表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/21

最終話「毎朝」おひさまとMoonlight!

 伝統と文化の街、倫敦。

 この物語は、倫敦のちいさなお屋敷を舞台にお届けしてきた。

 9歳のちいさなメイドちゃんと、お年を召した奥様の、1年間の日常です。


 ぱちり。

 倫敦の象徴はビッグベン。

 お屋敷は時計塔のお膝元。

 タイム・イズ・マネーは紳士の証。

 メイドちゃんは優秀なメイドなので、体内時計が極めて正確です。

 本日もAM6時ピッタリに起床。鳴る前に目覚ましを止めてしまいます。

「朝ごはんっ」

 起き上がったら第一声。腹時計とて体内時計、いったい何に劣りましょうや。

 階段下の使用人部屋を出て。

 顔を洗って冷たくて驚き。

 歯を磨いている間に頭が温まり。

 使用人部屋に戻りゆき、小さいクローゼットを開けて。

 クラシカルなメイド服を取り出します。

 パジャマをベッドに放り出し、ワンピース、エプロンをまとい。

 ヘッドドレスを着けたら完成。

 台所へ移動します。

 お屋敷中が、まだひんやり。

「おはよう、わんわんちゃん」

 大きなむく犬わんわんちゃんは、薄目を開けてもまた眠り。

 メイドちゃんは老犬を迂回。

 耐熱トレイを取り出します。

 ついで冷蔵庫をあけて。

 ソーセージ、卵を取り出します。

 ベイクドビーンズの缶詰も出したら。

 トレイに四分の一あけて。

 トレイのへこみに卵を割り入れ。

 ソーセージには穴を空け。別のへこみに2本入れ。

 食パンを薄くスライス。2枚。

 オーブンレンジに全部を入れて。

 スイッチオン。

 ベイクドビーンズの残りは空き瓶、蓋を閉めたら冷蔵庫。

「去年までいらなかったのにねえ」

 もう、ベイクドビーンズがないと足りません。

「あっ」

 窓からの視線に気づきます。

 相変わらずのにゃんにゃんちゃんです。

 巨体に向かってあっかんべ。にゃんにゃんちゃんは大あくび。

 のそりと立ち去る宿敵です。まったくまったくふてぶてしい。

 気を取り直して。

 冷蔵庫からマーマレードと牛乳を出し。

 テーブルにセットし、耳を澄ませば。

 オーブンレンジが鳴りました。

 ふつふつと香り高いベイクドビーンズ。

 柔らかそうなソーセージ。

 焦げ目のついた目玉焼き。

 まったく見事なカリカリトースト。

 またもおなかがぐうと鳴ります。

 せっかち男は嫌われる。

 ここで余裕を見せるが紳士。

 英国紳士のメイドちゃんは、牛乳をマグカップに注ぎ。

 ココアを投入、レンジをオン。

 やっと朝食を食べ始めます。

 マーマレードのオレンジが、小さなお日様みたいです。

 チンと鳴りたる、電子レンジ。

 熱いココアのできあがり。

 3月の朝にピッタリの、完全無欠の朝食です。

 できてしまえばパクパクもぐもぐ。

 育ち盛りのメイドちゃん。お皿はすぐに空っぽに。

 ふくれたおなかをさすります。

「そろそろかなあ?」

 わんわんちゃんに聞いてみます。

 素知らぬそぶりでまた寝ます。

「ねぼすけ-」

 罵倒は無視され、待ち焦がれ。

 とうとうベルが鳴りました。

 チリリーンと響く清い音。

 奥様がご起床されました。

 メイドちゃんはトレイをシンクに。

 再度牛乳を取り出します。

 真っ白なカフェオレボウルに注ぎ。

 レンジに入れて、1分半。

 熱いミルクにコーヒーを。スプーン2杯ときっちりはかり。

 弧を描くように溶かし入れ。

 できたカフェオレおぼんに乗せて。

 しずしず階段を上ります。

 重厚なドアをコンコンノック。

 チリリーンとまたベルの音。

「奥様、おはようございます」

 80歳の奥様は、ベッドの中でしどけなく。

 タブレットから手を離し。世界の新聞チェックをとめて。

 おでこにキスしてくださいました。

「おはよう。ユーリ、今朝もいい子ね」

 にっこり微笑む気高さよ。

 朝食のカフェオレをすすられます。

 白くなった赤毛がこぼれていて、メイドちゃんは昨今ドキドキします。

 ふと、奥様が見つけます。

「袖のボタンはどうしたの?」

 メイドちゃん、あれれ、と気づきます。

 袖のボタンがありません。知らぬ間に消えています。くるくる回って探します。無くしてしまったのでしょうか。引っかかってはいませんか。

 オロオロ回るメイドちゃん。回っても落ちてきてくれません。

 たいへんたいへん。

 せっかくいただいたお仕着せですのに。

 面目次第もございません。

 (こうべ)を垂れるメイドちゃん。

 されど奥様はお喜び。

「また大きくなったのね」

 メイドちゃん、すぐさま得意になります。

「そうです。僕は大きくなりました。もうすぐ大人になるのです。大人になったらなんでもできます。奥様の望みだって、みんな叶えて差し上げます」

 鼻高々のメイドちゃん。奥様はカフェオレを飲み干して。

「待ってるわ。そうね……、とりあえず今は、紅茶を淹れてきてちょうだい」

「はい!」

 ブレックファスト・ティーのお時間です

 毎朝続く、団らんです。

 イースターのお話をしなくっちゃ。


 お仕事 お仕事 メイドちゃんはお仕事

 メイドちゃんはおっきくなるから 無限大


 END

2021/08/29 加筆2021/12/01


 これにて物語は幕となります。

 コロナの流行と共に、人心荒んでゆく世界。

 ちょっと一息ついていただきたくて、ちいさなメイドちゃんを書きました。

 連載中は母の死去などいろいろありましたが(10話から11話は、意識のない母の隣で執筆しました)、無事に幕を下ろせます。

 最後までご覧くださり、まことにありがとうございました。

 またのご来訪をお待ちしております。

 それでは皆様、拍手(評価)でお見送りください!

 ありがとうございました!


浮草堂美奈 2021年 底冷えの始まる奈良盆地にて

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ