第103話「美濃の謙虚なサムライ」
土曜日なので第103話。
投稿が遅れました。休暇から帰ったら積み上がってるお仕事がいけないんや……休暇前に片付けたはずなのに……ドウシテ……ドウシテ……
兎にも角にも美濃からの避難民だ。
くのいち侍女おふゆ経由で届いた情報によれば取り急ぎ木曽川を渡河して尾張に付いた美濃の避難民は千や二千じゃきかない数らしい。正確な数は集計中、というか続々と増えていて収拾を付けるのが大変なのだとか。
郡上八幡の防衛線を突破した魔物の軍勢、軍勢って言って良いのかはしらんけどとにかく魔物たちは中美濃にある稲葉山方面に突き進んだらしく、道中の城や町は壊滅的な打撃を受けているものの西美濃や東美濃は無事らしい。
つまり、中美濃の生き残りの民が着の身着のまま尾張や西美濃、東美濃に避難している状況だ。
「たしか美濃の石高は50万石くらいだったかな?何かで読んだことがある」
それは秀吉が豊臣になってからの太閤検地の数字だったと思うので、50年近く前の今現在ではもう少し少ないだろうけど、まあ参考値にはなるはず。
「石高……ですか?お米の目方の石ではなく……?」
いろいろ考えながらつぶやいたら、計算が得意な商家出身のらんとみきとすずが不思議そうな声を上げる。
そうだった今はまだ石高って単位自体いまいち浸透してないんだった。
「えーと、前世の話なんだけど、天下統一した偉い人が検地して、日ノ本全国のお米の生産量測ったの。その時に1年で1人が食べるお米の量を1石って決めたのね。前世だと2俵半ってところだけど、今はなんか小さいから5俵くらいかな?まあとにかく、その時に美濃を測ったのが50万石くらいかなって」
「はぁ。天下」
「すごいこと考えるんですねえ」
「とすると、美濃に住んでる人は50万人くらいってことです?」
三者三様の反応を見せる。商家の娘だけあって鋭い見方をする子もいる。さすがだね。
さて、1石=1名の人口とすると美濃の人口は50万人としよう。
美濃は中美濃、東美濃、西美濃、奥美濃の4つに分けられる。
すごい雑に人口を4分割すると中美濃の人口は12万5千人。
中美濃は平野だから大部分が住んでるだろうし20万人とかが良いかな。
その半分が避難できなかったとして、10万人の避難民。
そのうち3分の1が尾張に逃げてくるとしてもざっくり3万人。
彼らを1年食べさせるのにお米だと3万石必要だ。
ちなみにこの計算はらんとみきとすずが5分ほどで試算してくれました。大変有能で帰蝶ちゃんうれしいです。
それはともかく1年で3万石て。
1石のお米がたしか150kgくらいだ。
これまで迷宮で1日にドロップするお米の量が1石くらいと聞いて計算してみたので間違ってないはず。
となると……迷宮のドロップだけなら3万日分。1年分のお米集めるのに80年強かかる計算だ。ドロップだけじゃ絶対に間に合わない。
イナリ教の戦時増産で迷宮に入る人数を増やせば多少はましになるだろうけど、焼け石に水だ。
どうしても植えて増やす必要がある。
迷宮産苗を使ったお米の生産は今年から本格的に植え付けているけどまだ全然足りない。味も良いし収量もこれまでのお米を植えるのがバカみたいに感じるほど沢山取れるそうだけども、今はまだ収穫前なんだよ。
そう、今は8月。旧暦なので西暦で言えば初秋くらい。収穫直前なのだ。
もう少しすれば迷宮米が収穫されるんでなんとかなるだろうけどその前に逃げてきた難民をどうする?収穫までの1~2ヶ月耐えるにしても5千石が必要だ。
いや、ゴミクズ倫理観な戦国時代らしく「美濃人はその辺の草でも食ってろ」とか言っても誰も咎めないだろうけど、美濃の姫である私としてはそれはまずい。
土田御前も美濃と尾張の友好を示せ、とか言ってたし。
すぐに美濃に帰せるとは思えないので、人手不足な尾張北部に入植させてもよいだろうけど、時期的にお米は植えられないし必要なのは今すぐ食べるものだ。
備蓄を放出するしか無い。
でも5千石も余剰あるかしら。
三河やら尾張国内の難民にも出しているのでほとんど無いよどうしよう?
今ある備蓄じゃ信長の後詰に持たせる兵糧で手一杯かな?
もうすぐ収穫とはいえ、どれくらいかかる戦なのかもわからない。
下手すりゃ年単位で戦争する羽目になる。
あかん、総力戦だこれ。
兵糧やら含めて買えるところから買わにゃならん。
……うーんうーん、どこから買おう?
近場なら伊勢とか?
伊勢の北畠さんちは名家すぎて大量の買付とか許してくれるかしら?
うち(織田弾正忠家)は実質大名だけど下っ端も下っ端の成り上がりだから、あちこちに顔をきかせる事は難しいのだ。
見下されて高値をふっかけられそうな気がする。
収穫前の今はただでさえお米の値段が高いのに、さらにふっかけられたらたまらない。
そういえば、こないだ今川さんちの寿桂尼さんとか言う鉄の女から手紙来てたね。
「同盟組んだし、お互いに助け合って生きていこうや。わかるよね?」
みたいなご挨拶のお手紙だった。
掛け軸にして飾りたいくらいの綺麗な字で美文でもあるのになんだかやたらと圧を感じるのは彼女が史実でも女性なのに歴史に名を残すレベルの大政治家だという先入観のせいであると信じたい。
一緒に読んだおさきも土田御前も顔がひきつってたのだけど、きっとそうだ。
ともかく、お互いに助け合おうと同盟組んだのだからいざとなったら今川の伝手を頼るのも一つの手かも知れない。一応お願いの手紙を送っておくか。
今川さんちは寿桂尼に太原雪斎、そして今川義元という優秀な政治家が揃いすぎてるのでお付き合いするのが大変なのだ。
何ふっかけられるかわかったもんじゃないけど背に腹は変えられない。
ああもう!結局お手紙を書く仕事に戻るのか!
そんなこんなで頭を抱えながらお手紙を書くお仕事をしようとした私の背後から、くのいちおふゆが声をかけてくる。
何か続報でもあったのだろうか。
「姫様。前線のニンジャから報せ。
3千の魔物が稲葉山に殺到してるけど、登城口で防戦中。とても上手い侍大将が持ちこたえているけど、長くは持たない。殿は魔物の背後を強襲する機を伺っている、とのこと。
どうも魔物は登城口に殺到しているだけでそれほど強そうでもないみたい。
ただ、他の地域からも魔物が動いているそうだから、後詰の準備を急いで、だって」
「さんぜん……?」
「そう聞いた」
「そんな魔物の群れに突っ込むのノッブ?さすがに死んじゃわない?」
「殿はとても強いしおかしらも一緒だから多分平気」
「で、でも、戦いは数だよアニキ!」
「大丈夫。最悪空いてる別口から稲葉山に登って殿になって城兵を連れ出すって」
「えー……」
「殿が連れてる馬廻りなら魔馬に乗ったまま崖を駆け上がれるって」
「そんな事までできるの?」
「よゆうだって」
すげえな魔馬。なんだか想像してた籠城救援とはぜんぜん違う戦いになってそうだ。
「うん?それならなんでノッブは背後から強襲なんて……?」
とっとと稲葉山城に入って城兵を逃がしたほうが良いんじゃないだろうか。
「城を取られて魔物の巣になったらめんどくさい」
それはそうだけども。
いやまあ戦争の素人な私が考えてもしょうがないのかな。
信長の判断を信じよう。
私には見えない魔物の状況を見て信長がそう判断したならば。
あ、そうだ。
「ところで、この話は平手さまには?」
「別の子がもう走ってる。安心して」
おふゆが相変わらずの眠そうな眼をした無表情でそう言った時、平手のじいが後詰の編成を行っている広間の方から
「殿!?いかん後詰めの集結を急がせよ!はよせい!走れええええ!!」
という絶叫が聞こえてきて、喧騒が激しくなる。
平手のじいだ。じいから見ても無謀な策なんだ。
本当に大丈夫なんだよね信長……!?
「その、おふゆ?稲葉山の情勢は他にはありませんか?」
おさきが遠慮がちに聞いた。
今のところ権三郎殿をはじめ、おさきの親族の消息は何もわからない。
心配だよね……うちの兄様は討ち死にしてしまって、弟たちも消息不明だ。情報が少なくてどうにも心配が募るばかり。大名家な私の親族ですらそうなのだから、下っ端な原田家の消息なんか全然入ってこない。
ところが、おふゆは朗報を持っていたらしい。
「ん。さきパイセンのアニキ様がさっき言ったとても上手い侍大将。要所要所で方陣組んで魔物を受け止めてるって」
「えっ!?」
「兄上が!?」
すごいな権三郎殿!?いかにもモブ武将な顔なのに。
いや顔は関係ないか。
「誰それ?」「外人?」「歌?」ってなった人は最初から読み直したまえよ。
「アニキ様が居るから殿も背後から突撃する気になったみたい。魔物は後ろから突かれる警戒なんて全然してないんだって」
ああ、金床戦術!?
三河でやったのを美濃でも試してみるってこと!?
なるほどそれなら理解した。
それで駄目なら別口から逃がすって事か。
ちなみに、この情報は2時間ほど前の話らしい。
稲葉山城からここまでは40km以上あるはずだけど、レベルアップしたニンジャの脚力でひとっ走りで伝令しているそうな。
提案しておいて何だけど、すごいなニンジャ。
うん?こんなに早く伝令できるんなら前世で言うCIC(戦闘情報センター)みたいな事もできるのかな?情報を集約して指揮を行う戦闘指揮所だ。
つまりは本陣なんだけど、今は前線にほど近い場所に置くしか無い。伝令に時間かかるしね。
イナリちゃんとの通信術とか解析できればすごいことになるんじゃないか?
無線機の魔道具だ。
おふだとか水晶玉とか、携帯できる魔道具で再現できたらとんでもない優位が取れる。
なかなか単行本が出ない漫画でも信長がその優位性に気付いてた。
なるほどなるほど、以前も作りたいと思ったけど絶対作りたい魔道具のネタができたね。
さて稲葉山の情報も入って緊張感が増すなか、昼頃になって母ちゃんが目覚めたと報せが入った。
今川家の寿桂尼に送る手紙を書き始めて「一筆啓上」とだけ書いて続きが思いつかずに頭を抱えておさきに呆れた眼で見られていた私はすぐさま母ちゃんの休んでいる客間に向かう。ダッシュで。
別に手紙を書くのが面倒くさくなったわけでは無い。
久々に序盤登場のネームドモブにおもむろにスポットを当ててみる。
ところでそろそろ新刊でないんですかね。
というわけで今回はここまで。
また次回をお楽しみに。




