五月廿日 その3
『私がそう思えば、天之川さんに不利益になるように立ちまわることも可能だということです』
『……どうして、あなたがそれを持っているんですか』
生徒会室。副会長の一色は、黙々とパソコンのキーボードを叩いていた。
会長は学校を休んでいる。当然、生徒会にも来ない。漆巴守も来ていないので、一色はここしばらく一人だ。
こなすべき雑用や目を通すべき書類は、入り口から一番遠くの机に高く積み上げられている。というのも、一色がパソコンで作業しているのは、それらの雑用とは無関係。黒地の背景には何やらアルファベットの文字列がぎっしりと並んでおり、目の前の人間に何かコマンドを打つように促している。そして、彼がそれに応じてキーボードを叩く度に、アルファベットの文字列は何行にもわたって伸びていく。
生徒会室に彼一人なのに誰かの話し声が聞こえるのは、何も彼の頭がおかしくなったからではない。その声の音源は、彼がいつも使っているパソコンの隣に置かれたスマホからだ。彼は持ち前の技術を活かして、各教室に盗聴器を設置してある。そこから拾った音を鳴らして、漆巴守と衿川のやりとりを聞いているのだ。
暫く経つと、黒地に白文字という画面から一転、彼がエンターキーを押すのと同時に画面に数枚の写真、そしてそれに追記されるようにいくらか文字列が表示される。
「なるほど、そういうことですか」
一色が小さく呟く。その声を聞く者はいない。
『天之川さんのパンケーキを、私にも食べさせてもらえませんか?』
スマホのスピーカーから衿川の声が聞こえた。かなり小さな声だが、彼のお手製の盗聴器とその制御プログラムは、見事に二人の声だけを抽出してみせた。
「そろそろ頃合いですね」
スマホの盗聴器との接続を切り、LI○Eを立ち上げる。登録されている連絡先がいくらか表示される中、『漆巴守 卯美々』と書かれた連絡先をタップする。慣れた手つきでフリック入力のキーボードを操作し、――送信。
「もうすぐ会長が目を覚ましますよ、お嬢」




