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 画面にはマーメイドラインにAライン、プリンセスラインなど、煌びやかな衣装がこれでもかとばかりに並んでいた。

 色合いも様々で、アリスたんに似合う色はどれか、と俺は受験大学を決める時より厳しく精査する。


(一番似合うのは白だけど、白は三年用に残しておきたいし……深紅はあの金の髪がよく映えるから美しいし、でも可憐さを推すならピンクも捨てがたい……)


 しばらく唸り声を上げていた俺は、ようやく一つのドレスに心を決めた。深い青色のドレスで、ふんわりと広がったドレスの裾には、星をイメージした銀糸の刺繍が、波立つように施されている。

 色合いはシンプルだが、夜空の妖精みたいな可愛らしさがあり、俺は満足げにそれをカートに入れた。

 ついでにドレスに合いそうなネックレスやイヤリング、靴やカバンも次々とカートに放り込む。

 最後の方に『化粧道具一式』と書かれたアイテムがあり、俺は迷うことなくそれも購入した。


『化粧道具一式』は、『流行』パラを一気に上げてくれるアイテムだ。ただ値段が半端なく高いので、俺自身はプレイで調整し、買うことはほとんどしなかった。


(でも少しでもアリスたんを応援したい……こんなチャンス二度とないかもしれないし!)


 すべてカートに入れたところで、精算画面に移行する。そこで俺は目を剥いた。商品の合計金額ではない――俺の『所持金』にだ。

 一、十、百……コンマってここまで付く事あるのか? てかこれ、リアルマネー換算したら相当やばくないか? いやこっちの通貨としてもすごいけど。


「お、おい、お前どうしてこんなに金持ってんだよ!」

『ああ? 何でもいいだろンなこと』


 そういえばこいつ、公爵家のボンボンだった。

 もちろん自分で課金して買い揃えるつもりだったのだが、どうやらリアルマネーを換金する手段がないらしい。

 こっそり確認したらノーとは言わなかったので、ありがたくヴィルヘルムの財布からお買い上げする。

 お、ポイントカードも満タンに溜まってる。

 まあ金があるから割引は良いだろう。


 購入が完了しました、というメッセージが表示されたかと思うと、光の粒子が眼前に浮き上がった。

 瞬く間にプレゼントの箱がごとごとと大量に現れる。お急ぎ便もびっくりの速さだ。善は急げとばかりに、俺はリボンのかかったそれらを手に立ち上がった。





 だがプレゼントを両脇に抱えた俺は、再び女子寮の廊下で仁王立ちしていた。


(……どうやって渡すかを考えていなかった……)


 ゲームではアリスたんから男どもに渡すばかりだったので、アイテムを持っているだけで、『プレゼントを渡しますか?』というテキストが勝手に表示されていた。


 しかしここはリアル・デスデスの世界。

 都合のいいメッセージウインドウは現れない。


(部屋に行ってさっと渡すか? いや、俺からだとわかったら拒否されるだろうし……。誰かに頼んで渡してもらうか? ああーでもマルガレーテにばれたら面倒だな……)


 アリスたんと対面してしまい、俺の内なるヴィルヘルムがまた余計なことを口走らないという保証もない。

 仕方なく俺はアリスたんの部屋の前まで行き、ドアのすぐそばに置くという、季節外れのサンタクロース作戦を実行することにした。


(急に出てきませんように……)


 アリスたんの部屋が近づくにつれ、俺の心拍数も比例して激しくなる。ようやく扉の前までたどり着くと、俺は音を立てないよう細心の注意を払いながら、床にプレゼントの箱を積み重ねた。

 ジェンガよろしく、完璧なバランスのそれを満足げに眺めていた俺だったが、ふと『プレゼントだと気づかれなかったらどうしよう』という不安に駆られた。


(これだけの量あるから気づかないことはないだろうけど……逆に不気味すぎて、近づかないんじゃないか?)


 やはり今すぐにノックをして、嫌な顔される覚悟で渡すべきか……と悩んでいたところ、一番上のプレゼントに掛けられていたリボンに、小さなカードが挟まっているのに気づいた。するりと抜き取る。

 白紙だ。

 おそらく贈り主が自由に書いて使うためのものだろう。


(……せめて、宛名くらいは書いておくか……)




『――いつも頑張っているアリスティア様 良かったら受け取ってください』


 受け取り拒否されそうなので、あえてヴィルヘルムの名前は書かない。俺は満足げに頷くと、カードを元の位置に戻した。

 すると誰もいなかったはずの廊下の奥から、足音が近づいてきた。まずい、と俺はアリスたんの部屋から離れ、死角となる壁の脇へと移動する。なんだかこいつになってから、いつも物陰に隠れてばかりだ。


 やがて機嫌のいい鼻歌と共に、一人の男子生徒が姿を見せた。髪は絹糸のような白色で、肩ほどまでの長さをハーフアップにしている。額から高い鼻、顎と理想的なEラインを描いており、渋谷を歩けばスカウトが群れをなして追いかけてくるレベルの美形だ。

 さらに珍しいことに目は熟れた果実のような赤色で、そのカラーリングだけ見ると『ウサギさん』と呼びたくなる感じである。


 男の横顔に見覚えがあった俺は、すぐに情報を脳内で再生させた。





 流行キャラ枠――ユリウス。

 端正な顔立ちと柔和な性格で女生徒からの人気が高い、いわゆる『モテ男』だ。

 おしゃれを知らないアリスたんが、綺麗になろうと懸命に努力する姿に興味を持ち、彼女を綺麗にしたいという関係から少しずつ親しくなっていく。

 野暮ったいアリスたんを、最初はからかいつつも可愛がるという感じなのだが、彼女はさなぎが蝶に羽化するかの如く、驚くべき速度で美しい大人の女性に変貌していく。

 ただの興味本位で接していたはずのユリウスだったが、いつの間にか恋という感情に代わる、というストーリーだ。


 まあ俗にいう『女好きキャラが、主人公に恋をすることで本当の愛を知る』という、乙女ゲーマーなら嫌いな奴がいない、まさに給食のカレー、飲み会後のお茶漬け、居酒屋の唐揚げみたいな王道展開だ。

 俺の脳内RIKKOが『あ~り~が~ち~~~!』と人差し指を振っている。うるせえ、王道は良いものです。


 ちなみにユリウスもヴィルヘルムに並ぶ、なかなか良いところのお坊ちゃんなのだが、トゥルーエンド後は家を出て、本当の夢だった服飾デザイナーへの道を歩むことになる。

 モデルになったアリスたんと二人で小さな部屋を借り、結婚を前提とした同棲生活を送るのだ。その名も『美しい君と、美しい世界で』。設定が現実世界に近い分、正直ものすごく羨ましい。


(くそ……リアルで見ると、やばいくらい顔が良いな……)


 公式で認められたイケメン設定と、複数の女子を侍らせている性格が、男の俺はあまり受け入れることが出来ず、今まで出てきたキャラに比べると攻略した回数は少ない。

 ただしユリウスの場合、一度惚れさせてから冷たくあしらう、通称『悪女プレイ』が非常に滾るのだ。


 出会ってしばらくはアリスティアへの関心も薄く、デートの約束をしていても他の女子と出かけたり、登下校で挨拶をしても名前を忘れられていたりと、何かと苛立たしいことが多いユリウス。

 だが好感度が上がるにつれ、アリスティアのことを意識するようになり、完全に『好き』状態になると、今までの軽薄さが嘘のような『純情少年』に変身するのだ。

 デートの約束を取り付けるだけで真っ赤になり、一緒の下校を断るだけで世界の終りのように落胆する。


 そのギャップがたまらん! という声はもちろんのこと、今まで煮え湯を飲まされていたプレイヤーによっては、これ幸いとわざと冷たい対応をして、ユリウスを振り回す、というプレイスタイルで人気があった。


 俺もその一人で、『俺の可愛いアリスたんの魅力を、骨の髄まで思い知らせてやる……』と呪詛を吐きながら、ユリウスを完全に篭絡させたのち、卒業式に告白させて断る、という鬼畜プレイを繰り返していた。

 かわいそうなので、良い子は本当に真似しないでください。


 


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