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新商品の開発に余念がない博之。今度は鳥の塊をたれに付け込んでじっくり焼いてみる。匂いと煙がきつくて怒られるが腹にたまると好評

鳥を使った新しい商品を、そろそろ一つ形にしたい――そう思ってから、博之は暇を見つけては、

あれこれ試していた。

汁にする、丼にする、ほぐして混ぜる。そのあたりはもう慣れている。けれど、今回はもう少し、

見た目からして「おっ」と思わせるものが欲しかった。串を何本も並べる焼き鳥も悪くない。

食べやすいし、子どもにも受ける。だが、逆に言えば軽い。団子みたいに

一本二本つまめる代わりに、腹の芯まで残る感じは弱い。

「もっと、ごついやつがあってもええな」

 そう思って、博之は鶏一枚をまるごと使う形を試すことにした。

腿肉を開いて、筋を軽く切り、そこへつけだれをじっくり染み込ませる。

醤油を立て、少し甘みを足し、にんにくも入れる。いつもの汁や丼より味は濃い。

汗をかいた後や、腹が減った時に「これ食うたら持つな」と思えるような、そんな力のある味を狙った。

それを炭火の上へどんと置く。

 串のように細かく返すのではない。一枚ごと、じっくり焼く。皮が縮み、脂が落ち、

たれが炭に垂れてじゅっと鳴るたび、濃い匂いが立ちのぼった。甘辛さの中に

にんにくの立った香りが混じり、庭先から託児所の方まで流れていく。

「お父ちゃん、何作ってんの?」

 真っ先に寄ってきたのは、やはり託児所の子どもらだった。木切れで遊んでいた連中が、

鼻をひくつかせながら集まってくる。焼き台の上に乗っているのが、いつもの串と違って、

鶏一枚まるごとだとわかると、なおさら目を丸くした。

「でかっ」

「それ、一本ちゃうやん」

「鳥そのまま焼いてるみたいや」

 その言い方に、博之は少し笑った。

「まあ、そんなもんや。まだ売りもんになるかは知らんけどな」

 そこへお高も出てきて、煙を見て顔をしかめた。

「ちょっと、あんた。それ、煙なんとかしなさいよ」

「炭火やから、こうなるんや」

「こうなるんや、やないわ。匂いはええけど、煙がすごすぎるねん」

 たしかにその通りだった。鶏一枚を丸ごと焼くぶん、串より脂もたれも落ちる。

煙も匂いも強い。焼く場所は今度考えなあかんなと思いつつも、もう遅い。

匂いにつられて、子どもだけやなく大人まで寄ってきた。

「なんや、ええ匂いやな」

「また博之さん、新しいもん試してるんですか」

 焼けたところで、博之は一枚をまな板にのせた。串のようにそのまま渡せるものではない。

ごついぶん、子どもには食べにくい。だから包丁で食べやすく切り分けていく。

皮目は香ばしく、身は中までたれが入っている。ひと口大にして皿へ置くと、

子どもらが身を乗り出した。

「熱いから、順番やぞ」

 そう言って少しずつつまませると、最初に食べた子がすぐ目を見開いた。

「これ、味濃くておいしい」

「やわらかい」

「なんか、いっぱい食べた感じする」

 その言い方が、博之にはちょうどよかった。そう、そこなのだ。焼き鳥は食べやすい。

一本二本、気軽にいける。けれど、この一枚焼きは食べにくい代わりに、腹にたまる。

串より手軽さはないが、食った感じは強い。見た目もごつく、ひと皿に切って出しても

「肉を食ってる」感じがはっきり出る。

 大人たちにも回すと、反応はやはり悪くなかった。

「これ、酒にも合うけど、飯にも合いますね」「串より手軽やないけど、そのぶん腹に残るな」

「若い衆にはこっちの方が受けるかもしれへん」

 母親たちは苦笑いである。

「いつもすいませんねえ」

「こんなん覚えられたら、家で普通の焼き魚出しても負けるんですよ」

「ここの味、どんどん覚えてしまうから、こっちは料理するの苦労するんです」

 呆れながらも、子どもがうれしそうに頬張るのを見る目は柔らかい。

 博之は、切り分けた鶏をもう一度見た。焼き鳥とは違う。食べやすさでは負ける。

だが、ごつさがある。腹にたまる。ちょっとした軽食ではなく、ちゃんと一品になる力がある。

 煙の始末と焼き場は考えものや。けれど、この山賊焼きみたいな一枚焼きは、

串とは別の武器になるかもしれんな――そう思いながら、博之は炭の上で次の一枚を返した。

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