜庭はしてしまった。


 そして、ヘクサリアはこのような侮辱を受けて黙っている女性ではない。

 本来なら、もっと苛烈な罰を与えている。 

 だというのに今回『お前は出しゃばるな』だけで済ませたのである。

 異世界に住むヘクサリアを知る者なら確実に驚く行動だ。


 一同驚いた顔をしているが、その中でいち早く場を切り替えようとしたのは隼人だった。

「申し訳ありません、ヘクサリアさん。この場にふさわしくない者がいました」

「かまわん。続けよ」

「それで……一応の確認ですが、今喋った言葉は……」

 隼人は、さまざまな言語に通じている。

 その隼人でもわからない言語だった。


「うむ。今のはお主たちがいうところの『異世界』の言語だな」

「異世界とは、具体的にどういう場所なのでしょう?」

 そう聞いてきたのは新宿タワー課の吉村だった。

「それについては私が説明しましょう。多分彼女が説明するよりも、伝わりやすいでしょうから」

「サイさんが?」


 吉村は新宿タワーの冒険者ギルドで働いている。

 そのため、サイの存在ももちろん知っていた。

 冒険者になって、まだ一年と経っていない中年冒険者。山浪彩人《やまなみさいと》。

 通称サイ。四十代でありながら、今になって冒険者免許を取り破竹の勢いで新宿タワーを攻略しているソロ冒険者。

 救援隊でもないのに助けが必要とあらば助けに向かう、実力を兼ね備えた冒険者。

 指導配信も行っており、魔力を鍛えるという前代未聞のトレーニング法を広め、どこで学んだのか、冒険者のイロハまで教えられる男。

 冒険者ギルドからすると短い期間ながら積まれた実績に、どこかのタイミングでせめて感謝状ぐらい送りたいと言われている、中年の星。

 それがサイの評価だ。


 そのサイが、何を説明するというのか。


「ええ。私も彼女がいた世界で三十年ほど暮らしておりました」


 まさかの爆弾発言だった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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