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その婚約破棄、ちょっと待った!~乙女ゲームの悪役令息になった俺~  作者: シロヒ


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 そんな喜劇(俺にとっては悲劇だが)を繰り返しながら、俺は辛抱強くアリスたんを見守り続けた。

 幸いなことにマルガレーテやその取り巻きがちょっかいをかけてくることはなく、教室も例の男子生徒が几帳面に見回りしてくれているせいか、アリスたんに被害が及ぶことはなかった。


(良かった……このままいじめの問題が解決すればいいけど……)


 出来ることなら、そのまま婚約破棄の『破棄』をお願いしたいところだが、まだ俺の中にいるヴィルヘルムは取り消しを許さないし、アリスたん自身もそう簡単に受け入れてはくれないだろう。

 とりあえずはこのまま彼女を守りつつ、隙あらば『優しい・怖くない・イケてるヴィルヘルム』アピールをしていくしかない。

 同級生の攻略キャラどもの動向は気になるが、放課後に監視している範囲では、誰かと交際している様子はなさそうだ。


『……お前、割と純粋に気持ち悪いな』

「うるさいです」


 ぼそりと零される体内ヴィルヘルムの嫌味を軽く流しつつ、さあーて今週のアリスたんは~? と次回予告のごとくその姿を捜す。

 図書館に行くとヘルムートの奴が一人で黙々と課題をこなしていた。多分あれは宿題とかではなく、新しい数学の定理とかを証明しているのだろう。


 じゃあこっちかと校庭に向かうと、こちらには誰の人影もなかった。校舎に戻る途中、剣術部で体を鍛えるレオンの背中は見かけたものの、まったく興味のない俺はすたすたと歩き去る。

 念のため教室や食堂、カフェテラスや調理室も覗いてみる。だがどこにも愛しい天使の姿はなく、次第に俺の心には不安と暗雲が渦巻いていた。



(アリスたんがいない……一体どこに……⁉)


 苛ついた様子で廊下をうろつく俺の姿を、他の生徒たちは一体何があったのだろう、と少し緊張した様子で黙視していた。実際のところは、年下の女の子一人見つけられずに半泣きになっているだけなのだが、イケメンはこうした時でも何となく格好いいから得だ。


 仕方なく寮に戻ろうとしていたところ、掲示板の前に人だかりが出来ていた。何気なく近づくと、集まっている大半が女子生徒だ。皆一様に同じポスターを眺めており、俺もつられるように見上げる。


(学内舞踏会のお知らせ……ああ、もうそんな時期か)


 デスデス強制イベントの一つに『舞踏会』がある。

 紳士淑女としてふさわしい振る舞いを身に着けさせるため、学内で行われる大規模なパーティーで、上級生の多くが参加するものだ。


 最終学年である三年生ともなれば、各攻略キャラからパートナーとして指名され、晴れ晴れしい舞台で踊る集大成の場でもあるのだが、一年の時点ではそもそも参加が出来ないか、出来たとしても友達キャラと会話する程度で、大したイベントは起こらない。

 だが俺はそこで、ぽんとひらめいた。


(もしかしたら……アリスたんは自室にいるのかもしれない!)





 灯台下暗し。木の葉を隠すなら森に隠せ。

 オタクを隠すならアニ〇イトに隠せ。

 俺の完璧な推理通り、アリスたんは一年生寮にある自分の部屋にいるようだった。


(入学してからずっと『勉学』と『武芸』しかしていなかったから忘れていたが……舞踏会に備えて『流行』を上げるのは当然じゃないか!)


『勉学』や『武芸』のパラメーターは、普段の授業成績に直接関わるため、俺も最優先で上げていた。

 一方でこの『流行』というパラメーターは、成績にこそ関わらないが決してないがしろにしていいものではない。


 具体的には『流行』を上げることによって、舞踏会やモデルデビューといったイベントに参加出来たり、女友達からの好感度が上がりやすくなったりするのだ。

 友達の好感度が上がれば、特定のプレゼントがもらえたり、気になる攻略キャラを交えたダブルデートが出来たりもする。後者は俺が許しませんが。


(一年次の舞踏会の参加条件は『流行』パラメーター80以上……高いわけではないが、今までまったく上げていないアリスたんでは厳しい数字だ……)


 憧れの舞踏会に行きたくて、頑張っておしゃれを勉強するアリスたん……。シンデレラみたいでものすごく可愛いと思いませんか?


『お前の言い方が気持ち悪い』


 冷たいヴィルヘルムの返事を聞き流しながら、俺は遥か前方にあるアリスたんの自室の扉を眺めた。

 ちなみに何故、部屋にいると断定出来たのかというと、単純に隣の部屋の女子に直接聞いたからである。


『お前さあ、恥って知ってる?』

「お前が婚約破棄を破棄してくれるなら、こんなことしないんだけど?」


 ヴィルヘルムの返事はない。

 こいつ、ここは絶対譲る気ないな。

 しかし彼の言い分も分からないではなかった。二年の俺が一年生の寮にいるだけでも目立って仕方がないのに、ここは女子寮。正直めちゃくちゃ恥ずかしい。

 だがそこは顔のいいヴィルヘルム。悲鳴を上げられるどころか、すれ違うたびに頭を下げられ、ちらちらと好意的な視線を送られていた。羨ましい。


「お前、本当にモテるよな」

『うるせえ、知らねえよ』

「中身はクズなのに」

『クソが!』


 激昂するヴィルヘルムを放置し、俺はうーんと腕を組んだ。


(さすがに、部屋の中まで危険が及ぶことはないだろう……)


 むしろ俺がここで仁王立ちし続けることで、『ヴィルヘルム先輩がアリスティアを狙っている』という噂が立つ方が怖い。せっかく好意をひた隠しにしているのに、マルガレーテの耳にでも入れば、これまでの努力が水の泡である。


『今まで隠してるつもりだったのかよ』

「いちいちうるさいな――あ、そうだ」


 そこで俺は、ふとあることを思いついた。急いで二年生の寮にある自室に戻ると、机上に置かれていた端末を手に取る。タブレットのような薄型の液晶画面に、見慣れたショップ画面が写り込んだ。


「あったあった」


 それはデスデス内のアイテムが購入出来るウェブショップだった。ゲーム内の通貨を使って、育成アイテムや時短アイテムなどを手に入れる。

 中には攻略キャラにプレゼントするための品物もあり、贈り物を上げて好感度を上げるのも攻略スタイルの一つだ。


 俺は手慣れた様子で、すいすいと画面をスクロールしていく。下にあるものほど高額な商品なのだが、やがて現れたページで俺は再びううんと首を傾げた。


「どれにするかな……」


 画面に並んでいたのは、舞踏会用のドレスだった。三年のイベントでは着用が必須となるため、いつかはドレスを購入しなければならない。


 ただこれがとてつもなく高い。

 デスデス内でお金を稼ぐ手段としては、街に下りてカフェでバイトをするか、勉学を上げて家庭教師の仕事をするしかない。

 だがどちらもある程度のパラメーターが必要となるため、大抵は二年生にならないと始めることすら出来ない。


 そのため一年生の時点でドレスを買うことは、ゲームシステム的にはほぼ不可能なのである。ちなみに三年になってもドレスを買えないと、舞踏会イベントは起きずに終了する。悲しい。


(だが俺は重課金兵。アリスたんを着飾らせることに関して一切の妥協をしない男)


 お金が無ければ、お金を買えばいいじゃない。

 某王妃のような悪役セリフを吐いてしまったが(ちなみに王妃様はあのセリフ、実際には言っていないらしい)、その言葉の通り――(ゲーム内)通貨が無ければ、(リアルの)マネーで買えばいいのだ。


 あまたのソシャゲと同様に、デスデスにも課金要素がある。もちろん比較的優しい方ではあるが、期間限定衣装やアクセサリーがあると分かれば、チャリンチャリンとお布施するのがアリス教信者の務めである。


(一年生の時からドレスを着てもらえれば、最低でも三着は拝むことが出来る……ああーっ、悩む! どれだ、どれにすればいいんだ!)


 実際のところ俺は一年先に卒業してしまうのだが、そこはこの顔と権力で何とかすることにして。

 まあ要するに、舞踏会を楽しみにしているアリスたん(と俺の欲望)のために、ドレスをプレゼントしようと思い至ったわけだ。



 

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