37話「洗濯乙女」
「よし、夕刻だ」
川で冷やしたスイカを引き上げに行こうと、俺は護衛騎士を一人だけ連れ、残りは全部別邸で待つミルシェラにつけた。
川に到着すると 夕陽を照り返す川面がキラキラと輝いていて、スイカもいい感じに冷えてそうだったので、なかなか映える映像になるかもと、すかさずタブレットで撮影した。
…… 今度はこっそりとペットボトルで釣りの仕掛けでも使ったら何か取れるかな?
例えばウナギとか。
確かあの原作の作品内でウナギを食べてたシーンもあったからここの川にもいてもいいと思う。
俺がシャツの袖とズボンの裾を捲って川に入ろうとした時に騎士が声をかけてきた。
「公爵様、濡れますから私が代わりに果物を取りますよ」
「いいよ、濡れた方が涼しいから」
「そ、そうでございますか」
そう断って俺は自ら裸足になって冷たい水の中に入ったが、自分にも水場用にサンダルを持って来ようと思った。足の裏を怪我しないように。
そういやサンダルで思いだしたが、妻のミュールも日本で買う予定だった。
「よし」
スイカを回収して別邸内に戻り、俺は娘と護衛達とで夕涼みにスイカを切ってウッドデッキで食べた。
瑞々しくて美味しい。甘さは少し足らなかったけど、塩をかければ美味い。
◆ ◆ ◆
翌朝。
──護衛と共にまた川のそばを散策していると、洗濯してる若い女性がいた。しかもタライの中で足踏み洗いしてる。生足!!
うーん、いいね! 異世界の田舎生活の光景も悪くないと、俺は声をかけてみることにした。
「ちょっと、君、頼みがあるんだが」
「え?」
「銀貨をあげるから、君が洗濯する様子をその、この魔道具で記録してもいいだろうか?」
実際は魔道具ではなく、タブレットだが。
「は? え?」
いきなりの交渉に困惑する洗濯乙女。
「いや、その、絵になるから」
俺の今のアバター的なケーネストのボディはイケメンなので、ぶっちゃけこのような不審者発言をしても、結局乙女は顔を赤らめつつ、銀貨を受け取り了承してくれた。
そして動画を撮ってから、ほくほくの俺は別邸に戻る為に馬車に乗る。
娘のミルシェラはまだ寝ているので、同乗者は魔法使いだ。
「快く了承してくれてよかった……」
俺がポツリと呟くと、魔法使いが口を開いた。
「公爵様が貴族の身なりで頼めば平民は断れませんよ」
!!
「あ、そっちか……銀貨に釣られたか俺、いや私がかっこいいからかと」
「そ、そちらの理由もあるにはあるでしょうけど」
魔法使いは苦笑いだし、俺もやや恥ずかしくなって笑った。
しかし障害者1級で障害者年金が月に八万くらいくらい入るとて、色々介護の費用はかかるから自分でも多少稼ぐ為だ。
こちらの通貨なら手に入るし。
ミシンがないためこちらの衣装店のオーダー服もそうそう上がって来ないから、既製の服やアクセサリーも一着持って行く。
「公爵様、次はどちらへ?」
「市場で食材を買う」
後は海産物に豚肉とか丸鶏とかも魔法の袋に入れていく。
お世話をかけている姉の家の食費が浮くだろうし、姉の嫁ぎ先は弁当屋をやってるから、なんなら多すぎた場合はしれっと日替わり弁当にでも使ってくれてもいい。
市場では新鮮な食材が沢山あった。
特に果物の香りが爽やかだ。思わず芳醇な香りの桃を購入。
食材の他にもハンドメイドらしき鳥の巣箱や餌入れ等も見つけた。
別邸に巣箱を置いたら可愛い鳥が来てくれるかもしれないと思いついて購入。
スローライフ感を感じたいし、生活に彩りを添えてくれそうだ。
実際、別邸に戻って巣箱を設置したら頭と尾が赤く鮮やかな色のハチドリが来ていた。お前には特別に砂糖水をあげよう。
ハチドリは見た目が可愛いから、ミルシェラが喜ぶ。




