微かな痕跡
父ゲイルは何かと細かい男である。
例えば自分の存在を覚えやすくする為に、あえて気が狂ってるかのような場面を敵側に見せたり、
社交界等では寄ってくる女性に対して酷く冷たい態度を取り、家族を蔑ろにしているかのような話をわざとする。
しかし、実際は優しく穏やかで、家族の事を第1に大切にしている。
つまり、演技派だ。
そして、何より民衆の声や、治安維持の為にも助力を尽くしている。
約2000年の歴史があるアトランテ家だが、いまだに解決するまでに時間のかかる事も多くある。
そして、突然起こる事件や悲劇もゲイルにとっては悩ましい問題の一つでもある。
ゲイル「今回のはぐれ魔族の疑いだが…多分モンスターでは無いのは間違いないだろう。」
前日にルミナスからの報告があった通り、ゲイルは速攻調査隊を派遣し、痕跡や被害に対してのまとめを受けている。
ゲイル「そして微かだか痕跡を見つけることは出来た。」
そう言うとゲイルは透明なガラス瓶の中に入った2〜3本のなにかの生き物の体毛と思われる灰色の毛を見せる。
ゲイル「コレは現場に落ちていた痕跡だ。かなり念入りに探して、たったこれだけしか痕跡を残していないのも、かなり厄介だ。
鑑定の結果は人間や、モンスターの物ではなく、獣人の物だと判明している。」
キルファ「色合いからすると、狼系の魔族の可能性がありますね。この毛色から察するに…」
【ウェアウルフ】
その場に居るアトランテ家全員が声を揃えた。
現世のウェアウルフと言えば狼人間と言うのが一番しっくりくるだろう。
しかし、この世界のウェアウルフはまた少し違う性質を持ち合わせている。
常に狼の顔に、身体が体毛のある人型である。これは基本的な現世とほぼ変わらない。
しかし、人間の姿に変身や、凶暴性は戦闘部族と言われるほど、かなりひどいものだ。
そして何よりも人間もその身の糧として襲う事がある種族なのだ。
ヒナ「仮にウェアウルフだとしたら襲いやすい人間をまだ襲って来ないという点で何処かしっくり来ないのですが…」
ヒナは、はぐれ魔族に対して基本的には警戒を劣らない。そして過去の被害報告なども目に通しており、その際討伐された、
はぐれ魔族の中にウェアウルフがいた事を知っている。
その事件で1番の加害者はウェアウルフだったのだ。
ゲイル「確かにその通りだ。過去の事件もウェアウルフと竜人が討伐されたが、今回は人的被害が出ていない。
だからこそ最悪の事態になる前にこちらも手を打たねばならない。」
カイン「そうなると、今後この件が解決するまでは街のみんなには夜間の外出、物音などは警戒させるべきですね。
幸いにもアトランテ全体の食糧庫は難民用の物も含めてかなりの貯蓄がある。すぐに飢えるなどの危機にはならないかと。」
ゲイル「そうだな。
とりあえずは我が軍から見回り部隊を編成して巡回をさせよう。」
この日の話し合いはここまでに終わり、各自ギルドでの伝達や今後の作業に移り始めた。
ヒナも最近考案した料理を提供する。
ヒナ「今日はフユガニのカニグラタンがおすすめランチです!」
フユガニの大きな甲羅をそのまま容器として使用し、
マカロニと蟹の身、味噌をホワイトソースで混ぜ合わせ、チーズをカリカリに焼き上げた
特大カニグラタンだ。
備え付けで出されるスープは大きさが半径40センチもある特大タマネギの鬼オニオン。
この大きさで万年新玉のような品質なのだ。
注文したハンターはまず初めに冷えた体を温めるためにスープから口を付ける。
タマネギの健康的な味と、甘みが口に広がり
ほのかにショウガとコショウの辛みがピリリと舌を刺激する。
喉まで到達した後に、胃袋へ…
そして体の内部から暖かさがジンワリと広がる。
思わず飲んだ後に「ほっ」とため息が出てしまう。
そしてフユガニのグラタンにスプーンを差し込む。
パリパリに焼いたチーズが砕けると、まだ中身の温度が高いためゆらゆらと湯気が出てくる。
少しスプーンの上で息を吹きかけ、
熱さをおさえ、伸びるチーズを無視したまま口に頬張る。
ハフハフとまだ熱さは残るが、やけどするほどではない。
口に広がる濃厚なホワイトソースに、蟹の身と味噌の濃い風味が合わさり、
チーズの焦げた味が良いアクセントになる。
チーズが好きな人には堪らないだろう。
ハンター「うんまぁい!体も温まる!」
言語力が豊富ではないハンターは純粋に味を楽しんでくれる。
ヒナはその一言だけで十分満足する。
「おいしい」この言葉は料理を作る側の人間からすると何よりの褒美の言葉なのだ。
現世でもこの言葉があるからこそ、料理を作る楽しみ、やる気に繋がっていた。
そしてこの世界でもヒナは満面の笑顔で食べてくれるハンター達の反応が、何よりの活力となっていた。
ヒナ「皆さんのおかげでまだまだフユガニは沢山ありますので、いっぱい食べてくださいね!」
今日もギルドの食事処では
ヒナの料理で活気が満ち溢れている。
そして外にまで盛れた料理の匂いに反応する者も居た。
???「この匂い…なんの食い物だ?」




