第1話 未来から来た男
はぁ……はぁ……俺はスーツのまま総合病院の中を走っていた。普通ならばこんな混み合う場所でしてはいけないことだが今はそれどころではないのだ。
着いたのは扉の前……そこには俺の両親が腕を組んで待っていた。
「お、親父遅くなった」
「遅かったな弘平、こんな日くらい早引きすればいいだろう」
「それができるほどウチの会社は余裕が無いよ」
俺は息を切らしながら親父を見る。親父は顔を緩めて。
「ちょうど産まれたよ。俺らの初孫にしてお前の倅がね」
病室から大きな泣き声が聞こえてくる。
う、産まれた……
「ちんたらするな。お前はもう一人だけの身体じゃない」
親父に背中を叩かれる。そうだ……俺はもう父親なんだ。俺は静かに拳を握ったまでは良かったのだが……
ゾクッ……体に大きな震えが起きた。何だ俺は今父親になることを怖れているというのか……そんなことは一切なかった。動かせない中目線を病室の入り口に向けると誰かが扉を開けようとしていた。恰好からして医者でもないし看護師でもない、じゃあ俺の知り合いかと言えばそんなこともないし妻側の知り合いにそんな顔があった記憶もない。
俺が目線を動かすと腰に何か帯びているのが見えた。これは何だ……銃のようなグリップをしているがその先は楕円の物体が付いている。子供向け宇宙アニメの銃で見たような形だ。そんなものを付けて妻のいる病室で一体何をしようと言うのだろう。
「何か用ですか?」
声をかけるとそのものは扉に押し入ろうとするので思わず腕を掴んでしまう。
「ぎゃあ!」
悲鳴からして男性らしい。その男は振り返ると俺を見て銃口を向けるが腕を押さえているので引けない。
「くっ、時間停止装置が効き損ねたか」
時間停止装置ってなんだよ!未来の話か何かか?
「おい親父どういうことだ!」
振り返ると両親は動いていない。どういうことだ本当に時間が止まったって言うのか。
「その時間停止装置とやらを使って一体何をしようって言うんだ」
「アンタにはお話しできかねる」
「お話しできないってことは無いだろう。中にいる妻と息子に用事があるんだろ?」
「くっ……早く行動してから無理やり記憶を消すか……」
男性は静かになるが……急にまた入ろうとするので俺は腕を思いっきり引っ張った。すると転げて懐に入っていた薬が出てくる。男性はすぐに拾おうとするも俺がそれを許さない。
「何だこれは!」
「何だこれはって……アンタにゃ関係ないだろ?」
内服薬としては馴染みのない錠剤だ。俺は問い詰める。
「この薬で俺の妻と息子に何をするつもりだった」
男性は諦めたように両手を挙げると。
「本当はお話ししたくはなかったんだけどね?」
俺を見据えてこう信じられないことを告げたのだった。
「俺は未来からアンタの息子を殺しに来た」




